自動車の遮音に「音響メタマテリアル」への期待【先読み!研究開発トレンド】

2025/10/14
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Chematelsの編集チームの一員「シーエムシー出版」の編集担当者より、新刊書籍の出版タイミングに合わせて最先端の研究開発の中身を「先読み」できる記事をお届けします。今回は、自動車の静粛性向上材料の研究開発についてです。書籍内容のうちこの記事では「音響メタマテリアル」にフォーカスします。自動車に求められる軽量・薄型化と静粛性向上には相容れにくい部分がありますが、それを突破しうる材料として注目が高まっています。特に自動車メーカー、自動車部品メーカー、防音材メーカーの設計・開発・研究者の方々へ向けて紹介したいと思います。

“CASE”で進む自動車業界変革、電動化は静粛性向上に寄与

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図1:自動車の静粛性が「快適で豊かな移動体験」をもたらす

自動車業界は、「CASE」という概念の登場によって100年に一度といわれる大変革期を迎えています。CASEは、以下の四つの言葉の頭文字をとった造語です。

  • Connected(コネクテッド):インターネットと接続された自動車のデータ活用
  • Autonomous(自動化):自動運転技術の実用化
  • Shared & Services(シェアリング&サービス):カーシェアリング
  • Electric(電動化):電気自動車(EV:Electric Vehicle)の普及

自動車業界がCASEで目指すのは「快適で豊かな移動体験」の実現ですが、そこで重要となる課題が静粛性の向上です。なぜなら、次に述べるように、自動車が進歩するほど騒音が顕在化するからです。

求められる軽量・薄型化、相容れにくい静粛性向上

近年、環境問題への対応から電気自動車やハイブリッド車の割合が増えています。これらの自動車では、これまでエンジンに起因する騒音で隠されていたロードノイズや風切り音などの騒音が顕在化しており、その騒音対策が必要となってきています。中でも、車室内の騒音に大きな影響を与える500Hz未満の周波数帯域での対策が課題になることが多くなっています。

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図2:自動車で使われる防音材の例

ガソリンエンジン車の時代より騒音対策として、吸音材や遮音材などの防音材料が多用されてきました(図2)。しかしながら、これらの材料は低周波域においてその性能が著しく低下する傾向があります。一般的に、吸音材は音の波長と比べて十分な厚みがないと音を吸収できません。また、遮音材は基本的に「単位面積あたりの質量が大きいほど遮音できる」という質量則に支配されます。こうしたことから、厚く重くすることでしか性能を向上できません。従って、燃費や電費の向上のために軽量・薄型化の要求が高まる車両設計において、従来材料では限界が生じつつあるのが現状です。

そこで、低周波域で「質量則を超えた遮音性能」を持つ軽量な防音構造が求められてきました。このような背景の中で、注目を集めているのが「音響メタマテリアル」です。

「音響メタマテリアル」で質量則を超越、自動車への応用も

メタマテリアルとは、「自然界を超越(meta)した人工的な材料(material)」という意味の造語です。電磁波や光、音波などの、対象とする波よりも小さな「メタ原子」と呼ばれる構造体が周期的に配列した材料であり、波動の伝播挙動を制御することで自然界の物質では見られない、負の誘電率、透磁率、屈折率などの特異な物理現象を示すことから注目されています(図3)。例えば、可視光を制御したい場合は、可視光の波長よりも小さなサイズ・間隔でメタ原子を設計します。

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図3:自然界にある物質とメタマテリアルでの光の屈折。メタマテリアルは普通では曲がらない方向に光を曲げる「負の屈折率」をもたらす

メタマテリアルは透明マントや完全レンズなど、もともと電磁気分野において注目されてきました。そうしたなか、香港科技大学の沈平(Ping Sheng)氏のグループが2000年、世界初となる「音響メタマテリアル構造」を提案しました。同グループはさらに2008年、「錘付き膜型音響メタマテリアル構造」を提案し、500Hz以下の低周波域において質量則をはるかに超える軽量遮音構造について報告しました。

音響メタマテリアルは、音波の波長よりも微細な構造や形状を組み合わせることで、特定の周波数帯の音に対して高い遮音性能や吸音性能を発揮することができ、かつ軽量です。近年、従来の防音材として用いられてきた繊維材やフォーム材より軽量で薄い防音材として利用できる可能性が注目されており、自動車から建築材料までさまざまな防音材への適用が研究されています。

自動車の制振・遮音・吸音材料について解説した技術書を刊行

2025年9月に刊行した『自動車の静粛性向上材料の最新動向』は、以下のように構成されています。

「第1章 自動車用制振・遮音・吸音材料の開発」では、まず自動車の制振技術について解説し、不織布吸音材、ノイズキャンセリング機能を有する防音材料、高減衰材料、微細多孔板、熱可塑性ポリオレフィンを用いた制振材料、シリカエアロゲル/セルロースナノファイバー複合軽量遮音材、ナノファイバー吸音材など、さまざまな吸遮音材の開発動向を紹介します。

「第2章 自動車用吸音・遮音材料の性能予測」では、高周波音響特性の予測技術、吸音・遮音性能の評価および予測技術、音響材料の数理モデルとシミュレーション、ケルビンセルを用いたウレタンフォームの吸音解析について説明しています。

「第3章 次世代自動車」では、次世代自動車の振動騒音と防音材、EV化で留意したい騒音と対策、車両電動化により顕在化する騒音・振動への対策、電動車向けパワートレインにおける振動・騒音の発生要因と改善手法について述べています。

「第4章 音響メタマテリアル」では、最近多方面で実用化されつつある音響メタマテリアルについて、基礎理論と近年の研究開発動向、音響メタマテリアルの遮音解析、遮音性能向上を実現する音響メタマテリアル、音響メタマテリアル防音構造の開発、局所共鳴(LR:Locally Resonant)型音響メタマテリアルなどを説明しています。

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図4:『自動車の静粛性向上材料の最新動向』2025年9月24日発行

『自動車の静粛性向上材料の最新動向』は、2025年9月24日発行です。詳しくは、こちらの案内をチェックしてみてください。誌面サンプルもご登録の上、ご覧いただけます。

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井口 誠(いぐち まこと)

シーエムシー出版大阪支店。編集者。エレクトロニクス、新材料、医薬品、バイオテクノロジー、環境技術、エネルギーなど、産業界で注目されている旬なテーマを書籍化しています。

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