もう一つの臓器!「腸内細菌叢」がもたらす代謝産物に研究の熱視線【先読み!研究開発トレンド】

2026/01/13

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Chematels編集チームの「シーエムシー出版」の編集担当者より、新刊書籍の出版タイミングに合わせて最先端の研究開発の中身を「先読み」できる記事をお届けします。今回のテーマは「腸内細菌代謝産物」。腸内環境を整えることは、単にお腹の調子を良くするだけでなく、全身の健康やメンタルケアにもつながると考えられています。その中心的な役割を果たす腸内細菌代謝産物をめぐる研究が進んでいます。

脳と腸の情報交換に腸内細菌が関与

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図1:脳腸相関と腸内細菌の存在

「脳腸相関」という言葉が示す通り、脳と腸は常に情報交換を行い、お互いに密接に影響を及ぼしあう関係にあります(図1)。近年の研究により、脳腸相関には腸内に存在する細菌やその集まりである細菌叢が関与していることが分かってきたため、「脳-腸-微生物相関」という概念に発展しています。

腸内細菌がもたらす代謝産物が宿主の生体機能に深く影響

腸内細菌は、食事などの外来由来成分を代謝することで、さまざまな生成物を腸管内で産生しています。これを「代謝産物」といいます。これらの代謝産物の一部には、宿主の生体恒常性の維持や疾患の発症などとも関連性があることが明らかになってきました。腸内細菌がもたらす代謝産物が生体調節においてどのような役割を果たすのかが解明されれば、疾患の予防や治療に役立つと期待されています。

これまで腸内細菌やその代謝産物をめぐって、下記のような科学的知見が得られています。

  • 「もう一つの臓器」としての腸内細菌:人間の腸内には50兆個以上の細菌が生息しており、その遺伝子情報の総量は宿主のそれを上回っています。この膨大な微生物群は、ひとつの臓器のように機能しています。
  • 生理活性物質の産生:腸内細菌は、食物繊維などの食事由来成分や宿主由来の物質を代謝する過程で、生理活性を持つ多様な化学物質を産生します。
  • 宿主への影響:腸内細菌がもたらす代謝産物としての生理活性物質は、血流などを介して全身に作用し、免疫系の調節、エネルギー代謝の制御、さらには脳・神経系にまで影響を及ぼします。代表例として短鎖脂肪酸が挙げられます。食物繊維を原料に産生され、腸上皮細胞のエネルギー源となるだけでなく、腸管バリア機能の維持や過剰な炎症の抑制に寄与し、健康維持に重要な役割を果たしています。

図2として、代表的な腸内細菌代謝産物とその役割を示します。

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図2:代表的な腸内細菌代謝産物と機能

腸内細菌代謝産物に関する最新の研究動向をまとめた解説書を刊行

新刊『腸内細菌代謝産物の生体調節機能』は、急速に発展するこの研究分野について、次の四つの主要な視点から体系的に構成された一冊となっています。

一つ目は、「代謝産物の多様性」です。脂質、アミノ酸、糖質、硫黄化合物など、腸内細菌が産生する多岐にわたる代謝物を網羅的に解説しています。

二つ目は、「分析技術」です。メタボロミクスや質量分析、ラマン分光法といった先端技術を用いた代謝産物の測定・解析手法を紹介しています。

三つ目は、「生体調節機能」です。代謝産物が免疫制御、エネルギー代謝、腸管バリア機能、さらにはアルツハイマー病や肥満といった特定の疾患にどのように関与するかを詳述しています。

そして、四つ目が「生産と応用展開」です。基礎研究の知見を基に、ポストバイオティクス*1や機能性食品素材として特定の代謝産物を工業的に生産・応用するための最新の取り組みを提示しています。

本書は「基礎研究と応用研究の橋渡し」を目指したものです。研究者、技術者、そして産業界の関係者にとって、腸内環境と健康の関係性を立体的に理解するための「有益な羅針盤」になると思います。

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図3:『腸内細菌代謝産物の生体調節機能』2025年11月28日発行

『腸内細菌代謝産物の生体調節機能』は、2025年11月28日発行。詳しくは、こちらの案内をチェックしてみてください。

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注釈

*1:ポストバイオティクス
国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会(ISPP:International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics)の定義によると、「宿主の健康によい効果をもたらす無生物形態の微生物や、それら微生物の細胞構成成分を用いた調製物」を指します。


池田 識人(いけだ しきと)

シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

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