「熱を制す」は電子機器を制す! 熱設計の材料・技術が進歩中【先読み!研究開発トレンド】
2025/08/27「先読み!研究開発トレンド」では、Chematelsの編集チームに加わった技術系専門書出版社「シーエムシー出版」の担当者が、書籍出版のタイミングに合わせて、最先端の研究開発の中身を「先読み」できる記事をお届けしています。今回は、「電子機器の熱設計・熱対策」がテーマの書籍からです。ムーアの法則による半導体の高性能化やデバイスの小型化、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の普及により、機器の信頼性を支える熱設計・熱対策の重要性が高まっています。さらに、人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術の急成長に伴い、データセンターの省エネルギーが義務化される予定もあります。「熱」問題は現場での技術課題だけではなく、社会全体の課題へと拡大し、熱設計や熱対策の存在意義が大きく変わってきています。この記事では、現在の「熱」問題のポイントや、出版した書籍の見どころを紹介します。
熱による不具合、人への障害などが増加

図1:温度センサーで示される電子機器の熱分布
エレクトロニクスの熱問題は、1940年代の真空管コンピューターの発明以来、現在まで続いていますが、「古くて新しい問題」といわれるほど、発熱が機器に与える影響の中身は変わってきています。
狭義の「熱による不具合」を分類すると、次の5項目になります。
① 部品の機能的障害
② 部品寿命の低下
③ 機械的障害
④ 化学変化の促進による障害
⑤ 人に対する障害

図2:狭義の「熱による不具合」の分類
以前は、熱設計の目的は主に②~④でしたが、最近では①や⑤での不具合が見られるようになりました。集積回路の微細化が進みリーク電流が増えたため、熱暴走の危険が増しているのです。また、スマートフォンのような高性能機器を持ち歩くようになったため、人に対する影響、例えば低温やけどのリスクを最小限にとどめる必要が出てきました。
一方、EVでは、広義の「熱による不具合」が問題になります。「広義の」とは、EVを構成する電池・モーター・電子部品・空調システムのそれぞれが単独で起こす熱の問題だけでなく、各部品の熱の問題が互いに影響し合い、EV全体として複雑な熱管理(サーマルマネジメント)の課題を形成していることを指します。たとえば、EVに使用されるリチウムイオン電池は温度が高いと寿命が短くなり、低いと出力不足になるので、インバーターやモーターで発生した熱をうまく使って、バッテリーの温度を制御することで電費を向上させることが重要です。そのための広義の熱設計こそが、各社が差別化をするキー技術となっています。
熱流体シミュレーションの活用で温度予測が容易に
機器が通信機能を備え、多くのデータがネットワークを経由してやり取りされることで、端末側の熱負担も厳しくなっています。ネットワークの普及により、全てのエレクトロニクス領域にわたって熱の対策が必要になっているのが現状です。半導体や実装技術の進歩により、熱設計は次のような変化を余儀なくされました。
① 高発熱デバイスの冷却が必要となった
② ファンレス密閉機器が増え筐体放熱が必須になった
③ 小型部品の基板による放熱対策が重要になった
この三つの変化をまとめてあるのが図3です。

図3:半導体実装技術などの変化に伴う熱設計の変化
(画像提供:サーマルデザインラボ国峯尚樹氏)
こうした変化は熱設計の難易度を上げていますが、一方で熱流体シミュレーションが広く設計に活用されるようになり、容易に温度予測が可能となりました。設計者にとって強力なこの手法の精度をさらに高めるため、入力データの精度向上や正確な温度設計技術が求められるようになっています。
AI技術に立ちはだかる「冷却」の壁を材料と技術で乗り超える
AI技術の急激な普及により、データセンターやサーバーの消費電力が問題になっています。経済産業省は2022年4月、データセンター業などの事業者を対象に、データセンターの電力使用効率(PUE:Power Usage Effectiveness)*1を目標年度の2030年度に1.4以下にするという目標を設けました。
そして2025年6月、同省は、最先端技術の開発加速などに向けた取り組みとして、2029年度以降の新設データセンターを対象に、稼働2年経過後のPUEが1.3以下となるように運用する義務を定め、基準を達成できなければ罰則を科すことを示しました。
こうしたことから、いかに冷却に使用する電力を低減するかが今後の最大の課題の一つになると見込まれています。
冷却技術に大きなステップアップは少ないものの、熱伝導放熱材料(TIM:Thermal Interface Materials)やヒートスプレッダを中心とした高放熱材料の開発、ヒートパイプやペーパーチャンバーなどの相変化デバイスの開発、また、冷却ファンやヒートシンクの小型高性能化など、冷却技術の基盤は着実に進化しています。これらを組み合わせた熱設計技術、熱流体シミュレーション活用技術なども日々更新されています。進歩や更新のある技術をキャッチアップし、製品開発に採り入れることが不可欠です。
熱設計・熱対策手法の「いま」が分かる解説書を出版
新刊『最新の熱設計・熱対策手法-冷却デバイス・放熱材料・シミュレーション-』では、熱対策に使用する材料の最新技術をはじめ、各種の電子部品ならびに他製品における熱対策やシミュレーション技術まで、多角的な視点で熱の問題と解決に迫っています。
本書のとりわけの読みどころを紹介します。
本書は3編で構成され、各編とも最新動向を第一線で活躍中の研究者・技術者が解説しています。
「第Ⅰ編 最新の熱設計と熱対策」では、放熱材料や冷却デバイスなどの製品、また半導体やプリント基板の熱設計・熱対策の技術について、現状を詳述しています。
「第Ⅱ編 製品における熱設計・熱対策手法」では、EVや車載機器、サーバーや太陽光発電装置などの情報通信機器の熱設計・熱対策について、最新動向を解説しています。
「第Ⅲ編 シミュレーションと計測技術」では、熱流体シミュレーションの最新動向と小型化で難しくなった温度測定などについて、最新動向を詳しく説明をしています。
現代の電子機器を取り巻く熱問題に直面されている方々のブレークスルーのヒントが詰まった一冊です。

図4:『最新の熱設計・熱対策手法-冷却デバイス・放熱材料・シミュレーション-』2025年7月31日発行
『最新の熱設計・熱対策手法-冷却デバイス・放熱材料・シミュレーション-』は、2025年7月31日発行です。詳しくは、こちらのご案内をチェックしてみてください。
脚注
*1:電力使用効率(PUE:Power Usage Effectiveness)
施設全体の消費電力をサーバーなどのIT機器の消費電力で割った値。小さいほど効率が高いことを示します。
為田直子(ためだ なおこ)
シーエムシー出版宣伝部(大阪)。2007年に入社以来、制作部でのレポート制作や雑誌『月刊機能材料』の校閲を経て、2025年7月より宣伝部に所属。大学時代は国文学を専攻しており、日本語表現の美しさ・言葉の力に無限の可能性を感じています。どんな方にも分わかりやすく、「為」になる情報を大阪の地から発信してまいります。

