深共晶溶媒が次世代サステナブル技術を牽引!【先読み!研究開発トレンド】
2025/08/26「先読み!研究開発トレンド」では、Chematelsの編集チームに加わった技術系専門書出版社「シーエムシー出版」の担当者が、書籍出版のタイミングに合わせて、最先端の研究開発の中身を「先読み」できる記事をお届けしています。今回は、「深共晶溶媒(DES)」がテーマの書籍から。深共晶溶媒は、低コスト・低毒性の物質を混合・加熱するだけで比較的簡便に生成でき、低揮発性や生分解性があるため環境負荷が低く、既存の有機溶媒に代わる次世代溶媒の一つと注目されています。触媒や分離・抽出、また医薬品製造など多くの分野で深共晶溶媒の応用が期待されています。この記事では始まったばかりの深共晶溶媒の研究の概要と、出版した書籍の見どころを紹介します。
特異な物性…デザイナブルな次世代溶媒として注目

図1:代表的な深共晶溶媒の合成とその特性
深共晶溶媒(しんきょうしょうようばい、DES:Deep Eutectic Solvents)は、水素結合を形成する供与体と受容体など2種類以上の化合物を混合することで、単体成分より大幅に融点が低下し、室温付近で液体となる混合物です。2003年にその存在が発表されて以降、個々の融点と比較して大幅な融点降下が生じることが明らかになりました。
加えて、混合する物質の種類やその混合比率によって溶媒物性を制御できるため、触媒、分離・抽出、医薬品製造やライフサイエンス研究などの幅広い分野で応用が期待され、研究が進められています。
深共晶溶媒の物性として挙げられる点は、上述に加えて、低揮発性、低毒性、生分解性などもあります。詳細については後述の書籍をご覧いただければ幸いです。
非イオン性の成分を使用できる
深共晶溶媒は単体成分に比べ低い温度で使用できることや設計自在性などの点でイオン液体(IL:Ionic Liquid)と類似した特性を持っています。実際、発表された当初、イオン液体の一種であると考えられていました。
しかし、両者には明確な違いがあります。

図2:イオン液体と深共晶溶媒の比較
まず、イオン液体はカチオンとアニオンから構成されているのに対し、前述のように深共晶溶媒では水素結合を形成する二種類以上の化合物から構成されています。 また、融点降下については、イオン液体ではイオン間に働く相互作用によって起きるのに対し、深共晶溶媒では化学種間の水素結合の相互作用に起因しているという点が、両者の違いの一つです。
深共晶溶媒は水素結合供与体と水素結合受容体を構成要素としています。その点でいうと、電荷を持つ成分からなるイオン液体と異なり、電荷を持たない化合物が構成成分になりえます。この非イオン性成分の使用可能性は、深共晶溶媒の合成をより簡便にし、低コストな原料の利用を可能にします。
さらに、一般的に多くのイオン液体と比較して、深共晶溶媒は合成が簡便なことから製造コストが低く、毒性も低い傾向にあります。これらは、実験から産業応用へのスケールアップが容易になることから重要な利点となります。
常温常圧下で固体を液体に! レアメタル抽出など広がる用途
深共晶溶媒はこのように、従来の有機溶媒やイオン液体に代わる、環境調和型の次世代溶媒として多くの利点を持っています。
原理上は多様な物質の組み合わせによって目的とする任意の物性を持つ溶媒を無限に作り出すことができます。
また、分子間同士の相互作用が強いものが多いため、優れた熱安定性、調整のしやすさ、低コスト、難揮発性、低毒性、生分解性、非可燃性など多くの有益な特性を有しています。
最近では多くの分野で深共晶溶媒に関する新しいトピックスが生まれてきています。特に常温常圧下において固体を液体として取り扱えることは革新的であり、これを応用展開した技術として「レアメタルの抽出」を挙げることができます。その他の事例については本書を参照ください。
ここまで深共晶溶媒で発現される多くの物理化学的特性を挙げてきました。この溶媒を最大限に活用するためには、構成するバルクの化学構造や界面構造などをより深く理解して分子設計を行う必要があることには注意が必要です。
深共晶溶媒の先端研究の開発動向が分かる解説書を出版
新刊『深共晶溶媒の開発と応用』では、深共晶溶媒の研究開発の状況を、第一線で活躍している研究者・技術者たちが紹介しています。
本書のとりわけの読みどころを紹介します。
深共晶溶媒は新規性の高い触媒といえます。そこで、物性についての基礎知識を詳述しています。
また、次世代のサステナブル技術を牽引すると期待される深共晶溶媒の研究開発の最前線を体系的に解説しています。読者の知りたいことに沿って幅広く活用していただける内容となっています。

図3:『深共晶溶媒の開発と応用』2025年7月30日発行
『深共晶溶媒の開発と応用』は、2025年7月30日発行です。詳しくは、こちらの案内をチェックしてみてください。
為田直子(ためだ なおこ)
シーエムシー出版宣伝部(大阪)。2007年に入社以来、制作部でのレポート制作や雑誌『月刊機能材料』の校閲を経て、2025年7月より宣伝部に所属。大学時代は国文学を専攻しており、日本語表現の美しさ・言葉の力に無限の可能性を感じています。どんな方にも分わかりやすく、「為」になる情報を大阪の地から発信してまいります。

