ついに「におい」まで高精度デジタル化! 嗅覚センシングの社会応用は加速中【先読み!研究開発トレンド】
2026/03/19Chematels編集チームの「シーエムシー出版」の編集担当者より、新刊書籍の出版タイミングに合わせて最先端の研究開発の中身を「先読み」できる記事をお届けします。今回のテーマは「におい・ガス成分のセンシング情報化」。長らく「未踏の領域」とされてきた嗅覚情報の定量化とリアルタイム計測は、近年のセンシング技術の飛躍的発展により、実用化の新たなステージへ突入しています。ガス成分および「におい」情報の高度な計測・解析技術に関する最新動向をまとめました。
におい情報のデジタル定量化は長らく未到領域だった
「におい」の情報をデジタルに定量化し、高精度に扱う技術は、長らく実現されてきませんでした。視覚や聴覚では「波」という物理現象を扱うのに対し、嗅覚では「物質」がもたらす化学現象を扱います。この違いが嗅覚デジタル化の高いハードルとなっていたのです(図1)。
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図1:嗅覚デジタル化の難しさ
「におい」の可視化・情報化をめぐる技術が大きく発展
「におい」の可視化・情報化をめぐる技術は近年、大きく発展を遂げています。主要な技術進歩は、大きく次の4カテゴリーに分けて捉えることができます(図2)。すなわち、相補型金属酸化膜半導体(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)など半導体技術によるデバイスの微細化を伴う計測技術の進歩、生体分子や嗅覚受容体を利用したバイオハイブリッド型センサーの開発、人工知能(AI:Artificial Intelligence)やデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)を駆使したにおいの可視化・情報化、そして、医療・ヘルスケア、環境・産業安全、食品といった広範な分野での社会応用技術です。
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図2:におい・ガスセンシング技術の4カテゴリー。これら技術の多くは、従来の単純な成分検出しきい値を超える「高度情報化」の段階にある。またカテゴリー統合的な進歩を遂げている
CMOS応用、生体細胞と融合…多様なセンシングデバイスが開発されている
上記の4カテゴリーそれぞれについて、もう少し詳しく見てみます。
CMOSをはじめとする半導体技術の深化により、におい計測の超高感度化が実現されています。金属酸化物半導体センサーにおいては、1兆分の1(ppt:parts per trillion)レベルの極低濃度検知が可能です。またCMOS集積回路の基盤化により、信号検出部とセンサーを一体化した「CMOSにおいセンサー」が開発され、小型かつ高度な計測システムが開発されています。
生体由来の機能を工学的に応用するバイオハイブリッド型センサーの開発も加速しています。昆虫やヒトの嗅覚受容体を組み込んだ「センサー細胞」や、人工細胞膜を用いたセンサーにより、生物と同等の高度な識別能が再現されています。また、酵素反応を利用し、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エタノールなどのガス成分を高い選択性で視覚化・動画像化する技術も確立されています。
嗅覚DXが下支え、社会での実用場面が増えていく
嗅覚関連のDXも進んでいます。「目に見えないにおい」を情報として扱うための多角的なアプローチが展開されており、「擬原臭」とよばれる少数の基準のにおいを用いたデジタル化やポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)構造色による流れの可視化が挙げられます。また、ヒトの嗅覚受容機構を模したAI解析や、リアルタイムの受容体応答マトリクスの構築といった嗅覚DXも進んでいます。
そして、これらを含む技術の各領域への応用が進んでいます。例えば、呼気や皮膚ガスを用いて、飲酒後の経皮エタノールガスのイメージングが可能となっています。また、皮膚ガス分析による蓄積ストレスの判定や、ストレス応答マーカーの計測といった技術がメンタルヘルス分野に応用されています。
なお、ガス成分計測技術としてレーザー分光法やプラズモニクスといった光学的アプローチもあり、多成分・高精度なセンシング技術が環境・農業分野へ応用されています。また、ガスの流れや痕跡を可視化し、ロボットによるガス源探索などに利用されています。
ガス・においセンシングに関する最新の研究動向を詳解した書籍を刊行
新刊『ガス成分の高度なセンシング情報化-におい・気相情報のイメージングおよび知覚化-』では、長らく未踏の領域として残されてきた「嗅覚情報を定量化し、リアルタイムかつ高精度に扱う」技術の最新動向を解説しています。
「ガス成分を視る」「においを情報化する」という概念は、もはや夢物語ではなくなってきました。においがデジタルデータとして流通する「におい情報社会」の到来が見えてきたいま、半導体・バイオ・DX技術分野の研究者・技術者の方必読の1冊です。

図3:『ガス成分の高度なセンシング情報化-におい・気相情報のイメージングおよび知覚化-』2026年3月3日発行
『ガス成分の高度なセンシング情報化-におい・気相情報のイメージングおよび知覚化-』は、2026年3月3日発行。詳しくは、こちらのご案内をチェックしてみてください。
池田 識人(いけだ しきと)
シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

