酵素の応用先は食品工業から医療まで! 植物由来素材にも貢献【有望市場サクッとダイジェスト】
2025/09/18「有望市場サクッとダイジェスト」では、Chematels編集チームの一員「シーエムシー出版」の担当者が、注目分野の市場動向について伝える新刊の出版タイミングに合わせ、そのダイジェストをChematels記事としてお届けします。今回は、「酵素応用の技術と市場」がテーマの書籍から。酵素を使った食品成分変換、糖質合成、脂肪酸生産、プラスチック分解など多岐にわたる酵素応用技術が展開されています。プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなど個々の酵素市場にも動きが見られます。多くの産業で利用されている「酵素」の概要と、書籍の見どころを紹介します。
生体内の化学反応を触媒、種類・役割ともに多様

図1:多様な酵素
(カタラーゼ画像作者:Vossman/アセチル補酵素Aシンテターゼ画像作者:Sergiob2)
酵素はタンパク質で構成された物質であり、生体内で起こる化学変化を担います。工業反応における触媒の役割に似ています。
酵素には数多くの種類があり、それぞれ違った役割を担っています。人間の体内に存在するものだけで約5000種類あるといわれますが、大きく消化酵素、代謝酵素、食物酵素の三つに分類できます。
これらのうち、消化酵素は食べたものが消化器官でスムーズに吸収されるよう、小さな分子に分解する役割を持っています。代表的なものはアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼです。唾液に含まれるアミラーゼは、ご飯やパンなどの炭水化物に含まれるデンプンを分解します。胃で分泌されるプロテアーゼには、タンパク質をアミノ酸に分解する働きがあります。また、リパーゼは脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解する消化酵素であり、十二指腸や小腸、膵臓で分泌されるという特徴を持ちます。
一例として、デンプンの糖化工程における酵素の働きを図2に示します。

図2:デンプンの糖化における酵素の働き
食品・飲料用途が大きな比重、医療・研究への活用も
世界の酵素市場規模は2025年において約9300億円と見積もられます。
応用先としては、糖化工業やデンプン加工、食肉工業やタンパク質加工、製パン工業、乳製品工業、飲料工業など、つまり食品・飲料用途が大きな比重を占めています。食品以外では洗剤、繊維工業、製紙工業、燃料エタノール製造、汚水処理、化学工業触媒などがあります。
また、医薬分野の酵素は、酵素そのものが医薬品原体の場合と臨床診断用酵素として利用される場合があります。このように酵素は多くの産業で利用されています。

図3:酵素の応用マップ
以下に、酵素応用の有望市場をかいつまんで紹介します。
バイオマス資源を原料に酵素を混合させてバニリンを生産
年間世界生産量が1万トン以上にも達する代表的な香料化合物「バニリン」の合成に酵素が利用されています。
バニリンは、バニラビーンズに含まれるバニラの甘い香りの主成分であり、バニラアイスクリームなどの香料として広く使われています。ラン科のバニラ属植物の種子からの抽出によって得られますが、この生産法では少量しか得られません。このため、大部分がグアヤコールとグリオキシル酸を原料にバニリンを合成しています。
一方で、食品や化粧品という用途から、化学プロセスに依存しない生産手法が望まれています。このため、バイオマス資源を原料に酵素を活用してバニリンを生産するバイオプロセスの開発研究が世界で盛んに行なわれています。例えば、未利用資源である米糠や小麦ふすまに豊富に含まれるフェルラ酸を原料に、新たに開発された酵素を混合して、バニリンを生産するバイオプロセスがあります。新刊『酵素応用の技術と市場2025』では、第Ⅰ編2章「酵素法によるフェルラ酸からバニリンへの変換」でこれを解説していますので、ご参照ください。
健康食品素材フコイダンを低分子化、脱硫酸化、脱アセチル化
フコイダンとはフコースあるいは硫酸化フコースを主たる構成糖とする粘性の多糖で、ワカメ、コンブ、モズクなどの褐藻類に多く含まれています。抗アレルギー、抗血液凝固、抗腫瘍などの生理活性についての報告が多数あることから健康食品素材などとして注目を集めており、2023年以降に発表された論文数は1000を超えています。このフコイダンに対し、低分子化、脱硫酸化、脱アセチル化を促す各種の酵素が活用されています。
第Ⅱ編2章「フコイダンに作用する低分子化酵素、脱硫酸化酵素、脱アセチル化酵素の性質と応用」でこれを解説しています。
化学合成が主だったセラミドを植物由来のものへ
「ヒト型」の遊離セラミドは天然には希少な成分です。そのためこれまでは化学合成が主な供給源でしたが、最近は植物などに由来する天然セラミドへの需要が高まっています。こうしたセラミドに対して、植物内在性の脂質分解酵素が開発され、活用されています。
第Ⅲ編2章「植物内在分子を用いたヒト型遊離セラミドの生産技術」では植物固有の複合スフィンゴ脂質の構造や特徴について概説し、見出された植物内在性の脂質分解酵素と、それを利用した植物由来ヒト型セラミド製造技術への研究動向を紹介します。
酵素応用の技術と市場の「最新情報」が分かる解説書を出版
新刊『酵素応用の技術と市場2025』は、多岐にわたる酵素の応用や個々の酵素市場動向を解説した1冊となっています。本書のとりわけの読みどころをご紹介します。
酵素応用の有望市場について、上記に紹介した他にも、「化学合成が主だったセラミドが植物由来天然セラミドへ」「海産魚がn-3系高度不飽和脂肪酸を合成できず、淡水魚が合成できる理由」「フキ・フキノトウ(Petasites japonicus)を例とした脂質代謝調節成分の作用機構に関する知見」といった最新動向を、専門家が執筆しています。
また酵素の市場について、概要、製法、起源および特性、需要・用途などを体系的に解説しています。

図4:『酵素応用の技術と市場2025』2025年8月8日発行
『酵素応用の技術と市場2025』は、2025年8月8日発行です。詳しくは、こちらのご案内をチェックしてみてください。
為田直子(ためだ なおこ)
シーエムシー出版宣伝部(大阪)。2007年に入社以来、制作部でのレポート制作や雑誌『月刊機能材料』の校閲を経て、2025年7月より宣伝部に所属。大学時代は国文学を専攻しており、日本語表現の美しさ・言葉の力に無限の可能性を感じています。どんな方にも分わかりやすく、「為」になる情報を大阪の地から発信してまいります。

