用途は肥料やアドブルーなど、輸入「中国減」の裏に日本の戦略―尿素【市況PV上位の化学品をチェック! 第8回】

2024/12/17
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目次

Chematels市況情報の化学品カテゴリーで注目の品目を解説している「市況PV上位の化学品をチェック!」は最終回。今回は2023年ページビュー第8位の尿素を取り上げます。尿素は、農業における主要窒素肥料として、その効率、費用効果、使いやすさなどから世界的に広く使われている重要な経済戦略製品です。

窒素肥料として重要な品目

尿素は窒素肥料の一つで、硫安や石灰窒素などを抑えて圧倒的なシェアを占めています。    窒素は植物の光合成とタンパク質合成に不可欠な栄養素であり、窒素肥料は植物の成長促進、作物収量の増加に不可欠です。世界人口増加とそれに伴う食糧増産が強く求められる中、今後も確実な需要の増加が見込まれています。

特に日本では、尿素の大部分を輸入に頼っていることから、その安定供給先の確保が最重要な製品の一つです。2023年の世界生産量は、さまざまな統計が出されていますが、優に1億トンを超えています。

尿素は、哺乳動物の尿に含まれる有機化学物質ですが、歴史的には、1828 年にドイツの化学者フリードリヒ・ヴェーラーが、無機原料からの尿素の合成法を発見しました。それまで広く信じられていた「無機物質から有機物質を作れるのは生物だけ」という生気論の概念が覆された事例としてもよく知られています。

2021年以降高騰、日本はマレーシア・ベトナムからの輸入伸ばす

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図1:尿素の輸入CIF価格の推移。単位は円/キログラム。Chematels市況情報のデータより。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと

Chematelsの市況情報に見られるように、尿素の輸入価格は2021年から2022年にかけて急騰しました。背景としては、継続的に旺盛な肥料需要に加え、2021年主要輸出国である中国・ロシアの輸出量制限・抑制による供給不安、さらに2022年2月のロシアウクライナ侵攻による世界的な肥料需給逼迫への危機感があります。2023年には急騰が収まったものの、世界のエネルギーコストや労務費の高騰を反映して、価格レベルは一段高い状況のまま推移しています。

日本の輸入先国については、2024年の貿易統計によると、2020年の時点で輸入比率50%弱だったマレーシアが66%まで拡大しています。逆に34%あった中国からの輸入が13%に減少しました。またベトナムが10%を占めています。マレーシア・ベトナムの比率が高いのは、経済安全保障推進法の制定を含む日本の政策の結果といえます。主に日本の政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)と技術により尿素産業が成長した関係から、日本はこれら安定輸入先国から優先的に輸入を受けており、輸入比率拡大を押し進めているのです。

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図2:日本の尿素輸入先国シェア
⁠(出所:財務省貿易統計を参考に編集部作成)

ディーゼル車向け尿素水「アドブルー」需要増の見込み

肥料に次ぐ尿素の大きな需要は、飼料グレード用途です。ウシの栄養源として、今後も尿素の需要が高まることが予想されています。ウシなどの反すう動物は、消化器中のバクテリアの作用により、尿素をタンパク質に変換できるのです。工業化による放牧地・牧草地の減少と、多くの高タンパク穀物や飼料穀物の価格高騰などから、コスト効率の高いウシ用タンパク質サプリメントとして、尿素の利用が拡大しています。

一方、注目される自動車産業では、尿素水「アドブルー」の使用が定着しています。ディーゼルエンジンの燃料燃焼による窒素酸化物の汚染物質生成を削減する製品で、今後も増加が見込まれています。特に欧州では、温室効果ガス削減の規制強化政策を受け、需要が急増すると予想されています。自動車用途向け尿素水については、2022年のChematels記事「化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方」第2回もご参照ください。

さらに一般の工業用途では、プラスチック原料として、尿素ホルムアルデヒド樹脂、尿素メラミンホルムアルデヒド、メラミンなどの製造への使用があります。また、医薬品および化粧品の配合物、その他の特殊化学薬品の製造など、多くの工業薬品原料として広く使用されています。

気候変動問題関連では、2023 年 3月にサウジ基礎産業公社(SABIC:Saudi Basic Industries Corporation)が、持続可能な農業を支援するため、バイオ強化尿素「ブルー尿素」を供給するため、米国のバイオウィッシュテクノロジーズおよびエー・ディー・エムとの協力を発表し、新しい動きとして注目されています。

原料のアンモニアが水素エネルギーのキャリアー候補に

最後に、尿素の原料であるアンモニアが、将来の水素エネルギーキャリアーとして検討されていることについても触れておきたいと思います。

2024年5月、日本の2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みとして、水素社会推進法が制定され、大規模かつ低廉な低炭素水素の国内輸入に向けた支援が計画されています。そのエネルギーキャリアー候補化合物として、液化水素、有機ハイドライドと共にアンモニアが検討されているのです。毒性や運搬容器の腐食性などの問題もあり、どのような結果になるかはまだ分かりませんが、量的な影響が大きいことから、動向には注目が必要です。

今回のシリーズの執筆を通じ、取り上げたページビュー上位製品が、いずれも、読者の皆さんの関心を集める相応の理由をもっていることに気づきました。どの製品の特性も動向もたいへん興味深かったことを申し上げて、終わりにしたいと思います。お付き合いいただき、ありがとうございました。

猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net

東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。

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