肥料など多用途、中国の政策転換で他国からの輸入増加―リン酸【市況PV上位の化学品をチェック! 第3回】

2024/10/01
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目次

Chematels市況情報の化学品カテゴリーで、2023年のページビュー第2位だったのが「リン酸」です。肥料のほか、飼料添加物、食品・飲料添加物、洗剤、水処理剤、化学品・医薬品、金属処理剤などの原料として幅広く使われています。2021年より輸入価格が高騰し、高止まりの状況が続いています。今回はリン酸を中心に、関連品目のリン酸アンモニウムについても解説します。

中国の輸入方針変更後、ベトナムからの輸入が拡大

リン酸の世界の市場規模は2023年で9300万トンと推定されます。その大半は、肥料原料として使用されています。

2020年には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19:Corona Virus Disease 2019)のパンデミックにより主要供給ラインと製造ラインが混乱し、深刻な品不足が生じるなど市場は影響を受けました。その後も、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の影響に起因する世界的な食料供給不安の増大があり、肥料分野の市場では今後の需要拡大が見込まれています。

日本においてリン酸は、肥料のほかに飼料添加物、食品・飲料添加物、洗剤、水処理剤、化学品・医薬品、金属処理剤の原料など、さまざまな産業用途に使われています。2019年まで継続的に年間4万トン強のリン酸が、ほぼ全量、中国から輸入されていました。

しかし、2019年後半、中国は急激な環境規制強化政策へ転換し、さらに国内向けの食物生産を優先する肥料国内需要優先政策もとりました。これらが相まって、中国からの供給不安と価格急騰が発生したのです。現状は、一時期の急騰は幾分収まったものの、価格水準は高騰前の2倍程度で推移しています。

ほぼ全量を中国に依存していた輸入状況にも変化が見られます。新たにベトナムからの輸入が開始され、2023年時点で総輸入量の10%弱にまで増加しています(図1)。この変化は、リン酸の供給と価格の安定を求める日本のユーザーの将来に向けての動きと考えられます。

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図1:リン酸・ポリリン酸の輸入推移。ポリリン酸はリン酸塩の重合体
⁠(出所:財務省「貿易統計」を参考に編集部作成)

リン安も中国からの輸入が減少、モロッコからの輸入が増加

同様の傾向は、リン系肥料主要原料でリン安とも呼ばれるリン酸アンモニウムにも表れています。リン安は、リン酸とアンモニアを反応させて得られる無機化合物です。

2023年5月に農林水産省が発表した「肥料をめぐる状勢」によると、2020年7月からの1年間では90%だった中国からの輸入割合が、次の2021年7月からの1年間で76%に減少し、新たにモロッコからの輸入が18%を占めたことが報告されています(図2)。

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図2:リン安(リン酸アンモニウム)の輸入推移
⁠(出所:農林水産省2023年5月発表「肥料をめぐる状勢」を参考に編集部作成。元データは財務省「貿易統計」)

ちなみに、米国地質調査所の2023年の報告書*1によると、モロッコはリン鉱石の産出量では中国に次ぐ世界第2位。鉱石埋蔵量では世界の約70%を有するリン資源大国です。

リン酸の市況は食料・肥料の今後を見通す情報になる

Chematels市況情報から、リン酸の輸入価格の推移を見てみます。

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図3:リン酸の輸入CIF価格の推移。Chematels市況情報のデータより。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
⁠(出所:財務省貿易統計の統計品別表)

リン酸の市況は、その需要の大半を占めるリン系肥料の世界的動静により決まります。つまり、食料や、そのベースとなる肥料の安定確保をめぐる状況を見通すためのデータとして、貴重な情報となります。

肥料以外のリン酸の興味深い用途として、電気自動車(EV:Electric Vehicle)用バッテリーの材料があります。正極材のリン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池に広く使用されているのです。2022年に中国で販売された電気自動車全体の44%が、リン酸鉄リチウム電池を使用しているといわれており、この分野でも中国が圧倒的なシェアを占めています。

幅広い用途、今後も国際市場に注視を

今回はリン酸を中心に、用途などの概要、輸入状況、また市況などについて解説しました。 

日本においてリン酸は、肥料のほかにも幅広い用途で継続的に使われています。輸入を前提としている以上、リン酸の国際市況の把握は重要となります。「リン酸」の市況情報はこちらです。

次回は、ページビュー第3位・第6位の「メタノール・エタノール」を取り上げる予定です。

【注釈】

*1:米国地質調査所の2023年の報告書
⁠United States Geological Survey(USGS)「MineralCommodity Summaries 2023」

猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net

東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。

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