価格高騰で注目度アップ、難燃剤など用途多数のレアメタル―アンチモン 前編【市況PV上位の化学品をチェック!特別編】
2025/12/04Chematelsの「市況PV上位の化学品をチェック!」というシリーズで、注目度の高い化学品8品目の価格推移の背景などを2024年に読みときました。実は2025年になり、Chematels市況情報に掲載している100品目ほどの中で、常に突出したページビュー数を保ちつづけている品目が現れました。希少金属の一つ「アンチモン」です。そこで今回は特別編として、アンチモンの価格高騰の状況や要因を前後編で解説したいと思います。前編では、あまり馴染みないアンチモンという化学品の概要についてお話しします。次回の後編では、急激な輸入価格上昇の要因となっている中国の輸出規制について、その影響と見通しをお話しする予定です。
硬くて脆い希少金属、地球に存在する量はリチウムの数百分の1

図1:アンチモンの主要鉱石である輝安鉱
アンチモンは、元素記号Sbの希少金属、つまりレアメタルです。銀白色で、硬くて脆く、合金添加材や半導体材料として広く利用されています。
地球の地殻に含まれる元素の量としては、61番目に多い元素で、その割合は、全体の0.00002%といわれています。同じ希少金属として注目されているリチウムの割合が、0.02~0.07%といわれていることからすると、その数百分の1の量になります。
主要生産国・中国の輸出規制で輸入価格が急上昇
2023年ベースで、アンチモンの世界埋蔵量は約200万トンとされます。世界全体のアンチモン生産量は年間約8万5000トンであり、主要生産国は、54%を占める中国、21%のタジキスタン、11%のロシア、5%のボリビアなどです(図2)。
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図2:アンチモン生産の国別シェア
(出典:World Bureau of Metal statistics “World Metal Statistics Yearbook 2022”/“WBMS Antimony Workbook August 2024”)
アンチモン地金の輸入市場は、世界で約4万5000トン規模。うち、日本は約10%にあたる4000トンの輸入をしています。日本は従来、中国から50%近くのアンチモン地金を塊・屑の形で輸入していましたが、中国で2024年9月に実施された輸出規制以降、ミャンマー42%、韓国26%など他国からの輸入に切り替えています。
中国による輸出規制の影響によりアンチモンの価格は急上昇し、価格上昇以前の4倍以上で推移している状況です(図3)。
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図3:アンチモンの輸入CIF価格の推移。単位は円/キログラム。Chematels市況情報のデータより。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
アンチモン地金の主要用途である三酸化アンチモンの輸入も中国からが大半であり、その影響は同様です。
製造法は乾式、高純度にするため酸化・還元を繰り返す
アンチモンの製造では、工業的には乾式法とよばれる方法が使われています。輝安鉱を酸化焙焼により純度のさほど高くない三酸化アンチモンとし、それをコークスで還元し、金属アンチモンを製造するものです。このときのアンチモンは不純物を含んでおり、さらに酸化・還元工程を繰り返すことで高純度となります。
また、三酸化アンチモンは、工業的には純度の高い金属アンチモンから製造されます。日本は金属アンチモンの製造から撤退しており、金属アンチモンおよび三酸化アンチモンいずれも輸入によって需要に応じています。
主要な用途に難燃剤や摩擦材など、超高純度は半導体材料にも
アンチモン製品の主要な用途に難燃剤があります。加えて、ブレーキ用摩擦材、ガラス製造時の清澄剤、ポリエステル重合反応触媒など、樹脂、ゴム、金属加工などのさまざまな分野で幅広く使われており、有用素材といえます。
とくに最近は超高純度アンチモンが、高速電気機器や光エレクトロニクス機器で重要な役割を果たす III-V族化合物半導体の材料に使われています。また、赤外線検出器やセンサー、蓄電池などの製造材料としての用途もあります。つまり、電気自動車や再生可能エネルギー関連の戦略的素材としても重要視されているわけです。
次回の後編では、中国でアンチモンおよび関連製品の輸出規制が実施された背景や、アンチモン市況の見通しなどについて解説する予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
