中国の「戦略的」輸出規制で高騰、日本は輸入元シフトで対応―アンチモン 後編【市況PV上位の化学品をチェック!特別編】
2025/12/11Chematelsのシリーズ「市況PV上位の化学品をチェック!」の特別編として、この2025年、常にChematels市況情報のページビューで最上位に位置してきた「アンチモン」の市況を解説しています。前編では、アンチモンの物性や用途、主要産出国、そして価格急騰の状況などを伝えました。後編では、価格高騰の要因である中国のアンチモン輸出規制の背景や日本への影響について解説します。中国にとってアンチモン輸出規制は「戦略」の一つであり、中国からの輸入に依存してきた日本は輸入元を他国にシフトするなど対応に追われています。
中国の輸出規制、背景に製品高付加価化や環境保護の狙いも
2024年9月、中国政府がアンチモンおよびその関連品目の輸出規制を実施しました。この規制により、中国からのアンチモンとその化合物の輸出には、最終利用者や用途の明確提示や、政府審査の上での許可取得が義務付けられるようになりました。市場は大きな影響を受け、価格も大幅に上昇しました(図1)。
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図1:アンチモンの輸入CIF価格の推移。単位は円/キログラム。Chematels市況情報のデータより。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
米国地質調査所(USGS:United States Geological Survey)によれば、2023年の中国のアンチモン生産量は世界全体の48%を占めています。
中国には、国内需要の増加を背景に、国内産業への安定供給を保つとともに、難燃剤や電子部品といった高付加価値製品の輸出を増やすことで国内産業の収益性を向上させ、中国経済の成長を持続的に支える狙いがあります。
加えて、アンチモンの採掘や精製過程は環境負荷が大きいため、中国政府は環境保護政策の一環として採掘量を抑制し、その穴埋めとして輸出規制を強化したものと見られます。
脱・中国依存を余儀なくされた日本、輸入元を他国にシフト
日本は従来、アンチモン金属も三酸化アンチモンも中国からの輸入に大きく依存していました。そのため今回の措置の影響は大きく、対応が急務となっています。
2023年まで、常にアンチモン金属の輸入量の40%以上を占めていた中国の比率が、2025年に実質ゼロになりました。これを、ミャンマー、ベトナム、韓国からの輸入増により補填している形です(図2)。輸入価格についても、2024年第4四半期からの急上昇で、約4倍に急騰し、その状況は継続しています(図1)。
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図2:日本の金属アンチモン輸入元 国別シェア推移
(出所:財務省貿易統計を参考にChematels編集部作成)
この状況は、輸入の8割を中国に依存していた主要製品の三酸化アンチモンにおいても同様です。輸入量自体が減っている中、代替輸入国としてタイ、ベルギー、韓国などへの依存度が高まっています(図3)。
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図3:日本の三酸化アンチモン輸入元 国別シェア推移。2025年累計ではベルギー、タイ、中国のシェア順となっている
(出所:財務省貿易統計を参考にChematels編集部作成)
半導体用途という戦略的材料の側面も
アンチモンは広い産業分野に使用されています。三酸化アンチモンの用途としては、用途全体の7割程を占める難燃剤のほか、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene terephthalate)の重合触媒、清澄材などのガラス添加剤、電子部品材料などがあります。アンチモン金属野用としては、鉛電池材料、鉛・錫合金、減摩合金、硬鉛鋳物などがあります。
さらに、金属と非金属の中間の半金属性というアンチモンの物性から、半導体関連での用途もあります。N型半導体にはシリコンに添加する形で使われ、また、Ⅲ-Ⅴ半導体にはインジウムとの化合物などにする形で使われます。アンチモンが高機能製品素材として戦略的にも注目される点は、市況が敏感に反応する要因になっているものと思われます。
レアメタルやレアアースは国家戦略上の「武器」
2024年9月のアンチモンの輸出規制は、半導体原材料として重要な多くの希少金属、つまりレアメタルで圧倒的地位を占める中国が進めている一連の動向の一つです。中国はアンチモン輸出規制の1年ほど前の2023年8月、希少金属のガリウムおよびゲルマニウムを、また同年12月に希少鉱物のグラファイトをそれぞれ輸出規制しました。そして、アンチモンの輸出規制を経て、2024年12月の希土類、つまりレアアースの輸出規制へと展開していったわけです。
中国が希少金属や希土類などの資源を国家戦略的な「武器」として利用していく動きに、日本の経済産業省をはじめ国内外の機関が注目しています。
高止まり緩和に期待も、引きつづき市況に注視を
今後、アンチモンの市況はどうなるでしょうか。その帰趨に、米中の国際政治の動きも関与しているため、予想は難しいというのが実状です。
ただし、幸いにしてアンチモン資源は、前編の記事でも解説したように、世界に比較的広く分布しており、需要量もあまり多くありません。そのため、ある程度の時間が経てばそれほど深刻な状態は続かないのではないかと思われます。
いずれにしても、今後とも市況に対しての注意深い分析と、迅速な対応が必要であることは確かです。
今回のアンチモン市況についての解説は以上となります。今後も、皆さんの注目度の高い品目の状況について、折に触れて解説していきたいと思っています。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
