尿素―肥料価格大幅値上げへ、輸入の過半は中国【化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方 第2回】
2022/06/23
連載の目次
本連載で扱う項目
- 第1回 概要の説明
- 第2回 尿素
- 第3回 リン・リン酸
- 第4回 シリコン
- 第5回 有機溶剤(酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン)
尿素水、急騰や供給困難の報道が相次ぐ
2021年半ばから、ディーゼル車や工場排ガス処理などに必要な「尿素水」をめぐり、価格急騰や供給困難のおそれ拡大といった報道が続きました。市場での供給不安を懸念する報道が相次いだのです。
特に、国内需要のほぼ全量を中国からの輸入に依存している韓国での状況深刻化や、中国での石炭火力発電の稼働抑制、10月から始まった中国国内需要優先による事実上の輸出制限に加え、日本の国内メーカーの大型定修計画による減産などから、輸入尿素価格の急激な上昇が大きな話題となりました。
幸い、日本国内では、経済産業省から尿素水原料の国内生産事業者に対して増産要請が行われるなど、供給確保推進の努力もあり、2021年の年末までに市場の一部を除いては沈静化に至っています。
かつては国内の基幹製品、その後は輸入が増加
尿素は、農業用肥料の主要な必須原料素材です。ドイツで開発されたハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造技術を起点に近代化学産業発展の担い手となった化学製品であり、日本の化学産業においても、発展の初期段階では、基幹となる製品として重要視されました。

図1:尿素の各種データ
(出所:ウィキペディア「尿素」)
その後、石油化学工業の発展と、産業構造の高付加価値製品への特化推進の方針から、アンモニア・尿素の、化学産業の基幹としての地位は薄れていきます。国内産業との関連で必要性の低いものを中心に、輸入品への切り替えが進みました。近年は、肥料原料としての輸入比率は高いものの、尿素水原料としての原料確保が問題になるレベルではなく、市場の危機的状況への懸念は過剰な反応と理解されてきました。
2022年度秋の肥料価格は大幅値上げ
ところが、2021年から2022年にかけて、尿素をはじめとする肥料原料全体の状況に大規模な変化が起きています。長期的な影響も懸念されることに注目する必要があります。
2022年5月31日、全国農業協同組合連合会(JA全農)が「令和4肥料年度秋肥(6~10月)の肥料価格」を発表しましたが、2021年秋発表の前期(春肥)に比べ、単肥では輸入尿素で94%、塩化カリで80%、基準銘柄の高度化成肥料で55%の大幅値上げが決定されました。今回の値上げは、従来までのトレンドから見ると異常ともいえる上げ幅です。
穀物市場の高騰と、ロシアのウクライナ侵攻などによる需給の逼迫懸念から、中南米、アフリカ諸国での輸入が拡大し、原料の国際市況が軒並み史上最高値まで上昇したことが大きな要因です。加えて、円安傾向の為替レートも影響しています。
輸入価格の上昇は、現在も続いており、2011年~2020年の10年間ほぼ横ばいだった価格は、2021年末から現在までで、ほぼ2倍となり、上昇傾向が継続しています。Chematelsの市況情報「尿素」もご参照ください。

図2:尿素の輸入CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
尿素輸入の過半は中国から、国際情勢が価格の鍵に
日本への尿素の輸入では、中国からが51%を占めています。肥料関連の原料については他に、リン鉱石では同じく中国が48%を占めます。カリウムでは、カナダの32%に次いで、ロシアとベラルーシが各17%、中国が12%となっています。
ウクライナ侵攻の影響から、中国・ロシア・ベラルーシなどの特定輸入先国からの調達の難しさが見込まれます。これに対し、農林水産省は、代替国からの原料調達経費支援のための「化学肥料原料調達支援緊急対策事業」を決定しています。とはいえ、今後も世界的な穀物需要の増加とエネルギー価格上昇などにより、化学肥料原料価格高騰の長期化が懸念されることは明らかです。
尿素に加え、本連載で扱うリン酸についても、今回お伝えした肥料原料をめぐる産業構造的な観点に加えて、国際政治情勢も関連する事象として理解する必要があります。
次回は、その「リン・リン酸」について取り上げる予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
