シリコン―中国「双控」政策による電力不足で価格高騰【化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方 第4回】
2022/07/14
連載の目次
本連載で扱う項目
- 第1回 概要の説明
- 第2回 尿素
- 第3回 リン・リン酸
- 第4回 シリコン
- 第5回 有機溶剤(酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン)
2か月足らずで価格が3倍に
今回は、ウエハーとも呼ばれる半導体基板の材料となるシリコン(ケイ素)の値上がりについてです。
2021年10月、シリコン基板の原料である金属シリコンの価格が2か月足らずの間に3倍に暴騰しました。日本も影響を受け、2022年に入ってからも、輸入シリコンの価格は、従来の2倍程度で推移しています。

図1:シリコン(ケイ素)の輸入CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
以前から、半導体デバイスの世界的な供給不足が懸念されていました。そうした中で2021年以降、さらなる拍車がかかっている状況といえます。
シリコンの原料は珪石や珪砂などの二酸化ケイ素(SiO2)です。第3回で取り上げた肥料原料のリンやカリウムと違って、資源が地域的に限られているわけではありません。二酸化ケイ素は世界中に存在し、日本でも2億トン程度、埋蔵されているといいます。

図2:二酸化ケイ素の各種データ
(出所:ウィキペディア「二酸化ケイ素」、ブリタニカ国際大百科事典「二酸化ケイ素」
ただし、原料の二酸化ケイ素を還元してシリコンにするのに大量の電力が必要となります。そのため日本へは、電力の安い中国、ノルウェー、ブラジル、オーストラリア、マレーシアなどで電気による精錬を経て、金属シリコンの状態になったものが輸入されています。
中でも中国からの輸入が多く、2021年では、日本への輸入の83%を中国で占めており、2番目ノルウェーの8%に大差をつけています。中国からの輸入比率は、1990年代の50~60%から、2010年代以降の80%以上へと、大きく上昇しています。

図3:シリコン(ケイ素)の各種データ。シリコン原子単体から金属シリコンは構成される
(出所:ウィキペディア「ケイ素」)
上昇傾向だった半導体材料価格、電力不足で決定的に
今回のシリコン輸入価格高騰の一番の原因は、「中国の電力不足」だといわれています。
中国は2021年、電力不足に陥りました。それ以前からも、世界的な半導体需要の過多、在庫の積み増し、半導体生産主要国である台湾での水不足や停電、新型コロナウイルスによる東南アジア地域での後工程工場の操業停止などで半導体関係の材料価格は上昇傾向にありました。これらに中国の電力不足が加わったことで、類を見ないシリコン価格の高騰につながったと考えられています。
では、なぜ中国でそこまで深刻な電力不足に陥ったのか。以下で解説します。
電力不足の背景に中国の「脱炭素」政策
中国で電力不足が深刻化している主な原因は、火力発電所の稼働抑制です。
中国の電源構成のうち火力発電は約6割を占めています。では、火力発電所の稼働低下の主な原因は何かというと、まず石炭価格の高騰がありました。中国では以前より、オーストラリアとの政治的対立から石炭の輸入が制限されて品薄状態でした。加えて、中国国内で相継ぐ炭鉱事故の発生を防止するための安全規制強化により、石炭生産自体が頭打ちになっていたのです。
そこにさらに、中国が掲げた「脱炭素」政策が、電力不足に大きく影響してきたのです。
中国の習近平国家主席は、環境対策の一環として、二酸化炭素の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年には排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルを達成させるという目標を掲げました。「3060目標」と呼ばれています。
この目標達成への取り組みの一環として2021年8月、中国の国家発展改革委員会は、政府が「双控」と呼ぶ、「エネルギー消費強度の低減」と「消費総量コントロール」の二重制御の目標に対し、省など各行政区の達成状況を3段階にランク付けし、公表しました。エネルギー消費強度とは、単位国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費量を指します。
そして、エネルギー消費強度低減の警告ランクが高く、消費強度を低下できず逆に上昇した省・都市などは、「両高」と呼ばれる「高エネエネルギー消費」と「高汚染排出」を伴う産業への投資プロジェクトに対する許認可が、国家的な主要プロジェクトを除いて中断されることになりました。各行政区レベルで「双控」に向けた取り組みが強化されたのです。
「両高」とされる産業は、石炭火力発電、石油化学、化学工業、鉄鋼、非鉄金属製錬、建築材料といったものです。石炭火力発電は「両高」産業と見なされ、石炭火力におけるエネルギー消費などを厳しく規制する必要が生じました。この結果、工場を動かす電力が供給不足となったわけです。これにより、金属シリコンをはじめ、マグネシウムなどを含む各種化学品原料の生産量が大きく落ちこんだといわれています。
材料供給源の一極集中は今後もリスク要因
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
