リン・リン酸―価格上昇が肥料や加工剤などに影響【化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方 第3回】
2022/06/30
連載の目次
採掘量世界一の中国、主要産地で生産カット
今回取り上げるリン・リン酸は、第2回で取り上げた尿素と同様、世界の食料生産のために重要な主要肥料原料素材です。世界での生産が中国に大きく依存していることに加えて、原料資源のリン鉱石の産出が地域的に限られていることも考慮しなくてはなりません。
米国地質調査所が2022年に発表したデータによると、リン鉱石資源の世界での商業採掘可能な資源量は、約70%をモロッコと隣地の西サハラが占め、2位が中国の5%です。一方、採掘量は、世界全体の生産量2億2000万トンのうちの約39%を中国が占め、2位以下はモロッコと西サハラ17%、米国10%、ロシア6%となっています。
こうした状況の中、2021年の9月から12月にかけて、中国のエネルギー消費制限政策により、雲南省の黄リンの月生産量が8月比で90%カットされました。雲南省は中国の黄リン生産の46%を生産しており、世界的に大きな影響が引き起こされました。
中国の供給減、長期化の懸念も

図1:リン酸の各種データ。肥料・洗剤の原料、触媒、清涼剤、医薬、歯科用セメント、金属処理剤、廃水浄化など広い用途に使われる無機の酸であり、生体のデオキシリボ核酸(DNA)やアデノシン三リン酸(ATP)を構成する重要な無機オキソ酸
(出所:ウィキペディア「リン酸」)
リン・リン酸の生産法には、乾式法と湿式法があります。化学品として使われる純度の高い製品は乾式法で作られます。リン鉱石と珪砂、無煙炭を電気炉中で、1300~1500℃の高温で分解することで生産するため、大量の電力消費が必要となります。そこで資源的に恵まれており、生産コストとエネルギーコストともに低い中国への生産移行・拡大が進んできました。
しかし、世界的な環境配慮への関心の高まりに加え、2022年1月の北京オリンピック開催も背景に、中国は急激な環境規制政策強化へかじを切りました。中国国内の食物生産を優先するための肥料などの国内需要優先政策とも相まって、中国から国外へのリン・リン酸の供給減が長期化する可能性が高いと懸念されています。高騰した価格の継続が予測されているのです。
2022年の日本国内肥料価格は大幅値上げ
リン・リン酸の主要使用分野である肥料関係の状況はどうでしょう。
日本の主要リン酸肥料原料であるリン安(リン酸アンモニウム)は、2020年では日本の全輸入量49万トンの約9割が中国から輸入されています。中国からの供給源の影響から、第2回で触れた全国農業協同組合連合会(JA全農)2022年5月31日発表の「令和4肥料年度秋肥(6~10月)の肥料価格」でも、2021年秋発表の前期(春肥)に比べ、リン酸を成分に含む高度化成肥料(N15・P15・K15)という基準銘柄で55%の大幅値上げが決定されています。
輸入価格は2021年以降の上昇が顕著

図2:リン酸の輸入CIF価格の推移
CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表)
尿素輸入の過半は中国から、国際情勢が価格の鍵に
日本のリン酸輸入元の96%を中国が占めており、リン酸の運賃保険料込み条件の輸入価格は、安定していた2010年代の価格帯に比較して、2021年では1.7倍、2022年第1四半期では2.7倍と急激に上昇しています。
リン酸はさまざまな用途に使われます。アルコールと反応させて製造する各種リン酸エステルが、可塑剤、難燃剤、金属加工剤、防錆剤などにも広く使用されています。影響の及ぶ産業分野の範囲は広く、状況が長期化する可能性も高いことから、今後とも、その動向には十分注視することが必要な製品だと思われます。
次回は、「シリコン」について取り上げる予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
