有機溶剤―輸入増の影響で酢酸エチルなどが高騰【化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方 第5回】

2022/07/19
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連載の目次

本連載で扱う項目

酢酸エチル、中国の供給減で輸入価格の高値続く

Chematelsの連載「化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方」。最終回の第5回では、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンといった有機溶剤を取り上げます。本連載ですでに解説した製品群とは製品分野が異なりますが、やはり2021年に価格上昇が話題になりました。

酢酸エチルについては2021年5月、原料である酢酸の価格上昇、中国メーカーの稼働率低下、欧米中心の需要回復などからタイト感が強まり、国際市況で過去最高額を更新、中国品の値上げが発表されたとの新聞記事が掲載されました。

さらに10月には、中国での電力供給制限と石炭不足による酢酸の高騰により、酢酸エチルの供給が急減したと報じられました。酢酸エチルも高騰し、再び過去最高額を超え、中国からの本船渡し(FOB)価格が1トン1500ドル台となりました。なお、中国での電力供給制限については、第4回「シリコン―中国『双控』政策による電力不足で価格高騰」で詳しく解説しています。

酢酸や酢酸エチルの高騰は、日本国内への輸入価格にも反映されています。2021年末にかけて酢酸エチルは1キログラム180円を超え、2022年4月時点でも高値が継続しています。

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図1:酢酸エチルの輸入CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
⁠(出所:財務省貿易統計の統計品別表)

かつては国内製造中心、いまは輸入中心の酢酸エチル

酢酸エチルは、石油化学の発展とともに製法の変更を経て、大きな状況変化を受けてきた製品です。

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図2:酢酸エチルの各種データ
⁠(出所:ウィキペディア「酢酸エチル」)

初期は、酢酸とエタノールの直接反応で生産され、優れた溶剤特性から使用量が拡大しました。その後、石油化学の発展により、酢酸原料としてアセトアルデヒドがエチレンから大量生産され始めると、アセトアルデヒドを塩基触媒で不均化させて酢酸エチルに転換するティシチェンコ反応を用いた製造プロセスが主流となりました。

さらにその後、酢酸の製造法が、メタノールを原料とするものに移行し、アセトアルデヒド・酢酸の国内生産が縮小する一方、海外からの輸入が中心となりました。

近年の国内生産状況は、エチレンと酢酸の直接合成法により製造する昭和電工と、バイオエタノールと酢酸により製造するダイセルの2強体制であり、年産能力はそれぞれ10万トン規模と5万トン規模という情報もあります。2011年以降、経済産業省生産動態統計の発表が終了したことから、国内生産量を把握できませんが、日本国内の市場規模は22~26万トンともいわれており、輸入品が中心となっています。

2011年以降、その輸入品の約90%は中国からとなっており、これが、他の製品同様、2021年第4四半期からの中国の状況変化による大きな高騰につながったと判断されます。

酢酸エチルは、非水溶性、適度な極性・揮発性・沸点、低分子化合物の良好な溶解性といった特徴をもちます。加えて、低毒性であり、反応の後処理・精製などで大量使用可能な溶媒としての優れた溶剤特性を備えています。沸点70~80℃の非水溶性溶剤としての評価から、さまざまな分野で使用がさらに拡大しています。

硬プラ需要増のN-メチル-2-ピロリドン、中国が輸入第1位に

N-メチル-2-ピロリドンも優れた高沸点溶剤として需要拡大中の製品です。特にポリイミド(PI)やポリフェニレンサルファイド(PPS)など硬度プラスチック材料の良好な溶解性から、液晶ディスプレイ用配向膜など電子部品材料の製造分野を中心に、需要が拡大しています。

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図3:N-メチル-2-ピロリドンの各種データ
⁠(出所:ウィキペディア「N-メチル-2-ピロリドン」)

技術的限定性などから供給メーカーが世界的に限定されている中、中国が、生産・消費の両面で、主要な位置を高めてきています。中国の状況変化は、今後とも世界的に大きな影響をもたらすと考えるべきだと思います。

日本では三菱ケミカル1社が国内生産していますが、全体では輸入品が主流となっています。特に2021年は、中国からの輸入数量がほぼ2倍に急増し、約8,500トンとなりました。中国の輸入比率は48%で、米国の37%を抜いて、輸入国第1位となっています。今後も中国市場に大きく影響を受ける状況といえます。

高沸点溶剤のγ-ブチロラクトンもピロリドン系と同傾向の見込み

γ-ブチロラクトンも高沸点溶剤として使用されます。

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図4:γ-ブチロラクトンの各種データ
⁠(出所:ウィキペディア「γ-ブチロラクトン」)

γ-ブチロラクトンはN-メチル2-ピロリドンや2-ピロリドンなどの主原料でもあり、N-メチル-2-ピロリドン同様の傾向にあると考えるべきでしょう。

連載「化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方」は、今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net

東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。