2021年から化学薬品の価格が上昇、供給不安に【化学薬品の供給不安、その見方・向き合い方 第1回】
2022/06/16
連載の目次
本連載で扱う項目
- 第1回 概要の説明
- 第2回 尿素
- 第3回 リン・リン酸
- 第4回 シリコン
- 第5回 有機溶剤(酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン)
構造的な背景が供給不安に関与
2021年から2022年にかけては、コロナ感染症の世界的拡大と、その最中での東京オリンピック開催、さらにロシアのウクライナ侵攻と、その直前での北京冬季オリンピック開催といったように、長く記憶に残る期間となりそうです。
一方、化学薬品の分野でも、いくつかの製品で、価格の急上昇や、調達困難の懸念などが生じ、話題になることが多い期間となっています。
最近の化学薬品をめぐる不安定な状況は、コロナやオリンピック開催といった短期的な要因の影響に加えて、それぞれの化学薬品が抱える構造的な背景が大きく関与して起きている事象として理解すべきと考えています。
そこでChematelsの本連載「供給不安のある化学薬品への向き合い方」では、特に供給不安や急速な値上がりの動きなどの報道が相次ぎ、市場の耳目を集めた化学品の状況について説明するとともに、その原因・構造的な背景なども解説していきます。
今回の概要の説明に続いて、第2回「尿素」、第3回「リン・リン酸」、第4回「シリコン」、第5回「有機溶剤(酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン)」の順番で報告します。
共通する特徴は輸入依存度の高さ
本連載で取り上げる化学製品に最も共通する特徴は、「国内需要における輸入依存度が比較的高い品目である」ことです。そして、これは、日本の産業構造および、産業政策に起因した特徴です。今後とも、この輸入依存度の高さが変わらなければ、同様の事象が起こる可能性があるということを認識した上で、対応策を準備する必要があります。
例えば、尿素(アンモニア)は、日本の石油化学工業を一時期、支えた主要な化学製品です。しかしながら、現在では、国内での生産者・生産数量ともに大きく減少し、主用途の肥料用も含めた全体でも4割程度は海外からの輸入に頼っているのが実状です。2021年、特に話題になった尿素水などの一般工業用途については、さらにその依存度を高めているといわれています。

図1:尿素の輸入CIF価格の推移。CIF(Cost Insurance and Freight)は運賃保険料込み条件のこと
(出所:財務省貿易統計の統計品別表、以下も)
また、リン酸については、もともと日本国内では資源に乏しいという問題がありました。ほとんどを輸入品に依存しています。

ケイ素とも呼ばれるシリコンについては、日本の電気料金価格が高いことが輸入依存を助長しています。特に、精製のための電力消費コストが大きい半導体関連の高純度シリコンについては、国内での生産は減少し、海外生産品の輸入による供給が時代の趨勢となっています。

酢酸エチルも、国内メーカーの撤退により、輸入依存度は大きく上昇しています。また、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンは、もともと世界的に供給メーカー数が少なく、供給側からの変化の影響が大きく市場に影響するという点で、他の製品と類似した状況にあります。

中国の政情、ウクライナ侵攻の状況に着目
これら化学品が、中国に大きく依存していることも、昨年の市場混乱の大きな要因といえます。中国では、徹底したコロナ感染対策のためのロックダウン政策に加えて、冬季北京オリンピック開催に向けたPM25対策を含む環境配慮施策のための電力供給制限(石炭火力発電の稼働低下)、さらに国内市場優先などの政策が敷かれました。政治的施策の影響に、日本国内メーカーの生産状況の悪化が相まって、市場に大きな影響を及ぼしたと思われます。
本連載ではこれらの状況を、製品ごとに解説していきますが、こうした背景の理解が、今後の市場動向を理解するうえで、さらに重要になるものと考えています。
さらに、この企画が決定した時点でまったく予想していなかったロシアのウクライナ侵攻も考慮にいれなければなりません。特に、主要な肥料原料である尿素とリン酸については、大きな影響が予測される事態となっています。これについても、できるだけ補足して記載していきたいと考えています。
次回は、「尿素」について取り上げる予定です。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
