金属に柔軟性を! 材料と微細形状の技術で実現した「金属ゴム」 三菱マテリアル【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第12回】
2023/03/28編集長:三菱マテリアルの金属ゴムって、知ってるかね。
デスク:金属の耐熱性とゴムの柔軟性の両方の性質をもつ材料ですよね。
編集長:あれって「金属みたいなゴム」なのか「ゴムみたいな金属」なのか、どっちなんだろう。
デスク:確かに。作り方も気になりますね。取材してみましょうか。
金属表面にゴムの柔軟性をもたせた金属ゴム
「金属ゴム」は、三菱マテリアルが発明した技術・部材に関する登録商標です。金属の表面を独自の技術で加工したもので、金属の耐熱性をもちつつ、表面にはゴムのような接着性を有しています。
最初に誤解がないように説明すると、金属ゴムとは「金属とゴムの両方の性質がある合金」ではなく、「金属表面を加工し、表面にゴムのような性質をもたせた金属」ということです。金属ゴムの表面を電子顕微鏡で観察すると、複雑な形状をした凹凸構造があり、この構造が接着性をもたらしているとのこと(図1)。実際に表面を触ると、通常の金属と違ってツルツルしておらず、ゴムのような引っかかる感触があるそうです。
図1:金属ゴムの表面の電子顕微鏡写真。プラスドライバーの先端のような複雑な形状となっている
(画像提供:三菱マテリアル)
金属とゴム、それぞれにはトレードオフとなる性質があります。金属の融点は高く、種類によっては1000℃を超えます。比較的融点が低いアルミニウムでも660℃です。一方、天然ゴムやアクリルゴムの融点は200℃以下で、耐熱ゴムといわれるフッ素ゴムやシリコーンゴムでも融点は300℃程度。耐熱性が求められる場面では、金属が多く使用されます。
しかし、金属には、固くて柔軟性に欠けるという欠点があります。材料の表面強度を示す「表面弾性率」は、銅やステンレスでは200ギガパスカル(GPa)、アルミニウムは70GPaです。他方、アクリルゴムやシリコーンゴムは1〜4GPa、天然ゴムは0.3〜1.2GPaと低く、柔軟性においてはゴムに軍配が上がります。
そこで金属ゴムでは、表面に微細形状をもたせることで、金属本来の融点を維持しながら、ゴムのような柔軟性をもたらしています。表面弾性率は0.5〜10GPaと、ゴム素材とほぼ同等です。
また、金属の接合は一般的に、アーク溶接やろう付けなどの材料的接合、接着剤による化学的接合、ボルト締めなどの機械的接合に大別されます。金属ゴムの表面には細かな凹凸があるため接着対象物の凹凸に入り込むことができ、接着剤が不要という特長もあります。
金属ゴムは、金属の表面に正反対といえるゴムの性質を付与するという「いいとこ取り」を実現したものといえます(図2)。
図2:金属ゴムの特性上のポジション。金属には高い耐熱性があり、ゴムには高い柔軟性と接着力がある。トレードオフとなっているこの関係を解消したのが金属ゴム
(画像提供:三菱マテリアル)
ヒントはヤモリにあり
なぜ、三菱マテリアルは金属ゴムを開発しようとしたのでしょうか。三菱マテリアルものづくり・R&D戦略部マーケティング室の担当者によると、材料に求められる機能が複合化しており、トレードオフとなる機能を両立する材料を開発することで新たな市場を開拓できると期待されているからです。金属ゴムも、「金属の耐熱性を維持しつつ、ゴムの柔軟性をもたせる」というコンセプトのもと、開発が始まりました。
社員たちがそこで参考にしたのが、ヤモリの足。ヤモリは垂直な壁やガラスにも張り付くことができると知られています。これを実現しているのが、ヤモリの足裏にある約60万本の微細な剛毛です。剛毛と接着面の間で「ファンデルワールス力」という分子間力が生じることで、ヤモリは垂直な壁でも張り付くことができるのです。
金属の表面に、ヤモリの足裏にある剛毛のような構造をつくることができれば、ゴムのような接着性をもたらすことができると考えられます。このように生物の構造や機能をものづくりに生かす技術を「生物模倣(バイオミメティクス)」といいます。
しかし、言うは易く行うは難し。剛毛のような構造をつくることは非常に難しく、ナノレベルでの加工が求められます。材料に合わせた加工技術の最適化も必要です。
その点、三菱マテリアルは金属材料技術と微細形状技術を強みとしており、高度な加工技術を活用して、金属表面にヤモリの足裏を模した微細形状を作製しようと目指しました。同社が長年培ってきた金属材料技術と微細形状技術を掛け合わせることで、金属ゴムの実現に成功したのです(図3)。
図3:材料と微細形状技術の融合。金属ゴムの実現には、材料技術と微細形状技術の融合が欠かせない
(画像提供:三菱マテリアル)
新たな用途とともに開拓する
金属ゴムの採用が想定される場面は、航空宇宙や半導体、医療分野です。高温というだけでなく、加熱したときの放出ガスが少ないというクリーン性能も求められるシーンで金属ゴムのメリットが生かさせるとしています。使用部分としては、接合部や接着部、仮固定箇所、シール材が考えられます。
2021年8月の発表後、企業から問い合わせが多く寄せられ、大学や研究機関からの技術紹介や協業の依頼もあったとのこと。現在は2023年度の実用化を目指し、顧客の想定用途に合わせた研究開発を進めています。リリース初期はベータ版という位置付けで提供し、PDCA(Plan Do Check Action)サイクルを回しながらスモールビジネスとして育てていく方針としています。
詳細な技術情報については専用ウェブページを公開しており、順次更新しています。このような場面で使いたい、この金属の加工はできるかなどの要望も受け付けており、新しい材料の採用シーンをともに見つけたいとしています。
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。
