作物の病原菌防除やコスメにも! セルロースナノファイバーを多用途に展開 中越パルプ工業【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第9回】

2023/01/31

編集長:「パルプ由来のナノメートルサイズの繊維が、プラスチックを強化する充填剤(フィラー)として使える」というバイオマテリアルの話題があったね。

デスク:「セルロースナノファイバー」(CNF:Cellulose Nano Fiber)のことですね。まだコストが見合わず、フィラーとしての実用例は少ないと聞いたことがあります。

編集長:思い出したけれど、たしか中越パルプ工業という企業が2020年にCNF複合材料の販売開始を発表していた気がする。幕張メッセでの「ファインテックジャパン2022 サステナブルマテリアル展」にも出展しているみたいだね。何か進展があったかもしれない。

デスク:特派員に会場の様子を報告してもらいましょう。

原料・形態とも幅広くCNF関連製品を展開

図1:2022年12月、幕張メッセ(千葉市美浜区)開催された「ファインテックジャパン2022 サステナブルマテリアル展」での中越パルプ工業の展示ブース

中越パルプ工業(本社・富山県高岡市/東京都千代田区)が紹介している「ナノフォレスト」は、パルプスラリーをチャンバー内にある2本のノズルより高速噴射させてスラリー同士を衝突させ、ナノメートルサイズに微細化したセルロースナノファイバー(CNF)やプラスチックに分散させやすくした粉末状CNF(nanoforest-PDP)、CNFをプラスチックに複合させた複合樹脂(nanoforest-MB)です。中越バルプ工業開発本部開発部技師の橋場洋美さんは、「製造には水中対向衝突法(ACC法)と呼ばれる方法を使っています。用途に応じた解繊度が提案でき、微細化のための薬剤は不要。原料には、パルプと水しか使用せず安全という特長があります」と説明します。

図2:ACC法によるナノフォレストの製造。ACC法は九州大学の近藤哲男教授(現・東京農工大寄附講座客員教授)が開発したナノ微細化法で、Aqueous Counter Collisionの略
⁠(画像提供:中越パルプ工業)

このACC法で製造したCNFは、疎水性と親水性の部位をもつ両親媒性です。そのため、乳化作用を持ちます。その特性は、竹、針葉樹、広葉樹といった木の種類ごとに異なります。例えば竹は、疎水面が多く、透明性が高いといった特徴を持ち、一方、針葉樹はフィラーとしての補強効果をより高く出せるといった特徴を持ちます。目的に応じて原料や解繊度を選ぶことができます。

また、スラリー、ペースト、パウダー、ペレットの各種状態で提供されているので、加工のしやすい形態を選べます。「ペレットについては、お客さまから使用する樹脂をご提供いただき、その樹脂にナノフォレストを練り込んだマスターバッチを提供しています」と橋場さんは説明します。

図3:原料や解繊の程度で見た目が変わる。上から竹・針葉樹・広葉樹。右に行くほど解繊度が高い

複合樹脂で真空成形や射出成形も可能

「展示会でお客さまに原料のみでなく、さらに最終製品まで加工した真空成形品や射出成形品を見ていただき、『ここまでできているのか!』とご評価いただいています」と橋場さんは手応えを語ります。

ナノフォレストを樹脂に分散することで、剛性向上、強度向上、表面硬度の向上、収縮・寸法安定性の向上、制振性の向上が期待できます。

図4:シート成形したのちに真空成形で作成した弁当用容器

図5:スニーカーの靴底に使われているゴムにナノフォレストが練り込まれている。靴底の減りを抑えられる

プラスチックのフィラーとしてよく使われるガラス繊維は、安価ではあるもののリサイクル時に切れてしまい、リサイクル性に劣ります。「その点、ナノフォフォレスト はリサイクルしても切れることはなく、熱履歴を4回かけて成形しても物性の低下が見られないことを確認しています」と、橋場さんは特長を話します。

また、ナノフォレスト複合樹脂で発泡成形も試しています。ナノフォレストが発泡核剤となり、セルの微細化やセルの均一化ができ、配合率によってはセル壁にフィラーが入ることにより補強性が高まります。

病原菌の侵入を物理的に防除! 農業資材への応用

「今回、新たに展示したのは、2022年7月にプレスリリースでも発表した、病原菌の侵入を物理的に防除する農業資材『ナノフォレストSアグリ』です。すでに、法人向けに試験販売を開始しています」と橋場さん。

中越パルプ工業は、ナノフォレストSアグリを葉面に散布すると、病原菌の侵入を物理的に防ぎ、病害の感染が抑制されることを筑波大学などとの共同研究で確認しました。CNFが葉の表面を覆うことで、菌の侵入を防ぐマスク効果や、葉表面が親水性になり菌が葉面を認識できなくなるカモフラージュ効果を発揮するのです。キュウリうどんこ病やタバコ野火病、キャベツ黒斑細菌病に対する防除効果を実証しています。

農林水産省が2021年5月に策定した「みどりの食糧システム戦略」では、化学農薬の使用量を低減する目標が掲げられています。ナノフォレストSアグリは、この戦略で推進する総合防除(IPM:Integrated Pest Management)の「物理的防除」にかなった製品といえます。

図6:ナノフォレストSアグリの病原菌防除効果
⁠(画像提供:中越パルプ工業)

鶏舎の環境改善資材としての販売も開始しています。ナノフォレストの水分散液を鶏舎内に噴霧することで、採卵場の生育環境および作業者の労働環境の維持・向上に寄与するとのことです。また、鶏舎内の不快害虫に微細繊維が付着することで、活動を物理的に抑制。化学薬品と違って、鶏や作業者に対する安全性も高く、薬剤耐性の心配もないといいます。

象牙の代替材料としても

CNF100%成形体を作ることもできます。「ナノフォレストCMB」は象牙の代替品となりうるものと期待され、開発を進めています。琴の琴柱や琴爪、三味線の駒や撥に使われてきた象牙の代替材料として竹由来のナノフォレストの利用検討が進んでいるのです。

すでに、琴柱は製品化されています。バイオプラスチックにCNFを配合することで、象牙に近い音質と評価されています。音に関する製品では他に、ナノフォレスト配合の振動板を用いたスピーカーやヘッドホンが製品化されました。

図7:ナノフォレストの和楽器関連製品への応用例。細かい加工ができるので、ギターの弦を支えるサドルナットにも使われる

化粧品にも採用される

化粧品に採用された事例もあります。ボディミルクにはナノフォレストの潤いをあたえ、肌の乾燥を防ぐといった保湿機能が生かされています。また、ボディウォッシュは、手で優しくなでながら洗う洗浄剤で、繊維による汚れの絡め取り機能を発揮。ファンデーションの代替製品となるシリコンフリーの色付き美容クリームにもナノフォレストが配合されています。

橋場さんは「以前は、冬場に肌が乾燥し、かゆみに悩まされていましたが、ナノフォレスト配合のボディミルクを使うようになってからかゆくなくなりました」と使用感を語ります。

図8:ナノフォレストを配合した化粧品。右はボディミルクの液

思いもよらない業種に使途が広がる

中越パルプ工業は2017年から鹿児島県薩摩川内市でナノフォレストの製造プラントを稼働させています。橋場さんは「思いもよらない業種の方々からお声がけをいただき、用途を開発してきました。もっと多くの業種の方々に知っていただき、使途を広げていきたい」と抱負を語ります。

バイオマテリアルとして、ガラスファイバーやカーボンファイバーとは異なる特性を持つCNF。今後、どのように展開していくのか目が離せません。

村上 華子(むらかみ はなこ)

早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

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