日本にはスギという資源がある! 改質リグニン普及への現在地 リグノマテリア【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第1回】

2022/10/20
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編集長:ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって、資源の安定的確保が以前に増して重要視されているね。

デスク:といっても日本は輸入に頼らざるをえないでしょう。

編集長:でも、木材については、スギからプラスチック原料をつくったというじゃない。「改質リグニン、実証設備完成」という新聞記事を見たことがある。その後どうなったかな。

デスク:特派員を送り込んで、報告してもらいましょう。

スギからつくる樹脂系素材、改質リグニン

改質リグニンは、スギの成分の約3割を占めるリグニンをポリエチレングリコールと結合させ「改質」したプラスチック素材です。

リグニンは、赤ワインに含まれることでお馴染みのポリフェノールの一種で、植物の細胞壁に含まれる高分子(芳香族ポリマー)です。どの植物の細胞壁にも含まれ、植物を固くしっかりした構造にしていますが、植物ごとにリグニンの化学構造の基本骨格が異なります。しかも、同じスギでも、斜面に生えたスギと平地に生えたスギで性質が異なりますし、一本のスギでも、根元と枝先では全く性質が異なります。そのため、安定した品質の工業製品に加工するのは難しく、長年、有効利用されてきませんでした。

スギに含まれるリグニンをポリエチレングリコールと結合させれば高品質な改質リグニンになることを発見したのが森林研究・整備機構森林総合研究所の山田竜彦氏です。山田氏の発見を端緒に2019年、リグノマテリア(東京都新宿区)が設立され、改質リグニンの事業化を目指しているところです。

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図1:改質リグニン。正式な物質名は「グリコールリグニン」。ポリエチレングリコール改質リグニン、PEG(PolyEthylene Glycol)リグニンとも。パルプ工業廃棄物の黒液から得られる硫黄臭のするクラフトリグニンとは分子構造が異なり、全く違う物質
⁠(写真提供:森林総合研究所)

改質リグニンは、耐熱性が高く、環境にやさしいだけでなく、加工しやすいという特長を持ちます。具体的には、ポリエチレングリコールの鎖をどのようにリグニンにつけ足すか、つまり、分子の構造をどのようにデザインするかにより性能を制御できます。加えて、改質リグニンには反応性をもつ水酸基があるので、他の化合物と反応させることもできます。水酸基はシリカなどの無機フィラーとの親和性が高く、フィラーをナノ分散させるのにも好都合です。

「これまで石油からつくられてきたポリスチレンなどの芳香族系プラスチックを代替することができます」とリグノマテリア代表取締役社長CEOの三浦善司氏は説明します。「ポリ乳酸など、脂肪族系樹脂を代替できるバイオ素材はいくつかありますが、芳香族系の樹脂を代替できる可能性があるのは、現在のところ、改質リグニンのみです」と同社取締役 CTOの見正大祐氏が続けます。

自動車・電子基盤をはじめ用途は多様

用途としてはすでに、自動車用の外装・内装部材、基盤用フィルム、電子基盤、配管シール材、射出成形部材、3Dプリンタのフィラメントなどが利用可能な品質に達しています。自動車メーカーとは、電気自動車のモーター小型化に欠かせない絶縁剤に使うための共同研究が進んでもいます。

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図2:改質リグニンを使ったドローンのプロペラ。改質リグニンは高強度で、他の樹脂と混ぜることができる。このプロペラでは外側の炭素繊維強化プラスチックに対して50%、内部の発泡体では100%が改質リグニン。全重量の60〜70%に改質リグニンを使うと軽量・高強度を大きく図れる
⁠(写真提供:リグノマテリア)

木材からリグニンを抽出し、ポリエチレングリコールと結合させる製造工程について、見正氏は「高圧や超高温などの工程や、環境に負荷がかかる廃液処理などを経ません。プラントについても、それほど高価な反応釜を必要としません。山間地域にプラントを設置できるくらい安全性が高く、シンプルな工程です」と説明します。

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図3:改質リグニンと副産物の用途例。FRPは繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)。3DPは3Dプリンティング
⁠(出所:リグノマテリア資料を参考に作成)

木材からリグニンを取り出した残りはセルロースナノファイバーなどとして利用できます。「改質リグニンの製造プラントを中山間地域に建設する産地直結工場で輸送のエネルギーを抑えながら、地域創成もめざしています」と三浦社長。

植物由来の改質リグニンは、カーボンニュートラルを超えて、カーボンマイナスとなり得ます。しかもスギという非可食バイオマスを原料にしています。持続可能な開発目標(SDGs)に幅広く貢献する材料といえます。

国会議員も着目しています。2022年4月、衆議院議員の甘利明氏を会長とする「改質リグニン活用推進議員連盟」が立ち上がり、研究開発の補助金や、普及を促進するための補助金の導入検討など、多面的に改質リグニンの普及を後押ししようとしています。

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図4:石油代替となる各種バイオ素材との比較
⁠(出所:リグノマテリア資料を参考に作成)

普及のカギを握るコスト競争力

品質だけでなく、コスト面でも石油由来のプラスチックとの競争力が求められます。リグノマテリアは、生産規模によるコストを図5のように見積もっており、2021年6月から年産100トンの実証プラントによる試験生産を開始しました(図6)。今後1000トン規模の社会実装設備を導入する計画です。さらに年産1万トンを実現すれば石油由来の芳香族樹脂と同等の価格になるとし、目標を2024年以降としています。

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図5:改質リグニンのコストダウンの推進
⁠(出所:リグノマテリア資料を参考に作成)

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図6:世界初の木質新素材「改質リグニン」実証設備。林野庁補助金を得て茨城県常陸太田市内に2021年6月に完成した
⁠(写真提供:リグノマテリア)

日本のスギは余っている

スギが改質リグニンの量産に使われたら、日本のスギ林が枯渇してしまうのではないかという疑問も湧いてきます。三浦氏は、「2022年現在、森林資源の伐採量は年間3000万トン、そのうち約800万トンは、林地に放置されており、ほぼ未利用です。この800万トンで現在、日本で使っている石油由来の芳香族系プラスチックと同程度の供給は可能です」と言います(図7)。

本来、必要とされる伐採量は年間5000万トン。追いついていない伐採量2000万トンも改質リグニンの供給に充てれば、林業の活性化が進みそうです。リグノマテリアによると、伐採必要量のうち50~60%がスギとのことです。

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図7:国内の伐採量と森林資源活用状況
⁠① 森林資源の維持・育成に必要な伐採量 5000万トン/年
⁠② 現状の伐採量は必要伐採量の6割、年間3000万トンのレベルで推移
⁠③ 森林資源の約2000万トン(=5000万トン−3000万トン)は、資源の放置・放棄化
⁠(資料提供:リグノマテリア)

また、スギは高齢樹になると、二酸化炭素吸収量が低下し、花粉量が増加する植物です。日本のスギ林には高齢樹が多いため、伐採して植林する植え替えが急務とされます。「花粉放出量が少なく、二酸化炭素吸収力が高く、成長が速い品種がすでに生み出されており、今後は伐採・植替えが急務です。いままで以上にスギ材の供給が増えていくでしょう。スギから樹脂が作れるのですから、日本は豊富な資源保有国だという捉え方もできるのです」と見正氏は説明します。

国産資源と地方創生への期待

化学製品をつくるために用いられるナフサの価格は、短期的にも長期的にも上昇しています。「ナフサの高騰に伴い、ポリスチレンなどの樹脂価格も高騰しています。これまで私たちは石油化学の原料に依存してきましたが、転換を迫られています。さらに、炭素税、プラスチック税が加わろうとしています。石油化学産業から、持続可能で国産の森林資源を活用する森林化学産業への転換は必須なのかもしれません」と見正氏。

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図8:全国の地域林業・自治体・企業・大学との連携。青*が改質リグニン製造設備の設立予定地
⁠(資料提供:リグノマテリア)

三浦氏は、リグノマテリアの経営理念を、「地球環境の改善を絶対的な目標とし、日本の森林資源を全活用することにより日本経済の発展と地方経済創生への寄与とを同時に実現します」と紹介します。

「日本全国のスギ林に改質リグニンの工場が建ち、スギを付加価値の高い改質リグニンに加工できれば、日本の林業にも活気が戻るはず。日本には、林業者が建築主の要望に応えようと築いた素晴らしい集木システムがあります。下木・中木・上木を分けて管理していて半径の大きさを把握できる他、植生地などの情報も追えます。これは、バイオマスの集荷の管理を大いに助けてくれます。しかし、林業は高齢化し、後継者不足に悩んでいます。この集木システムがあるうちに、新たな産業を興したい」

すでに図8の青マークで示した各種拠点から改質リグニン製造設備への要望が上がっており、全国で製造される計画が進みつつあります。

村上 華子(むらかみ はなこ)

早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

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