カーボンニュートラルへ! バイオマスナフサで素材から社会を変える 三井化学【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第8回】
2023/01/24編集長:バイオマスプラスチックという言葉、よく聞くようになったよね。
デスク:でも、あれってどうやってつくっているんでしょうね。
編集長:さあ……プラスチックがナフサからつくられるのは知っているけど。そういえばバイオマスナフサからプラスチック製造が始まったってニュースは見たことあるぞ。
デスク:なるほど、それを調べればいろいろわかりそうですね。
というわけで記者が向かったのは、日本で初めてバイオマスナフサから化学品やプラスチックの製造を始めた三井化学。ご対応いただいたESG推進室カーボンニュートラル戦略グループの松永有理さんから、バイオマスナフサの特徴だけでなく、そこからバイオマス製品に展開していく際に重要となる「マスバランス方式」についても詳しくお話を伺うことができました。
バイオマスナフサはバイオディーゼルの副産物
2021年12月、三井化学大阪工場にフィンランドのネステ社から購入したバイオマスナフサが到着しました。バイオマスナフサとは、植物など生物由来の有機性資源であるバイオマスから生成された炭化水素混合物のことです。ネステ社のバイオマスナフサは廃植物油や残渣油などを原料に製造されたもので、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)をつくるときの副産物として得られます。
図1:バイオマスナフサ荷揚げの様子
(写真提供:三井化学)
そもそもナフサは「粗製ガソリン」とも呼ばれます。バイオマスナフサもいわば「粗製バイオディーゼル」であり、バイオディーゼルやバイオジェット燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の副産物です。特に欧州ではバイオディーゼルやSAFの需要が高まっているため、合わせてバイオマスナフサの生産量も増えていくことになります。
ナフサはナフサ分解装置(クラッカー)で分解され、エチレン、プロピレン、ベンゼンなど基礎化学品が作られます。これは石油由来ナフサでもバイオマスナフサでも同じ炭化水素ですので変わりません。ただし、バイオマスナフサは植物由来であることから二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献するという特徴があります。例えば、ポリオレフィンなどのポリマーとなったとき、石油由来ナフサと比べて、原料からポリマーが製造されるまで(cradle-to-gate)と焼却廃棄の段階を合わせた二酸化炭素排出量は約60%削減されます。
図2:バイオマスナフサが二酸化炭素削減につながる理由。バイオマスでは焼却時に発生する二酸化炭素と成長時に固定した二酸化炭素が同量になる
(画像提供:三井化学)
松永さんは、「バイオマスナフサ誘導品について多くのお問い合わせをいただいており、既に採用も始まっています。最初に採用いただいたのは中国市場で、アジアでの関心も高いことが分かります」と話します。
国内企業では、たとえば帝人がバイオマスのビスフェノールAを用いたバイオマスポリカーボネート樹脂の生産を2023年前半に開始すると発表しています。松永さんはさらに「食品メーカーでの包装資材、自動車メーカーのバンパーやインパネなどの成型品、塗料などにも活用いただきたいと考えています」とも話します。
バイオマス化を促進するマスバランス方式
三井化学は、今回輸入したバイオマスナフサを「マスバランス方式(物質収支方式)」という方法でバイオマスの割り当てを行っています。
ナフサの分解では、クラッカーという装置にナフサを投入して加熱させ、沸点の違いによって成分を分けて取り出します。マスバランス方式ではバイオマスナフサと石油由来ナフサが混合して投入され、バイオマスナフサの投入量に応じて、認証済みの方法でもって最終製品にバイオマスの割当てを行います。
図3:マスバランス(物質収支)方式。バイオマスナフサと石油由来ナフサを混合して処理する
(画像提供:三井化学)
「クラッカーは、石油化学産業における心臓部のようなもの。ナフサという血液が入ってきて、エチレンやベンゼンなど各臓器に相当するところに流れていくと表現できます。今回は、そこに新たにバイオマスナフサという血液を投入したといったイメージです」(松永さん)
バイオマス製品をつくる他の方法には「セグリゲーション(分離)方式」が採られます。セグリゲーション方式は、バイオマス原料とそうでない原料が混ざらないよう完全に切り分けて製造・管理する必要があるため、専用設備への追加投資が必要となります。また、従来のバイオプラスチックを見て分かるように、石油由来とバイオマス由来とで物性や品質が大きく異なるため、あらためて品質評価を行う手間も生じます。その結果、最終製品では一部しか使用できない、ということも起こりえます。
その点、マスバランス方式で製造したものの物性は石油由来ナフサ100%で製造したものと全く変わらないので、そのままバイオマス製品に切り替えることができます。これがマスバランス方式の大きな特徴です。現在、三井化学ではバイオマスナフサを使用したバイオマス化学品・プラスチックは約30品目とバイオマス製品群の大幅なラインナップ拡大を実現しています。
図4:マスバランス方式の主な特徴
(画像提供:三井化学)
なお、マスバランス方式は他の業界では既に広く採用されています。製紙業界では適切に管理された森林で伐採した木材であることを証明するFSC(Forest Stewardship Council)認証、また食品業界では持続可能なアブラヤシ農園で栽培されたパームオイルであることを証明するRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証や、カカオについては生産者と公平・適切な取引ができていることを証明するフェアトレード認証がありますが、これらもマスバランス方式をもとに原料が加工され、最終製品で認証を割り当てることが認められています。
三井化学も信頼性を担保するために、バイオマスの認証制度の一つとしてヨーロッパで広く採用されている国際持続可能性カーボン(ISCC PLUS:International Sustainability and Carbon Certification PLUS)認証を取得しています。
今回のバイオマスナフサの採用は、社会全体のカーボンニュートラルに貢献する施策といえるものです。「大阪工場のクラッカーでは石油由来ナフサを年間で約150万トン使用しています。これをバイオマス化することができれば、非常に大きなインパクトです。全量をバイオマス化することは今すぐには難しく、石油ナフサとの併用を進めますので、マスバランス方式は非常に重要な考え方です。セグリゲーション方式もマスバランス方式もインプットのバイオマス量に応じて等しく同等に二酸化炭素排出量削減に貢献しますが、マスバランス方式は、既存の設備を活用しながら一度に大量にバイオマス化を実現できるので、社会を変えるインパクトとしては圧倒的に大きいと思います」(松永さん)
脱プラではなく改プラ、世界を素から変えていく
松永さんは、三井化学の歴史を振り返ると50年単位で原料転換が起こっており、いまこそ次の原料転換のときであると話します。
「当社は1912年に日本で初めて石炭副生ガスから化学肥料をつくり、1958年には日本初の石油化学コンビナートでポリエチレンとポリプロピレンの製造を開始しました。石炭、石油の時代を経て、今後はバイオマスとリサイクル原料の時代がやってくると考えています」(松永さん)
枯渇性資源である石油の使用を減らしながら、カーボンニュートラルに貢献するバイオマス、そしてサーキュラーエコノミーに貢献するケミカルリサイクル(使用済みプラスチックを化学的に分解し、原料などに再利用すること)を組み合わせることができるマスバランス方式が社会を変える、とのことです。
三井化学では、バイオマス化の取り組みを「BePLAYERR®」、リサイクルの取り組みを「RePLAYER®」というブランド呼称で展開し、「世界を素から変えていく」というキーメッセージを掲げています。
「今は脱プラスチックが叫ばれていますが、脱プラには必ず限界がくると思います。消費行動に罪悪感を感じる消費者も増えてきている中、消費行動を肯定できる再生的な素材を提供することが素材メーカーの使命ではないかと思います。そこで当社では、原料転換による『改プラ』を掲げ、リジェネラティブ(再生的)なライフスタイルの実現への貢献を目指しているのです」(松永さん)
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。
