認知機能の改善に期待! 鶏由来プラズマローゲンの商品化と研究に迫る 丸大食品【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第11回】
2023/03/07編集長:朝に言っていた打ち合わせって何時からだっけ?
デスク:16時からですよ。編集長、最近、認知機能の維持につながることはしていますか?
編集長:うーむ…。そういえば、丸大食品が認知機能に関わる成分を機能性表示食品として販売しているって見たことがあるなあ。
デスク:「プラズマローゲン」ですね。新しい研究成果も出たみたいなので取材してみましょうか。
編集長:そうしよう。で、その、何ていう成分だっけ。
デスク:……。
鶏由来プラズマローゲンに二つの機能性
ソーセージやハムなどの製造・販売で知られている丸大食品。同社が販売している機能性関与成分が「鶏由来プラズマローゲン」です。鶏ムネ肉から抽出したプラズマローゲンという成分を摂取することで、「言語記憶力」それに「認知機能速度」を維持できることを、自社と国内の大学との共同研究の中で見いだしました。
「言語記憶力」とは、言葉を記憶し思い出す能力のことを指します。人との約束を覚えていること、薬を飲むのを忘れないこと、買い物で買い忘れがないことなどに関係するのが言語記憶力です。
また、「認知機能速度」とは、視覚情報を素早く正確に判断して適切な行動につなげる力のことを指します。カメラのシャッターをタイミングよく切ること、楽器を正確に演奏することなど、目で見ている情報をもとに正しい行動を取るまでのスピードを示すものです。
丸大食品は、鶏ムネ肉から抽出したプラズマローゲンを機能性表示食品として届出を行い、以下の表示ができるようになっています。
表1:鶏由来プラスマローゲンの機能性表示
(出所:丸大食品「プラズマックス」商品情報【リンク:https://www.marudai.jp/user/products/special/plasmax/products.html】より作成)
現在、丸大食品では鶏由来プラズマローゲンを、エキスタイプと粉末タイプの2種類、販売しています(表2)。同社中央研究所の琴浦聡さんによると、2種類ともサプリメントへの利用がほとんどで、ソフトカプセルへの配合が適しているエキス素材はソフトカプセルへの配合、また粉末素材はハードカプセルや打錠品によく利用されているとのことです。
表2:鶏由来プラズマローゲンの商品ラインナップ
(画像提供:丸大食品)
一方、最近では海外からの問い合わせも増えており、中国、台湾、マレーシアといったアジア圏から注目されているようです。海外に向けては輸送のしやすさなのか、粉末タイプの採用が多いとのこと。海外でもヘルスケアの考えが一般に広まっていることから、健康食品のニーズが高くなっているのではないかと、琴浦さんは考えています。
認知機能との関係性に注目
プラズマローゲンは、体内では抗酸化作用を果たしていると考えられているリン脂質の一つです。私たち人間を含む多くの生物が体内にもっています(図1)。また、ドコサヘキサエン酸(DHA:DocosaHexaenoic Acid)やアラキドン酸といった多価不飽和脂肪酸の“貯蔵庫”としての役割もあります。心臓や骨格筋など、酸素を多量に使う部位に多く存在しており、脳にも多く存在することがわかっています。
図1:脂質の種類。プラズマローゲンはリン脂質の一種で、心臓や脳など酸素を多量に使う部位に多く存在する
(画像提供:丸大食品)
プラズマローゲンをめぐっては、高齢者に多くみられるアルツハイマー病患者の脳でプラズマローゲンが減少していることが1999年に報告されました。そのため、プラズマローゲンは認知機能と何らかの関係があることが考えられます。ここに丸大食品は注目しました。
処分される産卵用親鶏の有効活用としても
もう一つ、食肉を扱う丸大食品ならではの着目点もあります。卵を産む「親鶏」は、卵を産む期間が過ぎたときには肉質が硬くなってしまい、食べるのに適していません。そのため、「廃鶏」として処分される場合が多く、精肉としての利用は限定的でした。
「精肉用の鶏は、肉質のよい生後40日~50日で加工します。一方、産卵用に飼育される親鶏は500日から700日くらい飼育します。そのため肉質が硬くなり、皮も厚くなっているので、精肉としての価値がほとんどないのです。処分される廃鶏を有効活用したいと考えて調べたところ、ムネ肉にリン脂質が豊富に含まれていることが分かりました。そこから、リン脂質の一種であるプラズマローゲンの研究が始まりました」(琴浦さん)
2007年、農林水産省の民間実用化研究促進事業に「親鶏由来の機能性リン脂質に関する研究」が採択され、研究がスタート。動物試験や細胞試験を行い、2016年に鶏ムネ肉プラズマローゲンの素材販売を開始しました。
「このころから、エビデンスを明確にして機能性表示食品として販売したいという考えが強くなりました。そこで、2018年からヒト臨床試験を始めることになります」(琴浦さん)
対象となったのは50歳から79歳で、若い頃に比べて記憶力に自信がなくなっているものの、精神状態短時間検査改訂日本版(MMSE-J:Mini Mental State Examination-Japanese)という認知症スクリーニング検査では27点以上と問題のなかった人たちです。パソコン上で10項目のテストを行う「コグニトラックス」という認知機能検査で脳機能を測定しました。
その結果、60歳以上の被験者で、鶏ムネ肉プラズマローゲンの摂取から12週目における比較で、毎日1.0mg摂取した群では言語記憶力の向上が、また毎日0.5mg摂取した群では認知機能速度の向上が、それぞれ有意に認められました(図2)。
図2:言語記憶力と認知機能速度の成績。鶏ムネ肉プラズマローゲンを配合したソフトカプセルを3カ月間摂取する方法でコグニトラックスを実施。*:対照群と比較して有意差あり(p<0.05)
(資料提供:丸大食品)
この結果を根拠に、2020年に言語記憶力に関する表示、また2022年に認知機能速度の表示の届出を行い、いまに至っています。
プラズマローゲンの研究はさらに続く
丸大食品では、プラズマローゲンをめぐる研究をさらに続けています。アルツハイマー病患者では脳内のプラズマローゲン量が減少していることから、プラズマローゲンを摂取することで認知症の発症を予防できないか、検討しました。
マウスに炎症誘導剤を投与して炎症を引き起こすと、アルツハイマー病の原因物質とされているアミロイドβが脳内の前頭前野と海馬という領域で増加します。しかし、事前にプラズマローゲンを3カ月間摂取させたマウスでは、炎症誘導剤によるアミロイドβの増加を抑制できたのです。
琴浦さんは、「プラズマローゲンにはアルツハイマー病の発症を予防する効果が期待できるかもしれません」と話します。
また、機能性表示食品の届出を目的としたヒト臨床試験を行なっているとき、参加者から「睡眠がよくなった気がする」という感想が届いたそうです。調べてみると、睡眠不足の人では体内のプラズマローゲン濃度が減少しているという先行研究がありました。
そこで、社内ボランティア21人によるモニター試験を実施したところ、プラズマローゲンを摂取した期間では、摂取しなかった期間よりも起床時の眠気、頭のはっきり感、ストレスの改善が見られました。
認知機能や睡眠に関わることは、多くの日本人が関心を示すもの。プラズマローゲンの研究が進めば、これらの分野の新たな知見が得られるかもしれません。
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。
