そのままリサイクル工程へ! 紙のコーティングに水性ヒートシール剤 サカタインクス【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第7回】
2023/01/17編集長:ストローやお菓子の包装フィルムが紙に置き換わっているのをよく目にするようになったね。
デスク:紙が飲み物でふやけたり、お菓子がしけったりしないために、何か紙に工夫がしてありそうですね。
編集長:「水性ヒートシール剤開発 サカタインクス、紙製食品包装に照準」という新聞記事を見たことがある。その後どうなったかな。
デスク:水性ヒートシール剤ですか。なんだか環境に良さそうですね。特派員を送り込んで、報告してもらいましょう。
インキの技術を水性ヒートシール剤に応用
サカタインクスは印刷インキやコーティング剤に強みを持つメーカーです。段ボール用のインキでは国内で6割のシェアを、また、アルミ缶のインキでは世界シェア1位を誇っています。
インキの他、機能性材料も手がけています。ヒートシール剤もその一つ。熱を加えると溶けてシール(接着)する機能を持った材料です。
同社は事業展開している欧州などの動向から、いち早く脱プラスチック・減プラスチックの動きを感じ取りました。欧州をはじめ世界で、環境・社会・ガバナンス(ESG:Environment, Social, Governance)への意識の高まりから、脱プラ・減プラの取り組みが積極的に行われ、ポリエチレンなどのプラスチックフィルムの代替として紙が使われ始めています。
しかし、紙をプラスチックフィルムの代替として使うには、紙に撥水性、耐水・耐油性、防湿性を付与しなくてはなりません。そこでサカタインクスは、これまで培ってきた水性アクリルインキの技術を応用して、水性のヒートシール剤に撥水性、耐水・耐油性、防湿性の機能を付加し、紙にのるインクのにじみや剥がれをも抑えた「ブライトーンFCシリーズ」を開発・販売するに至りました。
「この製品は、塗布量を調整するとさまざまな用途に展開できます」と説明するのは、サカタインクス紙・パッケージ事業部応用技術部長の高橋亮太さんです。
図1:ヒートシール剤の用途別塗布量
塗布量により、紙類の防水、フッ素置き換え、紙コップや紙トレーの耐水・耐油性が付与できる。低塗布量での用途では上市済み。「PEラミ」はポリエチレンラミネートのこと
(資料提供:サカタインクス)
塗工性の高さが売り
水性ヒートシール剤の成分はスチレンアクリル系樹脂です。長い紐状の分子にグラフト共重合と呼ばれる枝分かれ構造があり、その枝に-COOHという親水性の高い官能基をつけているため水性となっています。一方、水性でありながらも、紙にこれを塗布して乾燥させると、水との接触角が約103度という良好な撥水性を発揮するようになります。
図2:水性ヒートシール剤
塗布すると撥水性、耐水・耐油性、防湿性が出る。右写真はヒートシール剤を塗布した面に水を垂らした様子
(資料提供:サカタインクス)
サカタインクスの水性ヒートシール剤には表1のようなバリエーションがあります。「以前はスチレンフリーへのご要望も多かったのですが、2022年12月現在はスチレンアクリル系への引き合いが多くあります」と高橋さんは傾向を語ります。
表1:ブライトーンFCシリーズの性能一覧
(資料提供:サカタインクス)
ブライトーンFCシリーズの強みについて、高橋さんは塗工性の高さを強調します。
「いくら水性ヒートシール剤自体の性能が高くても、均一に成膜できないと防湿性能は落ちてしまいます。弊社の水性ヒートシール剤の特長は、お客さまが使いやすい配合をしており、塗工性に優れている点にあります。塗工適性を高めるために、インキで培ったレオロジーや表面張力を最適化するノウハウを応用しています。顔料を凝集せずに安定して分散させるノウハウを、水性ヒートシール剤に含まれる機能性物質の安定分散に役立てています。このようにして、水性ヒートシール剤自体の性能と塗膜の成膜状態の最適化を両立しているのです」
図3:水性ヒートシール剤の水蒸気バリア性能。塗布面を折り曲げると透湿度が高くなるが、塗膜の成膜状態の最適化により、一般品と比べて透湿度を抑えている
(資料提供:サカタインクス)
日米の食品包装基準をクリア
食品包装を目的としているので、サカタインクスは安全性にも配慮しています。水性ヒートシール剤は、厚生労働省が定める改正ポジティブリストに適合しています。
また、米国での使用も見据えて、世界で最も厳しいといわれる、米国食品薬品局(FDA:Food and Drug Administration)の規格にも適合しています。
「水性」ヒートシール剤なら紙リサイクルできる
紙のリサイクルが可能な点も水性ヒートシール剤の強みです。環境配慮型の製品を展開するサカタインクスは、この強みも重視しています。
従来は、紙に耐水・耐油性を持たせるために、シーラントフィルムと呼ばれるプラスチックフィルムをラミネートしていました。ただし、この紙をリサイクルしようとするとフィルムが破断・粉砕されず、不向きです。紙とシーラントフィルムを仕分けすれば紙のリサイクルが可能ですが、仕分けには手間もコストも掛かります。
中には、牛乳パックのようにシーラントフィルムが使われている紙でリサイクルが確立しているもののあります。ただし、これは、回収から再生まで専用のリサイクル工程を整備したからこそです。
「紙のリサイクルをできるようにするため、フィルムの持っていた機能を水性ヒートシール剤で実現させたともいえます」と高橋さんは言います。フィルムを使っていないので紙との仕分けも、専用のリサイクル工程も不要。塗布した紙を粉砕する通常の紙リサイクル工程でのリサイクルが可能です。
バイオマテリアル化でさらに環境配慮を
高橋さんはさらに、「今後の方向性として、バイオマテリアル化を目指しています」と抱負を語ります。脱プラスチックへの貢献に加えて、カーボンニュートラルにも貢献しようと、すでにバイオマテリアル化への検討が始まっています。
バイオマテリアル化まで実現すると、ますます水性ヒートシール剤に注目が集まりそうです。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。
