工場の在庫管理を自動化! DXの心構えと社風とは? AGC【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第3回】

2022/11/15
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編集長:あれ、プリンタのインクがないじゃん。

デスク:ここに予備があるはず……あれ、予備もない。

編集長:おいおい、大事な書類を印刷できないぞ。

デスク:これはまさに、「誰も!発注していないのである!」ですね。

編集長:笑っている場合じゃないぞ。在庫が少なくなったら自動で発注できるシステムがあればいいのになあ。

デスク:そういえば「工場にあるタンクの原料を遠隔モニタリングして、減ってきたら自動発注するシステムをつくった」って、新聞か何かで見たことありますよ。

編集長:それ、AGCの在庫管理システムだよ。私も記事で読んだことあるけど、どういうシステムだったっけ。

デスク:特派員に、改めて取材報告をしてもらいましょう。

原燃材料自動管理システムを開発し、DXを加速

経済産業省が東京証券取引所と共同で企業価値向上につながるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のしくみを構築した企業を選定する「DX銘柄2022」で、33社のうちの1社に選定された素材メーカーのAGC。中期経営計画「AGC plus-2023」の主要戦略の一つが「DXの加速による競争力の強化」です。

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図1:AGCグループのDX
⁠(画像提供:AGC)

2021年4月には関西工場高砂事業所と尼崎事業所に、原燃材料の自動管理システム「Smart Inventory System」を開発、導入し、製造現場にもDXをもたらしています。

今回取材に応じていただいたのは、システム導入当時に関西工場に所属しており、現在は資材・物流部の田中卓弥さんと田上直弥さん。導入の経緯を伺っていくと、DXの導入の鍵となる心構えや社風が見えてきました。

センサーとタグで原料の入出庫を自動検出

関西工場では、薄膜トランジスタ(TFT)液晶用ガラス基板や電子部材、セラミックス、そして電子機器用保護カバーガラスなどを生産しています。

工場では、生産計画の変更のたびに原料の在庫状況を把握し、調達計画を見直す必要があります。少量多品種生産に対応するため、原料管理や調達計画は複雑化する一方です。また、残量に合わせた発注の量やタイミングといったノウハウはベテラン作業員に依存しており、技能の伝承をどうするかという課題もありました。

そこで、原燃材料の自動管理システムを構築するために開発されたのがSmart Inventory Systemです。

Smart Inventory Systemは二つの管理システムからなります。一つが、原料在庫管理システム。工場で使用する全ての原料容器に、無線通信でデータの読み込みや書き込みができるRFIDタグと呼ばれる「札」を取り付けています。原料倉庫出入口に設置したセンサーでRFIDタグを読み取ることで、原料の入出庫を自動でリアルタイムに収集します。

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図2:倉庫の出入口にあるRFIDリーダと呼ぶセンサー(左)が原料容器に置いてあるRFIDタグ(右)を読み取る
⁠(写真提供:AGC)

以前は、作業員が入出庫ごとにパソコンに入力しており、毎月の棚卸しで在庫量を確認していたとのこと。しかし、このシステムにより、入出庫情報をリアルタイムに把握することに成功。生産計画や調達計画を変更するごとに原料在庫を確認するという手間が省けました。年間で500時間を削減できる計算だそうです。

システムを導入するにあたり、協力してくれるパートナーを探すのに苦労したと、田中さんは言います。

「私たちが想定する用途でパッケージ化されたサービスが見つからず、苦労しました。さまざまな展示会に参加する中で沖電気工業の920MHz帯マルチホップ無線『SmartHop』という無線ユニットを知り、一緒にシステムをつくることにしました。テスト時にもいくつかの検討事項があったことを覚えています。最適な種類のタグを探して、なんとかシステムを構築できました」

タンクの残量を遠隔モニタリングして自動発注

Smart Inventory Systemのもう一つの管理システムは、タンク在庫管理システムです。これは、タンク内の内容物の残量をデジタルデータ化して遠隔モニタリングできるようにし、一定量以下になったらサプライヤーに自動で発注するシステムです。

これまでは、タンク残量を目視で確認し、作業書にメモして管理していました。しかし、このような管理方法には、「作業」「精度」「安全」の3点に課題があったと、田上さんは話します。

「残量確認は、広い敷地内の屋内外に離れて設置されている十数基のタンク一つ一つを目視で確認していました。天候に関わらず毎日実施しなければならないなど、作業上の課題がありました。次に、精度面での課題です。従来は目視でタンク在庫を確認し、紙などに転記をするなど、ミスが起きやすい作業でした。また、リアルタイムで在庫が分からないといった問題点もありました。そして、安全上十分な注意をしているものの、一部では危険物タンクに近づかなければ数量が分からないものもあり、安全上の課題もありました」

これらの課題を解決するため、タンク在庫の計測・管理・発注をデジタルツールでまとめたいと考えた田上さん。しかし、すべてを一貫して扱えるパッケージサービスが見つかなかったそうです。

「計測だけ、発注だけというサービスはありました。しかし、タンク在庫の計測・管理・発注は一連の業務なので、一つのシステムにまとめたいという考えがありました。また、単純な発注業務の自動化自体は技術的にそれほど難しくはないのですが、『なぜその日に、その数量を、そのタンクに納入するか、最適な購買方法をどのように考えるのか』というベテラン担当者のノウハウを反映させる必要がありました」(田上さん)

最終的に、コンテック社の「CONPROSYS TMシリーズ」という遠隔監視システムを採用し、タンクに取り付けたセンサーとゲートウェイ機器によりタンク残量をリアルタイムに把握できるようにしました。

タンク在庫管理システム導入により、こちらも年間で500時間の作業を削減できる見込みだそうです。

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図3:タンク在庫管理システム。タンクの残量データは無線で送信され、管理者が確認できるだけでなく、必要に応じて自動で発注できる。写真はタンクに設置された残量を測るためのセンサー
⁠(画像・写真提供:AGC)

DXを進めていくにあたり、汎用的な設定ではうまくいかず、細かい設定変更が必要だったと、田上さんは振り返ります。

「実際に業務を行っている担当者が何を考えているのかという思考をロジック化して落とし込むところに苦労しました。最後は現場の担当者の経験や声がヒントとなり、システムを完成できました」

DXはインフラ、気軽に提案できる社風も大切

Smart Inventory Systemの開発にあたり、いきなりデジタルツールを導入するのではなく、まずは従来型管理の標準化を行ったとのことです。

「工場の現場には多くのアナログ作業が存在しています。デジタル化を進めるためにはベースとなる基礎が大事と考え、まずは安全面や作業標準書の整理から始めました」(田中さん)

現場の理解を得てからDXを推進するのは、どの企業や場面でも重要かもしれません。また、DXはトップダウンで進めるだけでなく、ボトムアップで進むこともあるため、経営者や管理職の理解も欠かせないようです。

「普段の作業で、ここは大変だ、苦労すると感じたら、それを解決する方法はないか考えるという気づきの習慣は日々大事にしています。私の場合、タンク残量管理から発注までの最適な購買方針の決定作業に大変さを感じていました。そのような中で今回のシステムの構想を上司に提案したところ、やってみようということになりました。入社して3~4年目の話でチャレンジングな提案だったと思いますが、当時の上司や関係者からの全面的なバックアップを通じて完成することができました。大変だと思ったことを周囲に話せる社風がDXには必要だと思います」(田上さん)

「若手がチャレンジできる環境も大切です。また、DXは設備投資を必要とし、投資した分を回収できるかが問われれることもあります。しかし、DXは一種のインフラです。インフラは投資回収で表現できるものではありません。DXでどのような改善ができるかが大切だと思います」(田中さん)

AGCの各工場では、製造する製品や活用する技術は違いますが、在庫管理のデジタル化の視点は横展開されているとのことです。

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。

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