コンビニ弁当・おにぎりの日持ち向上剤、安全とおいしさ向上で食品ロス削減に貢献 奥野製薬工業【気になる「あの企業ニュース」を追いかけろ! 第6回】
2022/12/20編集長:お~、おいしそうな弁当だね。
デスク:近所のコンビニエンスストアで買ったものですよ。
編集長:コンビニ弁当は日に日においしくなっていっている気がする。なにか、仕掛けでもあるのかな?
デスク:そういえば1年ほど前に、食品を日持ちさせる技術に関する記事を見つけましたよ。なんでも食品素材でできたもので、弁当などを長持ちさせるだけでなくおいしくなるとか…。
編集長:ほ~。それ、追いかけてみよう。調べてくれないかな。
というわけで、記者はその記事で取り組みが紹介されていた奥野製薬工業を取材してきました。大阪市に本社があり、表面処理薬品を主力にしつつ、無機材料、そして食品の日持ち向上剤や品質改良剤といった各種製剤を開発し、製造・販売しています。
記事に紹介されていたのは「トップNフィットVP」という、ポリフェノールを配合した醸造酢。日持ちだけでなく風味も改善するというのが同社としての特長です。これまで同社はさまざまな日持ち向上剤を開発し、コンビニ弁当の安全やおいしさに貢献してきました。最新の日持ち向上技術からおいしさの秘密を探ります。
弁当の品質を保つ日持ち向上剤
コンビニエンスストアやスーパーマーケットにはたくさんの種類の弁当やおにぎり、総菜が販売され、これらには消費期限が記載されています。消費期限とは、「開封せずに決められた方法で食品を保存したら、安全性を欠くおそれがない」と認められる期限です。傷みやすいお弁当などが、消費期限まで品質を保ちつつ、おいしく食べることができるのはなぜなのでしょうか。
「においが変化するなど腐敗や変敗により品質が低下したり、食中毒が引き起こされたりするのは、原因となる微生物が増えるためです。作ってすぐ食べれば、その心配はほとんどありませんが、コンビニなどのお弁当や総菜は製造してから食べるまでの時間が長いので、微生物が増殖しやすいのです」と奥野製薬工業の総合技術研究所で研究室長をつとめる松元一頼さんは説明します。
「そこで、厳しく温度管理をするなど微生物の増殖を抑えるためのさまざまな手段を講じます。それでも食中毒のリスクはあるので、これらの手段の最後に日持ち向上剤を使うことで、食品の安全性を維持しています」
日持ち向上剤は、数時間から数日といった短期間における微生物の増殖を抑えることで、食品の腐敗や変敗を抑え、食中毒を防ぎます。殺菌剤とちがって殺菌効果はなく、保存料より腐敗を抑える効果はマイルドなので日持ち向上剤の名前で呼ばれます。
ただし食品表示には「日持ち向上剤」とは記されていません。食品添加物には日持ち向上剤という用途表記がないため、食品には「酢酸Na」のように物質名だけで表示されるのです。微生物の増殖を抑える効果のある物質はさまざまなものが知られ、食材や細菌に対して適した成分やその組み合わせが選ばれ使われています。
日持ち向上剤がさかんに使われるようになった背景には、コンビニエンスストアの普及とともにおにぎりや弁当、総菜などの調理済み食品が増加したことや、消費者の意識が食品添加物が含まれていると分かる表示の食品を避けるほうへと変化したことがありました。1980年代から2010年代にかけては、日持ち向上剤の機能を保ちつつ、におい・酸味をいかに抑えるかの試行錯誤が食品業界で続きました。主な動向を表に示します。
表1:日持ち向上剤をめぐる主な動向
風味の感じ方を生かした「デリ製法」を展開
食品の保存性を高めながら、さらに安全性とおいしさをどう保つか。奥野製薬工業が2000年代半ばから開発してきたのは「デリ製法」と呼ぶ、pH調整剤の酸味や酸のにおいを低減するための一連の独自技術です。味やにおいなど、おいしさに関わる成分の相互作用を利用して、安全性を担保しつつ、風味の改善を図ろうというものです。
2007年に開発した「デリブレンド製法」は、うま味成分を独自の製法で配合し、酸味の低減やコクの増加をはかったもの。また、2012年に開発した「デリ匠味製法」は、食品の香りに注目したもので、有機酸や有機酸塩に微量の香気成分を配合し、香りの効果を利用しました。
さらに2018年には「デリ雪華製法」を開発しました。こちらは甘味のもつ、酸味と塩味を感じにくくする効果を生かしたもの。いろいろな甘味成分から適したものを選び、配合することで、酸味と塩味の両方を抑えることを実現しました。
図1:デリ雪華製法。甘味成分を配合することで、酸味だけでなく塩味も低減した
(画像提供:奥野製薬工業)
食品素材だけで日持ち向上、「トップNフィットVP」を開発
奥野製薬工業は、さらに日持ちの向上のための技術を進歩させました。新たに開発した製品が「トップNフィットVP」です。
今度は醸造酢と植物性ポリフェノールという“食品素材だけ”で微生物の増殖を抑えるとともに加工食品特有の不快臭を低減し、おいしさも向上させることに成功しました。成分表示は、「調味酢」といった消費者に馴染みある名称となります。
さらに「トップNフィット」のコンセプトを発展させた新シリーズ「トップNフィットプラス」も立ち上げました。松元さんは、「トップNフィットプラス」シリーズの開発について、「独自の酢酸発酵の方法を開発し、通常のお酢より酸味を感じにくい醸造酢を工夫して実現しました。それをベースにさまざまな加工食品に合わせた味付けをしています」と言います。
発酵技術は、同社としては本格的に踏み入れたことのない領域だったとのこと。「新しい取り組みへのきっかけになる製品になったと思います」(松元さん)
図2:トップNフィットVPの味覚改善効果。焼きサバ特有の臭みを低減
(画像提供:奥野製薬工業)
おいしさには、味やにおいばかりでなく、色などの見た目も大事です。同社はブロッコリーやいんげんなどの野菜の色の変化を消費期限まで抑え、見た目だけで捨てられないようにする技術も開発しています。
食品ロス削減に貢献
メーカーからの要望ばかりでなく、消費者のニーズに合わせて製品を開発するのは試行錯誤の連続とのことです。それでも、「食品の保存期間を長くすることは社会的意義が大きい」と松元さんは強調します。近年の食品ロス問題では、特に消費できる期間が短いことから弁当や総菜が廃棄されやすく問題視されています。少しでも長期間にわたり、安全に食べることができれば、食品ロスの削減につながります。
また、食品の安全性を考えると、微生物の増殖を抑える効果をより向上させることも大きな課題です。「植物エキスなどから抗菌物質を探索し、効果の高い物質を見出すとともに、さらに味覚を追究して、新たな製法を開発していきたい」と松元さんは話します。
日持ち向上剤はコンビニエンスストアに並ぶ弁当や総菜の安全やおいしさを支える縁の下の力持ちだったのです。
佐藤 成美(さとうなるみ)
サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。
