脱リチウム・脱化石燃料の核心は「どこにでもある砂」――ベトナム発スタートアップ・Alternōが挑む、工場のグリーン転換【スタートアップインタビュー#7】

2026/07/22

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化学・素材業界のイノベーションを追う連載「Chema Tech News(ケマテックニュース)」。第7回は、どこにでも存在する「砂」を用いた産業用蓄熱・蓄電システム(サンドバッテリー)を開発するベトナム発のスタートアップ、Alternō Pte. Ltd.を取材しました。レアアースやリチウムに依存せず、工場の脱炭素化と化石燃料からの脱却を実現する同社の技術とオープンイノベーションへの展望について、CEOのHai Ho氏にお話を伺いました。

創業の背景・ミッション:リチウム電池は熱に弱い、ならば砂がある―山小屋のオフグリッド生活と燃料危機が火をつけた創業の情熱

サステナビリティ分野で20年にわたり複数のスタートアップを立ち上げてきたHai氏は、コロナ禍の2年間、太陽光パネルのみで電力を賄う山奥のオフグリッドハウスで生活を送りました。その際、調理や入浴のための湯沸かしに多大な電力を消費し、リチウムイオン電池のシステムが過負荷でシャットダウンしてしまう事態に何度も直面しました。暗闇の中で翌朝の太陽を待つという強烈な原体験から、Hai氏は熱利用における既存蓄電技術の限界を痛感したと言います。その後、2022年11月にベトナムでガソリン不足の危機が発生します。これを機に、当時欧州で注目されつつあった「サンドバッテリー(砂電池)」の技術をアジアの課題解決に応用する決意を固めます。アクセラレータープログラム「Antler」に参加したハイ氏は、ABB Roboticsでセールスエンジニアマネージャーを務め、技術とビジネスの双方に深い知見を持つNam Nguyen氏(現CTO)と出会い、2023年にAlternōの共同創業に至りました。

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図1 バイオマス熱を利用する砂蓄熱エネルギー貯蔵システム「Alternō Hybrid」(中央:共同創業者兼CEO Hai Ho氏)。

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図2 砂蓄熱システムの運転・監視を行うAlternōのエンジニア。

技術・ソリューションの核心:コバルトもリチウムも不要、寿命は25~30年―身近な「砂」と「溶融塩」が実現する絶対安全なエネルギー貯蔵

同社の主力製品は、建設用の砂や川の砂など、世界中どこにでも存在する安価な素材を活用した「砂電池」です。特定の国家に依存し、採掘による環境破壊リスクを伴うレアアース、コバルト、リチウムを一切使用しない点が、地政学的・環境的な最大の強みです。

同社製品は大きく2つに分かれます。一つは数週間から数ヶ月にわたり熱を保存・供給できる「蓄熱電池」です。もう一つは、砂と溶融塩を用いた特殊なセルを組み合わせることで電力を貯蔵する「蓄電電池」です。いずれも不燃性かつ非爆発性で、安全に積み重ねて設置することも可能で、25~30年という長寿命を誇ります。

既にベトナムのヤマハモーターでは、バイク部品の塗装後乾燥工程において、従来の化石燃料を用いた熱風乾燥から砂電池へとリプレイスを進めています。これにより、燃料価格の変動リスクを排除しつつ、日中の工場の余剰太陽光を有効活用することに成功しました。

さらに、カルビーやペプシなどの食品工場における廃棄物の乾燥や油の加熱、オランダや日本の温室栽培における長期蓄熱など、幅広い産業への応用が期待されています。

ビジネスモデルと成長戦略:初期投資ゼロの「EaaS」で工場の脱炭素を民主化―茨城県の全面支援で見据える日本市場開拓

同社は、ハードウェアの買い切りモデルに加え、初期費用不要で月々の消費エネルギー量に応じて課金する「Energy as a Service(EaaS)」モデルを展開しています。導入ハードルを劇的に下げるこのモデルにより、5年後には顧客の70%がEaaSへ移行すると予測しています。

日本市場への参入にあたっては、UntroD Capital Asiaやリバネスといった日本の支援機関が強力なハブとなりました。さらに茨城県からは、市場展開にかかるコスト支援を受け、10ヶ月に及ぶ待機の末に日本でのビジネスビザも取得しました。早ければ2026年第4四半期に日本国内でのパイロット導入を開始する計画です。

今後の日本展開において同社が強く求めているのが、素材メーカーや化学プロセス企業とのオープンイノベーションです。「断熱材」の高度化や、蓄電システムに不可欠なニッケル、鉄、溶融塩に関わるプロセスにおいて、日本の高い技術力との提携を模索しています。

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図3 Alternō One。家庭や遠隔地コミュニティにクリーンな熱を供給するコンパクトな熱電池システム。ベトナム・ラムドン省で実証試験を実施し、冬季の大気汚染対策を目的としてモンゴルへの展開が計画されている。

ビジョンと展望:2030年までに1億トンのCO2を削減する―リチウムイオン電池を塗り替え、世界中の工場をクリーンに変える野望

同社の目指す未来は極めて明確です。世界中のあらゆる製造業へ安価な蓄熱・蓄電システムを提供し、工場全体の炭素排出量を少なくとも20%削減することを目指しています。「私たちの技術が普及すれば、世界中の工場からリチウムイオン電池を置き換えることができる。これは世界にとって非常に大きな変化です」とHai氏は力を込めます。

続けて、読者である化学・素材分野の研究者・技術者の皆様へ、Hai氏から直接の提携を呼びかける熱いメッセージが送られました。

「技術の最終的な判断はエンジニアであるCTOのNamが下しますが、それをどう売り、どう提示し、一般の人々にどう技術の価値を届けていくのかが私の仕事です。これまで私たちは自社だけで多くの研究を重ねてきましたが、事業を加速させるためには、日本の優れた化学・素材のエコシステムが持つ力が絶対に必要です。現在、私たちは砂電池を最適化するための『高性能な断熱材』や、蓄電プロセスに不可欠な『ニッケル、鉄、溶融塩』などの化学プロセスにおいて、共に歩んでくれる日本のパートナー企業を強く探しています。これらの技術的サポートを得て私たちのシステムが完成すれば、世界中の工場からリチウムイオン電池を完全に置き換えることができる。これは世界にとって非常に大きな変革になります。ぜひ、私たちと一緒にこの挑戦に加わってほしいと願っています」

本技術が社会に完全実装されたとき、化学産業や工場のあり方は根本から塗り替えられます。工場の廃熱回収・再利用によるコスト削減、あるいは同社との先端材料開発における共同PoC(実証実験)にご興味をお持ちの企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

謝辞:本取材にあたり、UntroD Capital Asia Pte. Ltd.の熊本大樹氏にコミュニケーションサポートをいただきました。ここに深く感謝の意を表します。

【基本情報】

1. 取材日:2026年6月4日(木)
⁠2. 社名:Alternō Pte. Ltd.
⁠3. 事業内容:砂を用いた産業用蓄熱・蓄電システム(サンドバッテリー技術)の開発・提供。
⁠4. 特徴:どこにでも存在する「砂」を原材料とすることで、レアアースやリチウムに依存しない安全・安価・長寿命(25~30年)な長周期エネルギー貯蔵(熱・電気)を実現。工場の脱炭素化と化石燃料依存からの脱却を可能にする。
⁠5. 代表者・創業者経歴:Co-founder/CEO Hai Ho氏。
⁠サステナビリティ分野で20年のキャリアを持つシリアルアントレプレナー。オンラインコミュニティ、ebook、旅行プラットフォーム、ウェアラブルハードウェアなどのスタートアップを多数起業。コロナ禍の2年間、山小屋でのオフグリッド生活を通じてリチウムイオン電池の限界(熱利用によるシステム過負荷)を体感し、サンドバッテリー技術に着目。
⁠6. 従業員数:22名
⁠7. 所在地:
⁠本社 (シンガポール): 109 North Bridge Road, #07-22 Funan, Singapore.
⁠日本支社(茨城県): 1F Co-en, Tsukuba Center Building, 1-10-1 Azuma, Tsukuba City, Ibaraki.
⁠8. 資金調達フェーズ:シリーズA1ラウンド(100万米ドル調達)
⁠9. 主な株主・VC:UntroD Capital Asia、Antler、ADB Ventures

同社の詳細な事業内容および最新の取り組みについては、下記公式ウェブサイトをご参照ください。

https://Alterno.net/

池田 識人(いけだ しきと)

シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

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