「光」が拓くバイオものづくりの新境地―バイオ芳香族化合物の生産コスト減を実現するミーバイオの独創的プロセス【スタートアップインタビュー#6】

2026/06/30

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化学・素材業界のイノベーションを追う連載「Chema Tech News(ケマテックニュース)」。第6回は、独自の「光制御技術」によって、バイオものづくりの中で、特に毒性の強い物質である芳香族化合物の生産課題であるコストと収率の壁を打破する東京大学発スタートアップ、株式会社ミーバイオを取材しました。代表取締役の早水建祥氏に、創業の経緯から技術の核心、そして石油由来製品に匹敵する経済性を実現するバイオ生産の未来像について詳しくお話を伺いました。

創業の背景・ミッション:「AIに代替される側」から「産業を生み出す側」へ。広告業界から転身しバイオに見出した活路

同社は2019年4月の創業です。もともと広告業界で活躍していた早水氏がバイオの世界へ足を踏み入れたきっかけは、AI技術の急速な進化による危機感でした。「12年前、大病をきっかけに治療入院する中で、AIに関する記事をたまたま目にしました。AIという言葉自体を初めて知った中で、調べれば調べるほど、自分が手掛ける広告に関する仕事はAIに代替される時代が来るのではないかと、衝撃を受けました。AIに代替される側に留まるのではなく、自ら産業を作り出す側に回りたい。そう考えたとき、素晴らしい技術シーズを持つ大学発スタートアップ、特にディープテックアントレプレナーとして自ら興すことに大きなチャンスを感じたのです」と早水氏は振り返ります。その後、東北大学時代の旧友を通じて、細胞や微生物内の生命現象を光で操る「光スイッチタンパク質」の研究者、東京大学の佐藤守俊教授と出会います。佐藤教授が開発した、細胞や微生物の機能を光によって時間・場所特異的にオン・オフできる圧倒的な技術。早水氏は佐藤教授の研究者としての姿勢と技術に惹かれ、この「光制御技術」を社会実装することをミッションに掲げ、佐藤教授と一緒に起業を決意しました。

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図1 独自の光スイッチスマートセルを開発。

技術・ソリューションの核心:毒性すらコントロールする「光スイッチ」。IPTGを超え、石油由来と同等のコスト競争力を狙う

同社が主力とする光制御型バイオ生産システム「mii-Bioprocess®」は、生産物そのものの毒性で菌が死滅する「増殖阻害」により生産が極めて困難だった「芳香族化合物」をターゲットとしています。

従来のバイオものづくりでは、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)といった高価な化学誘導剤を用いて生産をコントロールしてきましたが、IPTGのコストは実生産において極めて大きな負担となります。

「mii-Bioprocess®」は、このプロセスを安価な「光」に置き換えます。

具体的には、光を当てずに菌体を十分に増殖させた後、特定の光照射で「光スイッチタンパク質」を作動させ、物質生産をスタートさせます。この時間特異的な制御により毒性による阻害を回避し、収率を劇的に向上させました。IPTGなどの化学誘導剤と比較して、培地コストを約1/10にまで削減することが可能です。

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図2 光照射を行いジャーファーメンター培養実験

ビジネスモデルと成長戦略:「ライセンス」×「自社生産」のハイブリッド戦略。2030年の社会実装を加速するロードマップ

同社のビジネスモデルは、芳香族化合物の生産を果たす「mii-Bioprocess®」のライセンス供与を中心に、特定の化学品原料の自社生産・販売という二本柱で構成されています。現在、同社はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金約5億円に採択され、大規模な開発ステージにあります。

2026年度:化学メーカーに対して、グラムスケールのバイオ芳香族化合物のサンプルを提供済み。

2027年度:光照射機構を備えた500リットル規模のパイロットプラントを設計・建設し、キログラムスケールのバイオ芳香族化合物のサンプル提供を開始。

2030年度:セミコマーシャルプラントでの商用生産を開始。

特に半導体材料や接着剤、フォトレジストの原料となる機能性化学品のバイオ化を優先ターゲットとしています。Appleなどのグローバル企業からの「脱炭素」への要請に応えたい国内化学メーカーにとって、同社の技術は強力なソリューションとなります。また、昨今の日本におけるナフサ調達リスクに対する代替手段のひとつとして、脱炭素に加えて経済安全保障の文脈でも、バイオ芳香族化合物は注目を浴び始めています。

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図3 新木場の実験室。パイロットプラント建設に伴い拡張予定。

ビジョンと展望:バイオは「石油に代わる一選択肢」。人類が炭素をマネジメントする未来のソフトランディング

早水氏は「バイオは唯一の解ではなく、人類が持つべき代替手段の一つ」と俯瞰的に語ります。ナフサに依存する芳香族化合物の生産を、バイオや再エネなど多様な技術と共存させ、石油消費の「ソフトランディング」を目指しています。

最後に、アカデミアの研究者へのメッセージを伺うと、自身の経験に基づく熱い言葉が返ってきました。

「アカデミアの研究者の方は、大学でのお仕事や、ご自身の研究でお忙しく、実業を意識されることは時間も取れず容易でないことも想像されます。しかし、あえて実業の『ヒリヒリした環境』に身を置くと決心された場合には、産業界からは『この技術には、まだまだ課題がある』と言われることが多々あるかもしれません。ただ、そのフィードバックこそが、基礎研究をさらに磨き上げ、社会に求められる技術へと昇華させる最高のアイデアになると信じていますし、ミーバイオも佐藤先生と一緒にそのような取り組みを繰り返してまいります。」

【基本情報】
⁠1. 取材日:2026年3月26日(木)
⁠2. 社名:株式会社ミーバイオ
⁠3. 事業内容:バイオものづくり生産プロセスの開発/バイオ化成品原料の生産
⁠4. ウリ:独自の光スイッチ技術で菌の増殖と物質生産を自在に制御し、芳香族化合物を石油由来と同等の低コストでバイオ生産を可能にする
⁠5. 代表者・創業者経歴:代表取締役 早水建祥氏。1974年生まれ、東北大学工学部出身。世界の社会課題を解決するために挑むディープテックアントレプレナーを天職として捉え、2019年4月に東京大学佐藤教授と株式会社ミーバイオを設立。大学が持つ優れた技術シーズの社会実装に向けて、活動を続けている。
⁠6. 従業員数:15名
⁠7. 所在地:136-0082 東京都江東区新木場2-3-8 三井リンクラボ新木場1 505
⁠8. 資金調達フェーズ:事業化(パイロットプラント建設)に向けた資金調達フェーズ。
⁠9. 主な株主・VC:アーキタイプベンチャーズ、ジェネシアベンチャーズ、他

同社の詳細な事業内容および最新の取り組みについては、下記公式ウェブサイトをご参照ください。
https://www.mii-bio.com/

池田 識人(いけだ しきと)

シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

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