脱石油への挑戦。水素菌とコリネバクテリウムが切り拓くCO2資源化研究所の未来【スタートアップインタビュー#9】
2026/09/03化学・素材業界のイノベーションを追う「Chema Tech News」。今回は、独自のバイオ触媒技術を用いてCO2や混合糖から化学品・エネルギーを生産する、CO2資源化研究所を取材しました。三菱化学で30年以上研究に従事した経験を持つ代表取締役の湯川英明氏に、サイエンスの壁を突破した技術の核心や、プラントを持たない独自のビジネスモデル、そして石油コンビナートがバイオへ生まれ変わる未来像について詳しくお話を伺いました。
創業の背景・ミッション:若い研究者に機会を――原油急落の逆風から生まれた「CO2資源化」への執念
CO2資源化研究所は2015年に設立されました。代表の湯川氏は過去にバイオベンチャーを上場へ導いた実績を持ちますが、原油価格急落に伴う研究方針の転換を当時のベンチャーキャピタルに猛反対された苦い経験を持ちます。これが「長期的な視野でCO2から化学品やエネルギーを作る研究を行い、若い研究者に機会を与えたい」という強い信念を生み、同社の創業に至りました。現在は、地球温暖化対策の主たる解決策である脱石油の実現という、極めて困難な社会課題に真っ向から挑んでいます。

図1 CO2と非可食バイオマスを起点とする2つのバイオ触媒事業と製品展開の全体像
技術・ソリューションの核心:サイエンスの困難を乗り越え、圧倒的な知財優位性を確立する「二つのバイオ触媒」
同社の主力技術は、CO2から直接化学品等を作る「水素菌」の活用と、バイオマス由来の混合糖を原料とする「コリネバクテリウム」を用いた物質生産の二軸です。微生物の増殖を途中で止め、微生物そのものを化学触媒のように用いて生産を行う点が最大の特徴です。
特に水素菌については独自の菌株を採用しており、一般的な水素菌が分裂に3時間かかるのに対し、わずか1時間で分裂するという驚異的な生育能力を持ちます。さらに生育至適温度が52度と高温なため、発酵時の冷却コストを大幅に削減できるという工業的利点も備えています。
この新しい菌株を用いて独自の遺伝子で化学品を作る概念を実証し、排他性の高い強力な基本特許を国際的に成立させることに成功しました。この知財の強みこそが、他社の追随を許さない同社ならではの強力な武器となっています。

図2 実験室で稼働する培養槽(バイオリアクター)
ビジネスモデルと成長戦略:プラントを持たず、研究の「フリーダム」を大切にする。独自のディープテック戦略
巨額の資金で自社プラントを建設する一般的なモデルとは異なり、同社はプラントを持たず技術トランスファーを基本とする独自の戦略を展開しています。巨額の資金調達によって外部資本に過半数を握られ、研究方針の自由度が奪われるのを防ぐためです。社会情勢やトレンドの変化に柔軟に対応できる「フリーダム」の維持こそが、ディープテックベンチャーには最も重要と考えています。
現在は花王やライオンといった大手企業等から支援を受け、共同研究や技術提供を展開中です。今年度中には1000平米の試作品製造エリアを完成させ、来年度からは連携企業とともに試作品を市場へ送り出すという、高度な社会実装のステージへ移行します。

図3 フリーズドライ加工されたUCDI®水素菌の粉末菌体
ビジョンと展望:石油コンビナートを「バイオ」へ。日本の技術力で勝ち残る未来と研究者の希望
SAF(持続可能な航空燃料)の実用化や高付加価値なニッチ市場への展開を現実的に進める中、同社が究極のビジョンとして描くのは「既存の石油化学コンビナートを、バイオものづくりのコンビナートへ変革する」ことです。同社の技術は既存の化学プロセスと親和性が高く、現在のユーティリティ設備や現場の優秀な技術者をそのまま活かしながら、生産設備をバイオへと入れ替えることが可能です。これを日本が世界に先駆けて実現できれば、資源自立という国益にも大きく貢献します。
「科学技術で勝ち残らなければ日本は再生できない。若い研究者が希望を持てる社会を作りたい」という願いが同社の原動力です。次世代のサステナブルな事業創出を目指す企業の皆様は、ぜひ同社のバイオ触媒技術とのオープンイノベーションの可能性をご検討ください。
【基本情報】
1. 取材日:2026年7月28日
2. 社名:CO2資源化研究所
3. 事業内容:水素菌およびコリネバクテリウムを用いた、CO2や混合糖からの化学品・エネルギーの物質生産
4. 特徴:微生物の増殖を止めて化学触媒のように使い、脱石油を実現する技術。圧倒的な基本特許の保有による知財面の優位性
5. 代表者・創業者経歴:CEO/CSO 湯川 英明氏。
1971年東京大学農学部卒業後、三菱油化(現・三菱ケミカル)にてバイオ研究に従事。地球環境産業技術研究機構(RITE)理事を経て、2011年にGEI創業、2015年に株式会社CO2資源化研究所を設立
6. 従業員数:30名
7. 所在地:〒135-0091 東京都港区台場2丁目3-1トレードピアお台場14階
8. 資金調達フェーズ:第三者割当増資を実施中
9. 主な株主:(株)クリーク・アンド・リバー社、K&Oエナジーグループ(株)、ライオン(株)
同社の詳細な事業内容および最新の取り組みについては、下記公式ウェブサイトをご参照ください。
Chematels編集部
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