研究の副産物から生まれた「特異な構造」が放熱の常識を変える。U-MAPが窒化アルミニウムファイバーで挑む電子機器の熱革命【スタートアップインタビュー#3】
2026/06/04電子機器の高機能化・小型化が加速する現代において、開発の最前線で最大の障壁となっているのが「熱」の問題です。この課題に対し、名古屋大学発のスタートアップ、株式会社U-MAPは、世界で唯一の独自素材「Thermalnite(サーマルナイト)」を武器に、素材の力による放熱ソリューションの社会実装に挑んでいます。代表取締役社長の西谷健治氏に、創業の経緯から技術の核心、そしてビジョンについてお話を伺いました。
創業の背景・ミッション:「不要なもの」を「価値あるもの」へ。研究室の偶然を社会実装へつなぐ使命感
同社の核心技術である窒化アルミニウム(AlN)ファイバーは、名古屋大学・宇治原徹教授の研究室における「偶然の発見」から生まれました。本来除去すべき結晶が極めて高品質な単結晶ファイバーであると判明し、パワーデバイスの熱課題解決に向けて社会実装が始動。創業から1年半後、宇治原教授から誘いを受けた西谷氏は、「大学の技術を社会に届ける」というスタートアップの役割を担うべく参画。現在は社長として、その歩みを加速させています。

図1 U-MAPが開発した独自素材「Thermalnite(サーマルナイト)」
技術・ソリューションの核心:1/4の充填量で同等以上の性能。粒子接触の限界を突破する「熱の道」
Thermalniteは、金属並みの高い熱伝導性と電気絶縁性を両立した世界でも類を見ないAlN単結晶ファイバーです。従来のパウダー放熱材料は粉体同士の物理的接触に頼るため多量の充填が必要でしたが、Thermalniteは「ファイバー形状」により効率的な熱のパスを形成します。そのため、従来の約1/4の充填量(10〜20%)で同等以上の放熱性能を実現し、放熱効率を劇的に向上させます。ガスを反応させ一方向に結晶を直接「生やしていく」独自の合成プロセスも極めて独創的です。

図2 Thermalnite添加AlN基板

図3 Thermalnite添加低熱抵抗TIMシート
ビジネスモデルと成長戦略:素材提供から「材料設計」のパートナーへ。共創で狙う100億円規模の実装
累計約20億円の資金を調達し量産化ステージにある同社の強みは、素材販売だけでなく、ファイバーの向きやサイズを最適化する「材料設計」まで提供できる点にあります。岡本硝子㈱との共創では、独自の材料設計と相手方の量産技術を組み合わせ、通信分野向けの高性能AlN基板の実装が進んでいます。ターゲットはデータセンターの通信用レーザーやEVなど「高発熱密度」に悩む分野であり、大手メーカーへの販路拡大を積極的に進めていく構えです。
ビジョンと展望:社会インフラの熱を管理し、エネルギー効率を極限まで高める
西谷社長が描く中期目標は、5年後に売上規模100億円を達成することです。その先に目指すのは、熱問題が克服された「高効率な社会」の実現です。
例えば、冷却設備が全電力の約3〜4割を占めるデータセンターにおいて、素材の力で冷却電力を最小化できればエネルギー効率は劇的に向上します。AIやEVがインフラとなる未来を見据え、アカデミアの研究成果を「社会的価値」へと変換する強い決意が、世界の熱問題を解決する原動力です。
【基本情報】
取材日:2026年3月11日(水)
社名:株式会社U-MAP
事業内容:新素材「Thermalniteサーマルナイト」を用いた電子機器の熱問題解決ソリューションの提供
ウリ:高い熱伝導性と絶縁性を両立し、少量添加で効率的な放熱パスを形成する「ファイバー状単結晶窒化アルミニウム」の開発
代表者・創業者:代表取締役社長 西谷健治氏。2015年3月 名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程を修了。2015年4月 株式会社バローホールディングスに入社。大手流通・小売グループの現場やビジネス基盤において実務経験を積む。2018年2月 同社を退社。 2018年5月 株式会社U-MAPに入社。入社と同月に代表取締役CEOに就任し、現在に至る。
従業員数:30名
所在地:464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町 Tokai Open Innovation Complex(TOIC)601
資金調達フェーズ:量産化ステージ(累計調達額は約20億円)
主な株主・VC:UntroD Capital Japan, 京都大学イノベーションキャピタル、ほか
池田 識人(いけだ しきと)
シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

