Gaianixxがもたらす「動的格子マッチング」―次世代通信・AIを支える多能性®中間膜の衝撃【スタートアップインタビュー#4】
2026/06/11化学・素材業界のイノベーションを追う連載「Chema Tech News(ケマテックニュース)」。第4回は、独自の「多能性®中間膜」により化合物半導体製造に劇的な進化をもたらす、東京大学発スタートアップの株式会社Gaianixxを取材しました。代表取締役社長の中尾健人氏に、物理的限界を「マルテンサイト変態」で突破した技術の核心、そして高性能化する半導体が拓く未来像について詳しくお話を伺いました。
創業の背景・ミッション:「最初は大学の部室のような箱だった」―大手メーカー出身の研究者と経営のプロが歩み出した背景
同社の原点は、東京大学工学部の田畑仁研究室にあります。同社CSOを務める木島健氏が、国内プリンター大手、および国内家電大手メーカーのエンジニアを歴任し長年向き合ってきた、異種材料上での結晶成長における「格子定数のミスマッチ」という物理的限界が、すべての始まりでした。

図1 同社CSOを務める木島健氏。
化合物半導体などの高品質な単結晶膜を安価な基板上に形成しようとすると、材料ごとの原子間距離(格子定数)の違いから結晶に欠陥や歪みが生じ、デバイスの性能を十分に引き出せないという技術的難題がありました。定年後、装置メーカーなどで技術を成熟させようと試みたものの、当時はメカニズムのすべてを紐解くには至りませんでした。そこで木島氏は、かつて国際会議の場で互いに研究成果を競い合い、良きライバルとして認め合っていた東京大学 田畑仁教授と再会します。展示会の会場で顔を合わせた二人は、材料開発への情熱で即座に意気投合。共同研究を開始しました。その研究成果が特許として出願される段階で、東京大学エッジキャピタル(UTEC)などのファンドがこの技術の事業化に強い関心を示しました。
しかし、「研究者だけでは会社の運営や経営は難しい」という課題もありました。そこで、グローバルなビジネス経験を持つ中尾氏を経営のプロフェッショナルとして外部から招き入れることとなり、2021年11月に会社が設立されました。中尾社長によれば、当初は「大学の部室のような、中身はまだ何もない箱」からのスタートでしたが、2022年2月から本格的な事業活動を開始し、世界を変えるディープテックとしての歩みを強めています。
技術・ソリューションの核心:格子を「動かして」合わせる―マルテンサイト変態によるパラダイムシフト
現在、次世代通信、AIデータセンター、自動運転の進化を支えるべく、SiC、GaNに代表される「化合物半導体」や「機能性材料」への期待が急速に高まっています。しかし、そこには「結晶品質」と「コスト」という二つの巨大な壁が立ちはだかっています。
同社はこの物理的限界を、独自の「多能性®中間膜」で突破しました。金属工学の「マルテンサイト変態」を応用し、成膜プロセスで中間膜の格子自体を伸縮させる「動的格子マッチング」を実現。中間膜が歪みを引き受ける緩衝材となり、本来は相性の悪い材料同士でも高品質な単結晶膜の成長を可能にしました。

図2 多能性中間膜を施したウェハ。

図3 単結晶機能膜_ウェハ画像。
ビジネスモデルと成長戦略:2030年に売上100億円へ―通信・AI・データセンターを射程に入れた「包囲網」
同社の最大の市場優位性は、安価で安定供給されている「大口径シリコン基板(8〜12インチ)」上で化合物半導体と同等の性能を実現し、60%以上のコスト削減を可能にする点です。あらゆる材料に応用できる「多能性」を活かすため、材料・装置メーカーを株主に迎え強固なエコシステムを構築しています。
ロードマップでは、2030年までに6G/7G通信向けRFフィルタや、AI・データセンター向け光モジュレータなどの高成長マーケットに注力。2030年に売上100億円規模への成長を計画し、2029年を目処のIPOも視野に入れています。

図4 同社の開発拠点である山梨テクニカルセンター
ビジョンと展望:基盤技術をデファクトスタンダードに―半導体が変えるエコシステム
中尾社長は、半導体の極限までの高性能化がもたらす遠い未来の展望として、『振動発電』への寄与を挙げます。人々が歩く際の圧力や、スマートフォンの画面へのタッチがすべて電気に変わる――自社の基盤技術が次世代デバイスの進化を支えた先には、自然界に依存せず、人類一人ひとりが電力を生成するエコな世界が待っているかもしれません。
最後に、アカデミアの研究者や読者に向けて、中尾社長は熱いメッセージを送ります。「日本の研究室には素晴らしい技術が眠っていますが、特許化して『タンスの肥やし』にしてしまう傾向があります。研究成果を世の中のデファクトスタンダードにし、世界を豊かにすることこそが最大のゴールです。一人がすべてを担う必要はありません。外部の経営人材やパートナーと強みを活かし合い、ぜひ実業の舞台へチャレンジしてください。」
【基本情報】
取材日:2026年4月8日(水)
社名:株式会社Gaianixx
事業内容:半導体基盤技術「多能性®中間膜」の研究開発およびウェハの販売
ウリ:「動的格子マッチング」により、安価な大口径シリコン基板上への高品質な化合物単結晶成膜を可能にし、コストと性能のトレードオフを打破する
代表者・創業者経歴:代表取締役社長 中尾健人氏。
成蹊大学経済学部卒業後、総合機械商社に入社し自動車・航空宇宙・半導体等の「モノづくり産業」に従事し、多種多様な製造・製法を学ぶ。その後、外資系総合電機メーカーにて日系顧客向けの半導体ビジネスをグローバルで展開し、日本・米国・欧州・中国・東南アジアを統括しビジネス拡大に貢献。 2015年から海外に駐在し海外営業拠点統括を経て、2019年に同社 日本法人 代表取締役に就任し経営に携わってきた。 2021年にGaianixxを設立し、2022年にCEOとして着任。
従業員数:約30名
所在地:〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学 南研究棟 アントレプレナーラボ
資金調達フェーズ:シリーズC(累計調達額 48.5億円)
主な株主・VC:株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、JX金属株式会社、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社(JIC VGI)、アルコニックス株式会社、i-nest Capital株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、三井金属CVC2号ファンド(Mitsui Kinzoku-SBI Material Innovation Fund Ⅱ)、Vertex Ventures Japan、東レインターナショナル株式会社、きらぼしキャピタル株式会社
池田 識人(いけだ しきと)
シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。
