「水中・マイルド反応」が壊す既存プロセスの壁―グリーンケミカルの独自触媒が拓く、非可食バイオマス由来HMF・FDCAの量産化【スタートアップインタビュー#8】

2026/08/20

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化学・素材業界のイノベーションを追う「Chema Tech News(ケマテックニュース)」。今回は、非可食バイオマス資源から芳香族系バイオプラスチック原料(HMF・FDCA)の製造技術開発に取り組む株式会社グリーンケミカルを取材しました。独自の触媒技術によって「水中で機能し、高温高圧を必要としないマイルドな反応」を実現した同社。代表取締役の張錦良氏に、大手化学メーカーからの転身の経緯や技術の核心、そして日本の「ものづくり」の力を取り戻すためのビジョンについて詳しくお話を伺いました。

創業の背景・ミッション:「自分の手でコントロールし、世の中に出していきたい」―環境問題解決に向けた、大手化学メーカーからの転身

張氏はかつて、積水化学工業株式会社で研究開発に従事する中、「環境課題を化学で解決し、自らの手で直接製品を世に出したい」という実業への情熱が高まっていきました。

そして張氏が次なる活躍の場として注目したのが、バイオマスプラスチック素材の領域でした。東京工業大学(現:東京科学大学)発の技術を事業化するグリーンケミカルのコア技術に惹かれ、2023年に同社へ入社しました。2024年4月に代表取締役に就任し、現在、技術の社会実装に向けたタクトを力強く振るっています。

技術・ソリューションの核心:グルコースを原料に「水中で機能する」独自触媒技術―万能なプラットフォーム化合物「HMF」を高選択的に合成

同社のコア技術は、非可食バイオマス由来の糖液(グルコース)からプラットフォーム化合物「5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)」を合成する独自触媒技術です。海外企業の多くがフルクトースを原料とし、強酸・高温高圧で処理するのに対し、同社は「水中で機能しマイルドな条件下で反応が進む」点が画期的です。環境負荷が極めて低く、副生成物を抑えてHMFを高効率に生産できます。さらにHMFから誘導される2,5-フランジカルボン酸(FDCA)は、既存PET樹脂の2~10倍のガスバリア性を持つ「PEF」の原料となります。食品鮮度保持などに寄与し、環境配慮にとどまらない圧倒的な付加価値を提供します。

ビジネスモデルと成長戦略:100kgスケールから連続生産プラントへ―NEDO「PCAフェーズ」が加速させるライセンスビジネス

グリーンケミカルは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)」のGX分野に2期連続で採択されています。2026年3月末には、基礎技術を固めて、2000Lスケールでの実証を通じて、HMFおよびFDCAの製造技術を確立する「STSフェーズ」を完了しました。現在はパートナー企業とベンチスケールプラントでの一貫連続生産実証を進めています。原料は株主の王子ホールディングスと連携し、木質パルプ由来糖液の活用を見据えています。自社生産に加え、化学メーカーへの「技術ライセンス展開」も強力に推進。環境性能と高機能性が求められる高付加価値市場を初期ターゲットとし、すでに複数企業へサンプル提供を開始しています。

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図1 非可食バイオマス由来糖液から製造したHMFおよびFDCA

ビジョンと展望:未利用資源の完全循環がもたらす「日本の資源自立」-化石資源に頼らない、国内完結型のものづくりサイクル

2年後の生産開始、4年後の規模拡大を見据える同社が目指すのは「日本の資源的自立」です。化石資源を持たない日本が、木質や未利用の非可食バイオマスを活用し、国内完結型でプラスチックを循環させるサイクルの確立は経済安全保障上も極めて重要です。「自分たちの資源を有効活用し、人々の生活を豊かにする日本発の技術を、最終的には地球全体に還元していきたい」と張氏は力強く語ります。

【基本情報】
⁠1. 取材日:2026年7月14日(火)
⁠2. 社名:株式会社グリーンケミカル
⁠3. 事業内容:バイオマス変換触媒製造及び販売、反応プロセスの開発及び販売、カーボンニュートラル化成品の製造及び販売。
⁠4. 特徴:独自の触媒技術により、水中・温和な条件でグルコースから高選択的にHMFを合成し、FDCAをはじめとする多様なフラン系化合物へ展開可能な革新的プラットフォーム技術。
⁠5. 代表者・創業者経歴:代表取締役 張 錦良氏。
⁠東京工業大学大学院で有機化学を専攻後、2017年に積水化学工業株式会社へ入社。高機能材料の研究開発・事業開発に携わる中で、化石資源に依存しない素材への転換の必要性を強く認識し、環境課題を科学技術で解決することを志して2023年に株式会社グリーンケミカルへ参画。創業メンバーとともに技術の事業化を推進し、約1年間の伴走期間を経て2024年4月に代表取締役へ就任。現在は、独自の触媒技術を核としたバイオマス由来フラン系化学品の社会実装と事業拡大を牽引している。
⁠6. 従業員数:10名未満
⁠7. 所在地:〒251-8555 神奈川県藤沢市村岡東二丁目26番地の1 湘南ヘルスイノベーションパーク
⁠8. 資金調達フェーズ:シリーズAラウンド(調達中)。NEDO-GX事業(PCAフェーズ)採択。
⁠9. 主な株主・VC:株式会社みらい創造インベストメンツ、東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社(THVP)、王子ホールディングス株式会社

同社の詳細な事業内容および最新の取り組みについては、下記公式ウェブサイトをご参照ください。

https://green-chem.jp/

池田 識人(いけだ しきと)

シーエムシー出版編集部(東京)。同社出版の雑誌『月刊ファインケミカル』編集を経て、現在は主にレポートの企画・編集業務に従事。ファインケミカル、新材料・新素材、エレクトロニクス、エネルギーなどの分野において、産業界で注目の旬なテーマを書籍化している。

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