真球状の超微粒子でPFASを代替する高機能ポリエチレンを実現!―第73回化学技術賞 三井化学 【受賞技術から見える未来】
2025/09/02発がん性が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS:Per- and Polyfluoroalkyl Substances)の規制が世界的に加速するなか、フッ素に頼らない多機能な材料が求められています。三井化学の超高分子量ポリエチレン微粒子「ミペロン®」は、塗料やグリースに添加することで、ポリテトラフルオロエチレンのようなPFASの一種を使わずに摩耗のしにくさや滑りやすさを実現する製品です。その中でも新しく開発された「ミペロンPM-200」は、直径10 µm以下の真球状の超高分子量ポリエチレン微粒子を作ることで高い機能性を実現しています。同社のこの新しい技術が高く評価され、第73回「化学技術賞」を受賞しました。開発チームを代表して、主席研究員の齋藤奨さんと村田進さんに、開発の経緯や技術の内容について、詳しく話を伺いました。
長年培ってきたポリエチレン技術から生まれた超微粒子
1950年代半ばに日本で先駆けて樹脂の重合に用いるチーグラー・ナッタ触媒に着目し、低圧法による高密度ポリエチレンの生産を開始した三井化学。以来、同社はさまざまなポリエチレンやポリプロピレン製品を開発してきました。
超高分子量ポリエチレンパウダー「ハイゼックスミリオン®」もその一つです。平均分子量最大600万の超高分子量ポリエチレンを120〜260μmの粒子にしたハイゼックスミリオン、および数十μmの粒子としたミリオン®は、他の材料と混合することで耐摩耗性や、樹脂の滑りやすさを意味する摺動性を向上させる製品で、産業資材や医療器具などさまざまな分野で活用されています。加えて、耐衝撃性、絶縁性、耐薬品安定性といった、ポリエチレンが持つもともとの特性を付与できる点から、PFASの代替材としての活用も期待されています。
「昨今のPFAS規制や環境意識の高まりを背景に、このポリエチレンパウダーの特性を生かすため、粒子をもっと小さくできないかという要望が高まってきました」と齋藤さんは話します。
「粒子を小さくすれば、薄いフィルムや精細な基材の被膜にも配合でき、用途が広がります。しかも粒子を小さくするだけでなく、真球状にできれば、均一に分散し、混合しやすいパウダーを作ることができます。ハイゼックスミリオン、ミリオンの優れた機能性はそのままに、粒子をより小さく、そして真球状にすることに挑戦しました」
数年の開発期間を経て誕生したのが「ミペロンPM-200」です。ミペロンPM-200は、粒径10µmの極小サイズで、ハイゼックスミリオンと比べると10分の1以下まで小さくなりました。さらに、真球に近い形状も実現しました。下の電子顕微鏡写真は粒径30µmのミペロンXM-220と10µmのミペロンPM-200で、ミペロンPM-200のほうがより真球状であることが分かります。

図1:ミペロン®の電子顕微鏡写真
(画像提供:三井化学)
PTFEを越える機能性を超極小粒子が実現する
これだけ小さなミペロンを各種プラスチックに添加することで、製品の摺動性や耐摩耗性、耐久性、静音性を大幅に向上させることができました。
下図はミペロンPM-200を塗料・コーティング剤として評価した結果です。ミペロンPM-200の動摩擦係数はポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)よりも低く、超高分子量の特性を生かした耐摩耗性を持ちます。塗料系でのPTFEパウダー代替として使用されています。

図2:ミペロン®PM-200を塗料に添加した部材の摩耗試験結果
(画像提供:三井化学)
さらに、グリースに添加することでグリース単体に比べて耐久性が向上することも分かりました。

図3:ミペロン®PM-200をグリースに添加した場合の耐久性
(画像提供:三井化学)
受け継がれた想いが開発を成功に導く
開発成功の鍵となったのは、「シングルサイト担持触媒」を生み出したことにあったと齋藤さんは説明します。
「これまで使っていたチーグラー・ナッタ触媒はマルチサイト触媒と呼ばれ、活性点が複数あります。活性点の特性の違いによって、分子量が長いもの、中くらいにもの……と、さまざまな分子量のポリエチレンが混ざってしまいます。今回、開発した触媒は、担体から開発し、活性点が一つとなる独自のシングルサイト触媒を適用することで、超高分子量を達成しつつ、生成されるポリエチレンの分子量の分布を大きく狭めました。結果として、より均一なポリマー粒子を作れるようになりました」
ミペロンの成功には、複雑なプロセスを一つひとつ精密に組み立てる地道な作業が欠かせませんでした。何度も実験を繰り返し、「くじけて、あきらめそうな瞬間もあった」と村田さんは振り返ります。それでもゴールまでたどりつけたのは、なぜだったのでしょうか。
「人のつながりの力が大きかったと思います。私が関わる前から、多くの人がこの技術を検討していました。途中で離れてしまった人も『あれはどうなった』と気にかけてくれて励みになりました。私は研究開発担当ですが、安定生産するためには製造部の方々の尽力が必要ですし、事業部を含めた顧客対応をする方々の着実なフィードバックが必要です。『これは良い技術だから売れる』と期待し、製造部や事業部とも連携しながら何度も議論を重ねて技術をブラッシュアップしながら進めてきました。そうした積み重ねがあったから、粘り強くやり抜けたのだと思います」
「難しいのでは」の声が上がる中での2年連続受賞
三井化学は前年も化学技術賞を受賞しており、「さすがに2年連続の受賞は難しいのでは」という声も社内にはありました。だからこそ、受賞の知らせを聞いたときは「驚きました」と村田さんは振り返ります。
「受賞のプレスリリースが出ると、しばらく会っていない同期から急にメールが来たりしました。以前この技術を一緒に研究していた人からも連絡が来て、『あのときは苦労したね』と昔話に花が咲きました。表彰式の壇上に立ったのは5人ですが、関わった人たちは本当にたくさんいます。そのみんなが喜んでくれたことが何より嬉しかったです」

図4:表彰式で舞台に並ぶ受賞者および授賞者
(画像提供:日本化学会)
齋藤さんも、多くの祝意を受けたと語ります。
「社内外のいろいろな方から『おめでとう』と声をかけてもらいました。自分が携わったプロジェクトを先へ進め、上市まで持っていく。そのプロセスに関われたことは本当に良かったと思います」
材料の革新でサステナブルな未来を創る
三井化学は企業理念に「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」と掲げています。今回のミペロンは、まさにこの理念を体現した製品だと村田さんは語ります。
「自然界でほとんど分解されないPTFEの代替としてミペロンを使えば、より地球環境に優しい製品づくりが可能になります。さらに、リサイクルの観点でも、ポリエチレンにミペロンを添加するのであれば単一素材の扱いとなるのでモノマテリアル化に貢献できます」
PTFEをミペロンで代替する用途例としては、塗料用途やゴム改質剤が挙げられます。ミペロンを塗料に添加すれば、耐摩耗性、摺動性、耐薬品性が加わり、部材の外観を変えることもできます。また、ゴム改質剤として利用すれば、耐摩耗性、摺動性、耐薬品性を高めながら、硬度調整を行うこともできると齋藤さんは説明します。
「ミペロンは本当に多彩な特性を持っていて、さまざまな分野で活用できます。興味を持っていただけた方は、ぜひ当社のウェブサイトもご覧ください。私たちが想像していない使い道もきっとあるはずです。お客さまと一緒にそうした可能性を切り拓き、社会課題の解決に挑んでいきたいと考えています。どうぞ、お気軽にお問合せください」
三井化学「ミペロン」のウェブサイト
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/uhmw-pe/features/mipelon/
日本化学会 化学技術賞とは
公益社団法人日本化学会は、日本の化学工業の技術に関してとくに顕著な業績のあった人に「化学技術賞」を授与しています。個人を対象としますが、同一業績について5名以内の連名で受賞することができます。「化学技術賞」は同会が表彰している11種類の賞のうちの一つです。
寒竹 泉美(かんちくいずみ)
理系ライター・小説家 九州大学理学部化学科卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。小説を書く傍ら、理系ライター集団チーム・パスカルに所属し、研究者インタビューや理系企業のオウンドメディアを中心に執筆している。
