赤外光をエネルギー資源化! 透明太陽電池を開発―第23回GSC賞文部科学大臣賞 大阪大学 坂本雅典氏【受賞技術から見える未来】

2024/11/28
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太陽光は人類にとって重要なエネルギー源です。しかし、太陽エネルギーのおよそ半分を占める赤外光はこれまで活用されていませんでした。大阪大学教授の坂本雅典さんらは、赤外光を選択的に捕集し、エネルギーに変換できる材料を開発しました。この技術は、これまで困難だった赤外光をエネルギーとして活用するためのブレークスルーとなるものです。この成果により、坂本さんは、第23回GSC賞文部科学大臣賞を受賞しました。

太陽の赤外光は「未開発のエネルギー」

太陽から降り注ぐ光や熱は、地球上の生物が生きていくためになくてはならないものです。また、太陽光発電の普及に伴い、再生可能なエネルギー源としてもますます重要になっています。

太陽光には、紫外光や可視光、赤外光など波長の異なる光が含まれており、およそ半分を可視光、残りのおよそ半分を赤外光が占めています。実は、太陽光発電で主に使われているのは可視光のみで、太陽エネルギーのすべてが利用されているわけではありません。植物が光合成に使っているのも可視光です。つまり太陽の赤外光は「未利用のエネルギー資源」なのです。

赤外光は可視光より波長の長い透明な光で、目には見えません。物質に吸収されて熱を与える性質があり、暖かく感じるためヒーターなどに利用されています。一方、地球レベルで見ると、温暖化の原因となる温室効果ガスが増えるにつれて、赤外光により地球が温められることが、気温上昇の一因にもなっています。そのため、赤外光を有効利用することは、地球温暖化の原因を取り除くことにもつながります。

「いままで赤外光を利用できなかったのは、太陽光の中から赤外光だけを集める技術がなかったからです。また、エネルギーの低い赤外光をエネルギー源として活用するのはむずかしく、これまで研究は進んでいませんでした。どちらも非常に難しい課題ですが、赤外光を有効活用できる技術を開発しようと挑戦してきました」と、坂本雅典さんは話します。

局在表面プラズモン共鳴を半導体に適用し、赤外光を吸収

一つ目の課題は、赤外光だけを集めること。その材料を開発するために、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)と呼ばれる現象とナノテクノロジー(ナノは10億分の1)を応用しました。金属に光が当たると金属中の自由電子が集団的に振動するというプラズマ振動が起こります。これを表面プラズモン共鳴といいます。さらに、金属の表面にナノメートル寸法の凹凸があると、その振動が局在的に起こり、強い電場が発生します。これが、局在表面プラズモン共鳴です。貴金属の表面でLSPRが起こるのは古くから知られており、例えばステンドグラスの赤い色もLSPRによるものです。

半導体でも同じような現象を示すことから、坂本さんらは半導体に注目し、LSPRにより赤外光を吸収する半導体ナノ粒子を開発しました。「LSPRという現象は古くから知られていたものの、さまざまな半導体材料を試したのが私たちの研究成果です。LSPRにより赤外光を吸収する半導体ナノ粒子は世界でも40種類ほどしか見つかっていません」と、坂本さんは続けます。

エネルギー変換の鍵を握るpn接合

次に坂本さんは、集めた赤外光をエネルギーに変換する技術を開発しました。LSPRを示す金属と半導体の界面を用いて赤外光をエネルギーに変換する光触媒はあったものの、エネルギー変換効率が非常に悪く、使い物になりません。そこで、もっとよい光触媒はないかと研究した末に見いだしたのが、硫化銅ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させたLSPR利用可能な半導体ナノ粒子です。この光触媒に光を照射すると、触媒表面に電子と正孔ができ、この電子が水の水素イオンを還元し、水素が生成します。この水素生成効率を調べたところ、これまでの10倍以上と飛躍的に上昇し、赤外光をエネルギー源として活用できる可能性が開けました。

これまでの触媒では、生じた電子と正孔が再結合して消失するため、エネルギー変換効率が悪かったのですが、2種類の半導体をつなぎあわせることで「pn接合*1」という界面ができ、電子と正孔の結合を抑え、飛躍的に効率が上昇したのです。

「pn接合が赤外光のエネルギー変換のカギを握っています。実験結果を見たときは、びっくりしました。間違いじゃないかと思い、実験を繰り返したほどです」と、坂本さんは振り返ります。

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図1:開発した半導体ナノ粒子の透過型電子顕微鏡画像(左)とそれを含む溶液(右)
⁠(画像提供:坂本氏)

透明な太陽電池の実用化を目指す

このナノ粒子の膜をガラス基板の上に作ると、赤外光だけを集める透明なデバイスになります。このデバイスは、赤外光のみを吸収し、目に見える可視光を透過させるため無色透明です。耐久性にも優れていることから、太陽電池として窓ガラスに設置することができます。太陽電池の窓ガラスに覆われた高層ビルを建てれば、都市の真ん中にメガソーラーと呼ばれる大規模発電所を造ることもできるのです。

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図2:透明な太陽電池
⁠(画像提供:坂本氏)

ただし、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池など、別のタイプの太陽電池と比べると、透明性や耐久性などで非常に優れているものの、変換効率がまだ十分でなく、改良を重ねているところです。坂本さんは、株式会社OPTMASS(オプトマス)というベンチャー企業を立ち上げ、産学の連携を通じての早期の実用化を目指しています。

熱線遮蔽フィルムも開発、量産化へ

太陽電池に先駆け、実用化しそうなのが赤外光を吸収する半導体ナノ粒子を用いた熱線遮蔽フィルムです。赤外光を吸収するとは、熱線を遮蔽する効果が高いということ。この特徴に注目したもので、このフィルムを窓に貼ると、赤外光が吸収され、室内に入る熱を減らすことができます。猛暑でも、クーラーをあまり使わずに快適に過ごせ、エネルギーの節約になります。現在、南海電鉄の本社ビルの窓にフィルムを貼り、実証実験を行っています。

「夏の暑い日では、フィルムの貼ってある階と貼っていない階では、3~4℃の差があり、森の中にいるのと砂漠にいるくらいの差がありました。熱線遮蔽フィルムを窓に貼るだけで消費電力が40%近くが削減された例もあります」と坂本さん。実証実験が終わり次第、量産化を進め、「2年後には、ホームセンターに並んでいるくらいにしたい」と、坂本さんは言います。

透明太陽電池で、街を「エネルギーを生みだす森」にしていく

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図3:透明太陽電池が活用される未来社会のイメージ。住宅やビルの窓ガラスに設置。普及すれば街全体が発電所に。燃料も生産できるようになる
⁠(画像提供:坂本氏)

赤外光のエネルギー資源化は、環境負荷を減らしながら再生可能エネルギーを作る一石二鳥の技術です。坂本さんは、透明太陽電池の実用化を目指すとともに、赤外線を用いて水素エネルギーを作りだして使う技術の開発にも取り組んでいます。

いま普及している太陽光パネルの寿命は20~30年といわれ、やがて多くのパネルが寿命を迎えます。そのときまでに、透明太陽電池を実用化させ、街中の窓に普及させたいと坂本さんは言います。

坂本さんが描く未来像は、ビルの窓ガラスが電力を生み、ビルにいる人がその電気を使うというもの。つまり燃料も街の中で作るというエネルギーの地産地消です。「街を森に」をスローガンに、OPTMASS社とともに技術開発を進めています。早期実用化を目指し、さまざまな企業とも情報交換や技術交流をしていきたいそうです。

【注釈】

*1:pn接合
⁠半導体でp型領域とn型領域が接してポテンシャル勾配を形づくっている部分。電気伝導が主に電子によってなされている半導体を「n型半導体」、主に正孔によってなされている半導体を「p型半導体」という。

グリーン・サステイナブルケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、文部科学大臣賞は学術の発展・普及への貢献に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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