カフェイン除去に超臨界! コーヒー製造から溶媒代替へ展開―第23回GSC賞ベンチャー・中小企業賞 超臨界技術センター【受賞技術から見える未来】

2024/12/19
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超臨界技術センター(本社三重県桑名市)は、「超臨界二酸化炭素」を用いたカフェイン除去技術を日本で初めて開発しました。超臨界二酸化炭素とは、温度と圧力を高くして物性を変化させた超臨界流体の一つで、溶解性が高いのが特徴です。この技術では、有機溶媒を使わず、水と二酸化炭素だけでコーヒー豆や茶葉からカフェインを取り除くことができ、風味も保てます。また、使用する二酸化炭素は石油化学工場から排出されたものを精製し利用することから二酸化炭素の有効利用法として注目されています。この成果により、同社は、第23回GSC賞ベンチャー・中小企業賞を受賞しました。

「おいしいデカフェコーヒーがない」が開発のきっかけ

欧米などで広く好まれているデカフェコーヒーの人気が日本でも高まっています。デカフェコーヒーとは、その名の通り、カフェインを取り除いたコーヒーを指します。これまで日本国内には、コーヒー豆をデカフェに加工する施設がなかったため、国外生産されたものが輸入されています。

コーヒー豆からカフェインを取り除く方法には、ウォータープロセスとも呼ばれる水抽出、有機溶媒抽出、超臨界二酸化炭素抽出、液体二酸化炭素抽出があります。有機溶媒抽出はジクロロメタンや酢酸エチルにカフェインを溶出させて除去するもので、デカフェコーヒーの8割に使われていますが、日本では薬品使用コーヒー豆の輸入が禁止されています。

「輸入されているデカフェコーヒーの多くがウォータープロセスによるものといわれています。コーヒー豆を特殊な水溶液に漬けてカフェインを抜くのですが、カフェイン以外の成分も失われることがあり、風味の変化が課題となっています。お問い合せから始まったデカフェ技術の開発ですが、モチベーションとなったのは、同僚の『妊娠中でもコーヒーを飲みたいが、おいしいデカフェコーヒーがない』という一言でした」と、超臨界技術センターの根路銘葉月さんは話します。

液体と気体の性質を併せ持つ超臨界二酸化炭素

超臨界技術センターでは、カフェインのみを取り除き、コーヒーの風味を維持する方法として超臨界二酸化炭素抽出という方法にたどりつき、2016年からデカフェ技術の開発プロジェクトが始まりました。

超臨界二酸化炭素とは、超臨界流体の状態にある二酸化炭素のことです。物質を臨界点以上の温度や圧力の下に置くと、液体と気体の中間のような状態の超臨界流体になります。二酸化炭素では、温度31℃、圧力7.38MPaで超臨界流体になります。

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図1:超臨界状態。圧力と温度が高くなると臨界点に達し、この臨界点を超えると液体と気体の両方の性質を兼ね備えた超臨界流体に
⁠(画像提供:超臨界技術センター)

液体と気体の性質を持ち合わせているので、気体のように隅々まで広がりながら、液体のように物質を溶かします。また、温度や圧力を変化させることによって、溶解性をコントロールできるため、抽出後の成分を分離することも容易です。そのため、超臨界二酸化炭素は、抽出溶媒として利用されてきました。中でも二酸化炭素は有機溶媒のヘキサンと似た性質をもち、環境負荷の高い有機溶媒の代わりとして用いることができます。

超臨界二酸化炭素を使ってカフェインを除く技術は1970年代にドイツで開発されました。風味を保ちつつカフェインを除けることが明らかになったものの、高圧ガスを使うことや設備投資にコストがかかるなどの問題があり、この技術はあまり普及していませんでした。

おいしいデカフェコーヒーを目指す

超臨界技術センターは、名古屋大学で研究されてきた超臨界技術の実用化を目指してつくられた名古屋大学発のベンチャーです。その研究で培われた成果を利用し、コーヒー豆からカフェインを取り除く技術を開発しようとしました。デカフェの工程では、まずコーヒー豆に水を加えて抽出しやすくします。その次に、専用の装置で超臨界二酸化炭素を投入し、カフェインを抽出します。その後、二酸化炭素を気体に戻してカフェインを分離し、二酸化炭素は装置内で循環利用されます。最後にデカフェした生豆を乾燥させます。

「カフェインを抜くだけなら簡単なのですが、風味やおいしさを維持しながらになると難しかったですね。薄いほうじ茶のような味になったりして、理想の味になかなかなりませんでした。デカフェ工程の条件を見直し、試作は2000回以上に及びました。コーヒー豆の焙煎などもプロのロースターやバリスタにご協力をいただきながら、納得する味にするまでには、ずいぶん時間がかかりました。ようやく、妊娠中や授乳中の人でも安心して飲めるおいしいコーヒーができました」と、根路銘さんは開発当時を振り返ります。

こうして、日本で初めて超臨界流体を用いたデカフェ技術「GREEN DECAF PROCESS」が完成しました。この方法だと、コーヒー豆中の成分を失わずにカフェインだけを抽出できるので、味や香りを損ないません。紅茶や緑茶への応用も進めており、デカフェ抹茶も発売しました。

この方法では、有機溶媒抽出のように石油由来の有機溶媒を使わず、ウォータープロセスほどたくさんの水も使いません。また、使用する二酸化炭素は石油化学工場などから排出されるものを利用し、施設内で循環させて再利用しています。環境負荷が低く、二酸化炭素を有効利用できる方法になりました。

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図2:GREEN DECAF PROCESSの流れ
⁠(画像提供:超臨界技術センター)

環境に優しい超臨界技術、有機溶媒の代替で広がる応用先

デカフェに使われた超臨界二酸化炭素抽出は、環境負荷の高い有機溶媒による抽出に代わる技術として研究されています。例えば、有機溶媒を用いるドライクリーニングの代わりに油汚れを落とす、化粧品に用いる顔料を微粒子化する、植物から機能性成分を抽出するといったもの。食品や化粧品、香料、医薬品のみならず身近な事例へも応用が広がっています。化粧品の素材開発では、有機溶媒の使用量を従来法と比べて約93%削減することに成功しました。

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図3:超臨界の適用分野
⁠(画像提供:超臨界技術センター)

また、超臨界技術センターは、ケミカルリサイクル技術にも力を入れています。これは、廃棄物に化学処理を施し、他の物質に転換し、再利用するための技術です。超臨界流体を使うと、薬剤などを使わないでも簡単にプラスチックを分解でき、リサイクルすることができます。

その他、複合材料の分解や炭素繊維・レアメタルの回収、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニール(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)などの有害物質を分解・無害化する技術も開発し、環境問題の解決に技術を応用することを目指しています。

「超臨界抽出では高圧ガスを使うのですが、日本では高圧ガスを使用する規制が厳しく、普及が進まないのが現状です。もう少し普及させたいですね」と根路銘さん。今後は、「抽出したカフェインの利用法を考えていきたいです」。

また、果汁を絞ったあとの果実の残渣から香気成分や機能成分を取り出すこともできます。「香気成分に興味があるので、このような応用にも力を入れたい」と話します。

超臨界流体は、有機溶媒を用いてきたこれまでの化学プロセスに代わる環境に優しい技術として注目され、効率の向上やコストダウンを目指した研究が進められています。

グリーン・サステイナブルケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、ベンチャー・中小企業賞はGSCの推進に貢献する中小規模事業体による業績で、GSCを基盤とする新規な技術・開発品・製品・サービス・システムを満たす社会実装されたものに贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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