レアメタルフリーの燃料電池触媒を開発、脱炭素社会実現に貢献―第23回GSC賞ベンチャー・中小企業賞 AZUL Energy【受賞技術から見える未来】

2025/01/30
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AZUL Energy(本社仙台市青葉区)は、燃料電池など次世代エネルギーデバイス向けの触媒として「AZUL触媒」を開発しました。燃料電池の触媒には、白金などのレアメタルがよく使われていますが、高価な上に発火などの安全性の問題もあるため、代替となる触媒が求められていました。AZUL触媒は青色の顔料からできたもので、高機能なだけでなく、安価で安全という特徴も持ち合わせます。同社はこの触媒の開発で、第23回GSC賞ベンチャー・中小企業賞を受賞しました。

白金などのレアメタルに代わる触媒を

日本は2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする「ネットゼロ」を目標に掲げています。目標達成のためには太陽光発電などの利用を増やす必要がありますが、発電効率の高い燃料電池や空気金属電池の活用も期待されています。

燃料電池は水素と酸素を反応させて発電させる装置です。また、空気金属電池は電極に酸素を用いて発電させる装置です。どちらも酸素還元反応を利用しており、電極には、炭素に白金を固定した触媒が使われています。

白金は、安定で効率よく触媒の機能を発揮することから電池の効率向上に重要な材料としてよく使われます。しかし、レアメタル、つまり希少金属であるためコストが高く、資源の枯渇が懸念されます。また、発火しやすいといった安全性の問題があります。

「埋蔵量は1万トン以上あるのですが、年間生産量が200トンしかないため、この生産量を急に増やすことはできません。また、生産地は南アフリカとロシアに二極化しています。これらの点から供給が不足し、価格が高騰すると懸念されています。そのため、白金に代わる高機能な触媒が求められているのです」と、AZUL Energy代表取締役社長の伊藤晃寿さんは話します。

青色顔料をもとに触媒を研究、「AZUL触媒」を開発

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図1:AZUL触媒とそれを用いた電極部材。粉末状のものやシート状のものがある
⁠(画像提供:AZUL Energy)

「AZUL触媒」は、東北大学材料科学高等研究所教授の藪浩さんらが開発した触媒です。藪さんらは、青色の顔料であるフタロシアニンを用いて、白金に代わる触媒を研究していました。フタロシアニンは血液中のヘモグロビンや植物の光合成に必要なクロロフィルの中心にあるポルフィリンと似た構造をしており、さまざまな金属と結合し、化合物をつくります。その中で、鉄と結合した鉄フタロシアニンは、酸化還元反応の優れた触媒になることを発見しました。

「ヘモグロビンは酸素を運ぶために鉄イオンを使って酸素をくっつけたり、離したりします。鉄フタロシアニンも同様の機能をもち、触媒としての活性を発揮します。生物模倣技術を活用したものといえます」と、伊藤さんは説明します。

さらに、鉄フタロシアニンと構造が似ている鉄アザフタロシアニンは、有機溶媒によく溶け、耐久性が高いことやナノ粒子にすると分散性がよくなることもわかりました。そこで、鉄アザフタロシアニンを分子レベルで炭素の表面に吸着させたところ、白金触媒と同等以上の性能をもつ触媒になることが示されました。

従来の触媒では、炭素に白金のナノ粒子を担持させるプロセスが必要でした。一方、この触媒は有機溶媒に溶解させることが可能なため、炭素にまぶすだけで触媒としての機能を発揮します。焼成プロセスにかかるエネルギーやコストを削減できる上、反応しやすい白金や重金属を使わないので、発火の危険性はなく、人体や環境への負荷が小さいという利点もあります。

青色顔料から作ったことから、伊藤さんや藪さんらは「青」を意味するスペイン語の「AZUL」を冠して「AZUL触媒」と名づけました。

実用化めざし性能・形状を改良、量産化体制も整備

2019年7月、AZUL触媒を実用化するため、東北大学発のスタートアップ企業としてAZUL Energyが設立されました。伊藤さんは、以前は化学メーカーの研究マネージャーを務めていましたが、この技術に大きな可能性を感じ、藪さんやさまざまな技術を持つメンバーと起業しました。

同社は、燃料電池や金属空気電池により適したものになるよう触媒を改良し、実証試験を行っています。また、これまでは粉末だった触媒を、使いやすいシート状に加工したものも開発しました。「実用化するには安価であることも重要です。そのため、顔料メーカーとの協業により既存のプラントを活用し、量産化する体制も整えました」と伊藤さんは続けます。

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図2:AZUL触媒と既存の触媒素材の性能比較。開始電位は酸素還元反応が起こる電位で起電力の性能。半波電位は半分の電流値に達した時における電位で出力の性能を指す
⁠(画像提供:AZUL Energy)

また、大量生産することで、白金などと比較して90%ものコスト削減をかなえられるとのことです。白金の鉱物資源の採掘にかかるエネルギー使用量の削減のほか、二酸化炭素排出量の削減や環境負荷の低減もできます。

「触媒のプラットフォーム」として

「AZUL触媒は、いわば触媒のプラットフォームです」。伊藤さんがこう説明するように、アザフタロシアニンの中心に結合させる金属の種類や置換基を変えて構造を少し変化させることで、異なる特徴の触媒をつくることができます。すでに200種類以上からなるライブラリーがあり、用途に応じて使い分けられるといいます。白金だけでなく、さまざまなレアメタルの触媒に置き換えていくことも可能で、金属や官能基の種類によって組み合わせは無限となります。

材料の力で持続可能な社会への貢献を

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図3:AZUL触媒の可能性。さまざまな場面で使われる電池の触媒として活用されることが期待される
⁠(画像提供:AZUL Energy)

AZUL Energyは、いち早くAZUL触媒の製品化を目指しています。まずは、空気電池の触媒として実用化を進めていますが、将来的には蓄電池や電気自動車など多くの用途に使えるよう、実証試験を繰り返し、ノウハウを集めています。顧客から、「こんな用途で使いたい」と話を受けたとき、すぐ対応できるよう体制を整えているそうです。

「現時点では水素の時代はまだ遠いものですが、2050年までには水素エネルギーの利用が拡大すると考えられます。そのときには、白金の取り合いになる可能性もあります。ですから、いまから先を見据えて触媒の開発を進めておきたいのです。日本は、資源もエネルギーも少ない国。その点、触媒が自国の資源を守ることにもつながるのです。材料の力で、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思います」と、伊藤さんが締めくくりました。

グリーン・サステイナブルケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、ベンチャー・中小企業賞はGSCの推進に貢献する中小規模事業体による業績で、GSCを基盤とする新規な技術・開発品・製品・サービス・システムを満たす社会実装されたものに贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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