潤滑油の基油を植物由来に! カーボンニュートラル実現へ貢献―第23回GSC賞奨励賞 ENEOS【受賞技術から見える未来】
2025/04/01ENEOSは、植物由来の基油を使用した潤滑油を開発しました。エンジンオイルや機械油などの潤滑油は代表的な石油製品の一つですが、その原料を植物由来にすることで低炭素化を実現しました。また、従来品と同等以上の省エネルギー特性を持つため、潤滑油を使用するときに発生する二酸化炭素の排出を削減できます。カーボンニュートラルに貢献する技術が評価され、同社は第23回(2023年度)GSC賞の奨励賞を受賞しました。
製品ライフサイクルでのカーボンニュートラルを目指す
地球温暖化を防ぐために、世界や国内のさまざまな産業で二酸化炭素の排出を抑えることが求められています。ENEOSもカーボンニュートラルに向けて潤滑油の研究開発を進めてきました。
自動車や機械の動作に欠かせない潤滑油は、金属部品の摩擦低減や摩耗防止により、機械の動作などをスムーズにします。摩擦を減らすと余分なエネルギーの消費を抑えられ、摩耗を防ぐと機械や道具を長持ちさせることができます。潤滑油は、ベースオイルとも呼ばれる基油80~90%と、添加剤10~20%からなります。添加剤は潤滑性能や酸化防止性をはじめさまざまな性能を付与するものであり、自動車用、機械用など目的に応じて配合されています。大半の潤滑油では原油を原料とした鉱油が基油に使われています。
「これまでは、基油や添加剤の配合を工夫するなど潤滑油の性能を向上させることで、二酸化炭素の排出抑制に貢献してきましたが、原材料の調達から、生産、流通、廃棄まで製品のライフサイクル全体でのカーボンニュートラル達成のため(図1)、従来技術に加え、基油を植物由来の材料にすることに着目しました」と、潤滑油研究開発部グリースグループの神畑知輝さんが話します。

図1:ENEOS GXシリーズのカーボンニュートラルへの寄与。GXシリーズの詳細については次段落以降参照
(画像提供:ENEOS)
鉱油から植物由来の基油へ、そして製品化
植物由来の材料を基油として使うためには、性能や耐久性に課題がありました。例えば、料理において、揚げ物に使った植物油が黒くなり使えなくなる一因として、植物油中の不飽和脂肪酸が酸化しやすいことが挙げられます。工業分野でも、植物油中の不飽和脂肪酸の酸化による性能低下や、脂肪酸エステルによる機械のシール材や樹脂の劣化が起こります。そこで、さまざまな化学反応により脂肪酸エステルから炭化水素に構造を変えた基油を選定しました。
「ポイントはなるべく石油由来の基油の構造に近いものを採用したことです」と、潤滑油研究開発部工業用潤滑油グループの菖蒲紀子さんが説明します。「私たちはさまざまな植物由来の炭化水素について潤滑油として使えるか判断し、さらに最適な添加剤配合を組み合わせることで、潤滑油としての性能を最大限発揮できるようにしました」と同グループの田川一生さんも続けます。
こうして、植物由来の基油を100%用いた潤滑油の開発に国内で初めて成功しました。
同社は、植物由来の基油を用いて開発した製品群を「GX(Green Transformation)シリーズ」と名づけました(図2)。植物由来(Green)の基油を使用した製品を通して、脱炭素社会への転換(Transformation)を図ろうという意味です。現在は工業用潤滑油、自動車用潤滑油、グリースの3種の製品を販売しており、お客様のニーズに合わせてラインアップ拡充を検討しています。

図2:ENEOS GXシリーズ。左から工業用潤滑油、自動車用潤滑油、グリース
(画像提供:ENEOS)
GXシリーズは原料の植物が成長過程で二酸化炭素を吸収するため、製品ライフサイクルの各段階で排出される二酸化炭素を相殺でき、カーボンニュートラルに貢献できます。そればかりでなく、従来品と同等以上の省エネルギー性能を持っているので、工場内などでの二酸化炭素排出量も削減できます。
また、GXシリーズのカーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)を計算し、一般的な潤滑油・グリースと比較すると、工業用潤滑油で87%、グリースで58%と、大幅に低減できることが示されました(図3)。CFPは、製品のライフサイクル全体で生じる温室効果ガスを、二酸化炭素排出量に換算して示す値です。海外でも注目されており、日本から輸出する製品にCFP報告を義務づけるケースも増えています。

図3:二酸化炭素排出量の比較(2023年試算)
(画像提供:ENEOS)
「たくさんの機械を用いる工場などでは、潤滑油をGXシリーズに変えるだけで最終製品のCFPを下げることができ、その工場が環境に配慮していることを示すことができます。とくに輸出製品では対外的なメリットが大きいと思います」と神畑さん。
サーキュラーエコノミーに近づけたい
石油やガスの開発や石油精製販売が基盤事業のENEOSは、将来を見据え、限りある資源をできるだけ長く、有効利用すること、そして次世代のエネルギーを開発し、エネルギーを安定に供給していくことを目指しています。その一環として、製品そのもの以外の間接的な排出も含めたカーボンニュートラルの実現を目指しています。
そのために、「私たちの事業をできるだけサーキュラーエコノミーに近づけたい」と田川さんは話します。サーキュラーエコノミーは循環経済とも呼ばれ、資源を循環利用しつづけながら、新たな価値を生み出しつづける社会システムをいいます。同社は持続可能な社会の発展に貢献していく姿勢です。
「現在日本では、使用済み潤滑油はそのほとんどが熱資源として有効活用されています。将来的なカーボンニュートラル推進、また省資源国である日本における潤滑油供給安定性の強化のための一つの手段として、使用済み潤滑油を原料とした低炭素基油の製造体制の確立により、日本社会全体の発展にも貢献できればと思います」と、神畑さんが展望を語ります。
菖蒲さんも、「原料になる植物油の種類やGXシリーズの種類を増やしていければと思います。植物油の種類を増やすことは安定供給につながります。性能を高め、GXシリーズを充実させることにより製品が広まれば、より二酸化炭素の排出を削減できます。これからも製品開発に力を注いでいきたいですね」と続けます。
潤滑油は機械や自動車など多くのものに使われており、使用されるエネルギーの種類に関わらず、ニーズが高いことに変わりはありません。循環型社会の実現に向けて、この植物由来の基油を使用したGXシリーズは大きな役割を果たすに違いありません。
グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは
公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、奨励賞はGSCの推進においてその貢献が将来期待できる業績に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。
佐藤 成美(さとうなるみ)
サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。
