130℃が80℃に! 塗料の低温硬化で省エネ・CO2削減に貢献―第23回GSC賞奨励賞 東ソー【受賞技術から見える未来】

2025/02/26
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ポリウレタン塗料は、自動車や建築など幅広い用途で使われています。自動車生産では、塗装後、塗料を硬化させるための焼き付け工程で多くの熱エネルギーを使うことが問題になっていました。この問題に対し、低温でポリウレタン塗料を硬化させるブロック剤を開発し、従来130℃だった加熱温度を80℃に下げることを実現したのが東ソーです。塗装工程におけるエネルギーや二酸化炭素排出量の削減に貢献すると期待され、同社は第23回GSC賞奨励賞を受賞しました。

クルマづくりのCO2排出、4分の1は塗装工程

塗料は、顔料や樹脂、添加剤、溶剤などからなり、そのうちの樹脂は、塗装後に硬化して被膜となって残り、塗料の特徴を決める重要な成分です。樹脂として、「-NH-CO-O-」の構造からなるウレタン結合をもつポリマーが使われた塗料をポリウレタン塗料といいます。ポリウレタン塗料は、光沢が良い、耐久性に優れているなどの特徴があり、自動車のボディや住宅の外壁などさまざまなところに使われています。

ポリウレタン塗料の樹脂には、ポリオールを主剤、イソシアネートを硬化剤として組み合わせたものがよく使われています。二つの液体を混ぜ合わせて樹脂を硬化させる2液型と、ブロックイソシアネートという化合物を用いて1液型にしたものがあります。

東ソーが開発しているブロックイソシアネートは、イソシアネート基をブロック剤の結合で保護したもので、常温では安定していますが、加熱するとブロック剤が離れてポリオールと反応し、ウレタン結合が架橋形成により生じて硬化します(図1)。

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図1:ブロックイソシアネートを用いた硬化
⁠(画像提供:東ソー)

自動車の生産ライン塗装工程では、作業性に優れた1液型塗料が使われており、「塗り」のあと、樹脂を硬化させるための「焼き付け」を行います。そこでは、150℃前後の熱を20~30分与えます。

「焼き付けで大量の熱エネルギーを使い、塗装工程は自動車生産における二酸化炭素排出の4分の1を占めるといわれています。工場の二酸化炭素排出量の削減は、塗装工程の省エネルギーなしには実現できないのです」と、同社ウレタン研究所の中島雄次さんは話します。

低温で硬化を促す触媒を発見

低温硬化ブロックイソシアネートを開発するきっかけは、顧客から「もっと低温で硬化する塗料はつくれないか」と依頼されたことでした。2015年に、国連総会で持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が、また国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21:the 21st session of the Conference Of the Parties)でパリ協定が採択されると、温室効果ガスの削減に向けた動きが活発化してきました。ちょうどその頃の話です。

低温で樹脂を硬化させるためには、イソシアネート基をブロックするブロック剤を換える方法があります。ただし、硬化温度を下げると、今度は常温で反応しやすくなり、安定性が悪くなるという課題がありました。汎用ブロック剤であるメチルエチルケトンオキシム(MEKO:Methyl ethyl ketoxime)の解離温度は130~140℃と高いものの、沸点は150℃と低く、硬化後の樹脂に残らないというメリットがあります。そこで、MEKOを使いつつ、組み合わせる触媒で硬化温度を下げることにしました(図2)。

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図2:低温硬化のために用いたブロック剤と触媒
⁠(画像提供:東ソー)

いろいろな化学物質を検討し、見つかったのが特殊な性質をもつ四級アンモニウム塩でした。「以前、社内の別の研究所で開発した化合物だったのですが、改めて検討したところ、触媒として用いると従来の130℃から80℃に硬化温度を下げることが可能だったのです」と、中島さんは続けます。性能を評価したところ、従来のものより低温であるだけでなく短時間で硬化することや、塗膜物性にも優れていることが分かりました(図3)。

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図3:開発した低温硬化ブロックイソシアネートの性能
⁠(画像提供:東ソー)

ポリウレタン塗料の用途拡大に期待

80℃で硬化する低温硬化ブロックイソシアネートが開発され、自動車塗装への実用化に向けて改良が続けられています。自動車生産に採用されれば、焼き付け工程で消費されていた熱エネルギーを削減でき、二酸化炭素排出抑制につながるのです。

さらに塗料の用途が広がることが期待されています。例えば、プラスチックや木材への適用です。「プラスチックや木材は高温にすると変形するなど耐熱性が悪く、これまで1液型ポリウレタン塗料は使えませんでした。低温硬化ブロックイソシアネートを用いた塗料ならば、使用できるようになりそうです」と、中島さん。また、有害な揮発性有機化合物の発生が問題とされている溶媒系塗料の代わりに需要が増えている水系塗料にも使えるよう検討を進めています。

「塗料が1液型であることも注目されています」と、中島さんは言います。2液型の塗料では、主剤と硬化剤を使用直前に混ぜる必要があり、使える時間も限られていますが、1液型であれば、その必要はなく、作業性が良くなります。また、現場では途中で塗料が足りなくならないように多めに塗料を調整しますが、余った2液型塗料は廃棄するしかありません。1液型なら、必要な分だけ使うことができ、塗料の廃棄を減らすことができるのです。

「低温硬化なら東ソー」と言われるように

日本は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、それに向けた取り組みがますます盛んになっています。低温硬化型ブロックイソシアネートが普及すれば、塗装工程におけるエネルギーや二酸化炭素排出量の削減につながることでしょう。そのためにも東ソーは、塗料メーカーと協力していろいろな用途に使える塗料を開発していこうとしています。

GSC賞受賞後、イソシアネートに対する問い合わせが増え、中島さんはこの技術が注目されていることを実感しているそうです。

「この技術の核は、ポリウレタン樹脂を合成する反応に必要なエネルギーを削減できることです。ポリウレタン樹脂は塗料だけでなく、建築材や衣料などさまざまなところで使われているので、この低温硬化ブロックイソシアネートを広い分野で使うことができます。より多くのエネルギーや二酸化炭素排出量の削減につながるよう、これからも一層の技術開発を進めていきたいですね」

同じくウレタン研究所の安田斉弘さんも、「まずは低温硬化ブロックイソシアネートをできるだけ早く製品化し、多くの人々に使ってもらうことが一番の望みです。自動車以外にも用途が広がるよう日々開発に励んでいます」と話します。

市場の低温硬化への要求は、70℃に、60℃にと、どんどん強まっています。「さらに技術を発展させて、次世代の製品をつくりたいと思います。イソシアネートへの注目が高まり、開発競争が激しくなりそうですが、低温硬化なら東ソーといわれるよう技術をブラッシュアップしていきたい」と中島さんが締めくくりました。

グリーン・サステイナブルケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、ベンチャー・中小企業賞はGSCの推進に貢献する中小規模事業体による業績で、GSCを基盤とする新規な技術・開発品・製品・サービス・システムを満たす社会実装されたものに贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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