DPF詰まり大幅低減! 灰を出さないディーゼルエンジンオイル―第22回GSC賞奨励賞 出光興産【受賞技術から見える未来】

2024/05/28
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出光興産は、金属分を含まない無灰型ディーゼルエンジンオイルを開発しました。エンジン油に含まれる金属系添加剤は、燃焼により灰になり、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF:Diesel
Particulate Filter)を詰まらせます。詰まるとトラブルの要因になることが長年の課題になっていました。無灰型ディーゼルエンジンオイルは、DPFの詰まりを抑制し、メンテナンス業務を軽減させるため、メンテナンスに必要なコストや時間を削減できます。同社はこの成果によって、第22回(2022年度)GSC賞の奨励賞を受賞しました。

エンジン油の金属灰がDPFを詰まらせる

ディーゼル車とは、軽油を燃料にしてディーゼルエンジンで走る車のことです。燃費や動力性能が良いなどの特徴があり、トラックやバスなど大型車で使われてきました。また、二酸化炭素の排出量が少ないなどの特徴も注目され、欧州では人気があります。

一方、ディーゼル車の排気ガスに含まれる粒子状物質による大気汚染や健康被害が懸念され、国内外で規制が進められています。そこで、多くの地域で排気ガスをろ過し、粒子状物質の排出を抑えるディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)の搭載が義務付けられています。

「粒子状物質の成分の一つはすす、つまり軽油の燃えカスです。さらに軽油が燃えるとき、エンジンオイルも一緒に燃えて、金属の灰が残ります。この金属の灰が残りDPFを詰まらせ、トラブルの原因になることが長いこと問題になっていました」と、出光興産潤滑油二部営業研究所上席主任研究員の葛西杜継(もりつぐ)さんが話します。

一般的なディーゼルエンジン油には、ピストン周りをきれいにする金属系清浄剤(カルシウム系)や摩耗を防止する金属系耐摩耗剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP:Zinc
Dialkyldithiophosphate)が配合されされます。これらの添加剤に含まれる金属が灰になり、走行距離が長くなるにつれて、DPFに詰まるのです。DPFに粒子状物質が堆積すると再生という燃焼処理(自動再生や手動再生)が行われ、すすなどを除去することができるものの、金属系添加剤に由来する灰分は燃焼せずにDPFに堆積しつづけます。灰分の堆積は、やがて排気圧の上昇、出力低下などを引き起こし、車両の運行に悪影響を及ぼし最悪車両停止のトラブルにつながります。最終的な対処法は、DPFの洗浄や交換となります。

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図1:灰が蓄積するプロセス
⁠(画像提供:出光興産)

「高速道路の路肩に止まっているトラックを見かけたことはありませんか。あれは、休憩しているのではなく、DPFの再生をしているのです。一度の再生に30分くらいかかりますから、トラックの運転手さんにとってはかなりの時間のロスです。一度の再生で約5リットルの燃料が必要で、コストもかかります」と同社潤滑油二部セールス&マーケティング課の霜崎英紀さんも続けます。

金属系添加剤を別のものに置き換える

エンジンオイルには、目的や使用環境に合わせてさまざまな添加剤が加えられており、ピストン周りのデポジット付着を抑制したり、油中のスラッジを分散させる「清浄分散剤」や摩擦面の摩耗を減らす「耐摩耗剤」には、一般的に金属が含まれています。燃焼室やその一部のピストンは非常に高温となるので、金属系清浄分散剤の熱安定性の良さが向いているのです。それを金属以外のものに置き換えようとするのは、難しいことでした。

「ピストンのまわりは200~300℃にもなりますから、金属系添加剤以外の従来の化合物では高温で分解してしまうのです。実は、金属の代わりになる無灰系添加剤の探索は1990年代から始まっていました」と葛西さん。

東京都でディーゼル車規制が始まった2003年よりも前の1990年代からすでに、金属灰の問題に取り組み、金属の代わりになる物質の探索を始めていました。その後、DPFの装着が義務付けられるなどディーゼル車規制が始まると、本格的に開発を進めました。

「候補化合物は見つかっていたものの、エンジンオイルにはさまざまな添加剤が配合されていますから、それらをどう配合するのか決めるのに苦労しました」(葛西さん)

葛西さんらは、DPFを詰まらせないでエンジンオイルの性能を最大限に発揮させるには、どんな添加剤を選ぶか、それらをどう組み合わせるか、どれくらいの量にするかなどを検討していきました。さらに、さまざまな試験の結果を見ながら添加剤の配合を繰り返し、配合技術を確立しました。

最終的にトラックを実際に走らせる実地試験でエンジンオイルの効果を確認しました。さまざまなユーザーがいることを想定し、試験するトラックや走り方は多種に及びます。例えば、長距離輸送トラックだけでなく、運転のモードが異なる宅配トラックでも試験しました。短い距離を走ったり、止まったりを繰り返す宅配トラックのほうが、長距離トラックよりエンジンの負荷やダメージも大きいのです。

「かなりの台数のトラックで試験しましたが、実地試験でも問題ありませんでした。20年以上もかかって、ついに商品化したのがAshFreeというエンジンオイルです。自信をもって2022年9月に発売を開始することができました。長年積み上げた技術の集大成です」と、葛西さんは話します。

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図2:AshFreeの製品外観
⁠(画像提供:出光興産)

2024年問題の解決に期待、環境意識を高めるきっかけにも

電気自動車の普及が進んでいますが、バッテリーの寿命が短く、一度の充電で走行できる距離も限りがあり、大型のバスやトラックでの本格的な実現はまだ難しいといえます。その点、ディーゼルエンジンは燃費が良いことから、今後もしばらく使われると考えられています。また、運送事業では運転手不足や運転手の高齢化に加え、2024年4月からは運転手の時間外労働の上限規制が適用され、現場では業務効率化など労働環境の改善が求められています。葛西さんたちは、AshFreeがこうした問題の解決につながると期待しています。

発売以来、すでに多くの運送会社などでAshFreeが採用されています。とくに好評なのがコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどへ商品を配送する運送業者などです。市街地を走行するトラックは走ったり止まったりすることが多く、DPFが詰まりやすいという問題を抱えていましたが、DPF再生回数を減らすことができたという声が届いています。

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図3:目詰まり試験後のDPF。エンジン試験後、焼却処理をしたところAshFreeを使った場合は目詰まりを起こしていなかった
⁠(画像提供:出光興産)

「オイルの単価は従来品より高いのですが、労務時間や燃料、DPFのメンテナス代が節約できるので、トラック1台当たりのコストがかなり削減できます。また、メンテナンスに伴う労働時間の削減など、いま直面している足元の課題の解決につながります。東南アジアなどから問い合わせがあり、展示会での評判も良いので各国の状況を見極めながら海外にも普及させたい」と、霜崎さんは言います。

「AshFreeは、開発年数が長いこともあり、思い入れのある商品です。自社ブランド商品なので、お客さんの声を直に聞くことができます。お客さんがエンジンオイルの効果を実感しやすく、その反応がエンジン油を開発するときの刺激になります。GSC賞を受賞し、持続可能な社会の発展に貢献できる技術として選ばれたことが、エンジンオイル開発者が環境問題への意識を高めるきっかけになるといいと思います」と、葛西さんが締めくくりました。

グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、奨励賞はGSCの推進においてその貢献が将来期待できる業績に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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