CNFの新たな製造法を開発! 次亜塩素酸ナトリウムでパルプ解繊―第22回GSC賞奨励賞 東亞合成【受賞技術から見える未来】
2024/04/18東亞合成は、次亜塩素酸ナトリウムを用いたセルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano
Fiber)の製造法を開発しました。CNFは、軽くて強く、再生可能などのすぐれた特性を持ち、植物由来の新素材として注目されてきました。しかし、実用化には、コストや品質の点でまだ課題がありました。新しい製造法は、その課題を解決し、新しい特性をもつCNFを得ることができます。同社はこの成果によって、第22回(2022年度)GSC賞の奨励賞を受賞しました。
軽くて強い新素材ながら、製造コストなどに課題
セルロースナノファイバー(CNF)とは、木材など植物の主成分セルロースを、ナノメートル(1nmは1mmの100万分の1)サイズまで解きほぐしたもの。再生可能でカーボンニュートラルなバイオマス素材として注目されています。
CNFは、鋼鉄の5分の1の軽さでありながら、5倍の強度をもつ「軽くて強い」という特徴をはじめとして、表面積が大きいなどの特徴も持っています。CNFのこれら多くの特徴を、さまざまな分野で応用できると考えられています。例えば、樹脂やゴムに混ぜると、強度を維持しながら軽量化が可能になり、自動車や飛行機の建材として利用できると考えられています。また、保水性があるため、これを利用した食品用増粘剤や創傷被覆材などでも実用化が進んでいます。
まさしく注目の新素材ですが、コストの高いことが実用化へのネックになっています。CNFは、木材の繊維分であるパルプをほぐして作られます。ただし、植物の体内でセルロースは強く結合しているのでほぐしづらくなっています。CNFの製法には、機械処理による方法と化学処理をした上で機械処理する方法がありますが、いずれにしても、ほぐす工程に大きなエネルギーが必要なため、コストがかさむのです。
いま広く使われているのは、酸化剤として2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO:2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-Oxyl Radical)を用い、酸化処理したのち機械処理する方法です。この方法により、物性を損なうことなく容易にCNFを取り出すことが可能になりました。とはいえ、実用化に向けてはコストや品質などまだ多くの課題があります。
「TEMPO法には、コストがかかることやCNFの粘度が高く扱いにくいことが課題にあります。そこで、低コストで扱いやすいCNFを得るべく、新たなセルロース酸化法を開発することになったのです」と、同社R&D総合センター主査の髙田じゆんさんは話します。
新たなセルロース酸化法を開発、「繊維の短さ」が利点に
東亞合成は、TEMPOの代わりに次亜塩素酸ナトリウムによってセルロースを酸化する方法を開発しました。社内では、製品の一つである次亜塩素酸ナトリウムの有効利用法を検討していました。その中で、セルロースの酸化に使えるのではないかというアイデアが出てきたのです。
酸化しすぎてファイバーがぼろぼろになるなど、適切な反応条件を見つけるまでには苦労がありました。そして、ついに開発できた方法で得られたCNFには、「繊維の長さが短い」という特性がありました。その長さは、TEMPO法によるものの3分の1ほど。これは、次亜塩素酸ナトリウムを使うと、TEMPOとは異なる酸化反応が起きるためでした(図1)。

図1:次亜塩素酸ナトリウム酸化による方法。パルプを次亜塩素酸ナトリウムで酸化させる。得られた酸化セルロースは容易にほぐれ、CNFに
(画像提供:東亞合成)
この「繊維の長さが短い」という新しい特性が、予想外に多くのメリットを生み出しました。酸化したセルロースが非常にほぐれやすくなり、機械処理の工程が必要なくなったのです。このことは製造時のエネルギー消費の削減にもつながります。また、CNFが分散しやすくなり、ゲル化しにくくなりました。これによって10%の高濃度でもペースト状の水溶液のままで扱いやすくなりました(図2)。
同社は、この酸化セルロースを「アロンフィブロ」として製品化しました。

図2:CNFの外観。(左)アロンフィブロの2%水溶液(中)他社製CNFの2%水溶液(右)アロンフィブロの10%水溶液
(画像提供:東亞合成)
ゴム添加剤やCNT分散剤などとして高い機能を発揮させていく
アロンフィブロはこれまでのTEMPO法による既存品とは異なる特性があるため、それに応じた用途を開発していくことが重要だと東亞合成は考えています。
同社はまず、ゴムへの添加剤としての用途を視野に入れ、天然ゴムやニトリルゴムに混ぜたときのゴムの補強効果を調べました。TEMPO法による既存CNFでは、ゲル化するため混ざりにくく、混ぜたあとのゴムは固くて切れやすかったのですが、アロンフィブロから得られたCNFはゴムと混ざりやすく、ゴムの強化度も向上しました(図3)。「繊維が短いことが、ゴムとの混ざりやすさにつながりました。これによってゴムとうまく複合化でき、適度な伸びを維持したゴムらしさを失わない強化ゴムを得ることができました」と、髙田さんは説明します。

図3:アロンフィブロCNFと既存CNFのゴム補強効果比較。NRは天然ゴム(Natural Rubber)(画像提供:東亞合成)
また、カーボン・ナノ・チューブ(CNT:Carbon Nanotube)の分散剤としての用途も考えられます。導電性の高いCNTを分散させたインキが、機能性フィルムなどの材料に使われています。アロンフィブロも市販の分散剤と同等の分散性を持ち、導電性に優れているなど、アロンフィブロならではの機能を発揮できることが分かりました。
スプレー剤などを視野に用途拡大へ
「弊社はCNFとしては後発メーカーなので、いままでと違う用途や分野で製品を開発していきたい。例えば、高濃度の分散液でもさらさらしているので、スプレー塗工するような塗工剤への添加が可能ではないかと考えています」と、東亞合成新製品開発事業部セルロースナノファイバー課課長の鈴木裕二さんは話します。
また、「CNFはセルロースに高い付加価値を与えることができます。次亜塩素酸ナトリウムは弊社製で、反応後は塩化ナトリウムになるので環境負荷が少ないというメリットがあります」と、化学メーカーならではの強みを生かしていく考えです。
髙田さんも、「石油ではなく、天然物由来のCNFは環境対応という点で優れており、環境に配慮した製品を使おうという世界の流れにマッチしています。CNFの優れた特性を生かせるような用途をもっと開発していきたい」と、CNFの今後に大きな期待を寄せています。
量産技術も確立し、価格は既存のCNFより大幅に下がるので、使いやすくなりました。多くの人が使うことで用途が広がり、CNFの普及が進めば、炭素循環社会に大きく貢献することになります。
グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは
公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、奨励賞はGSCの推進においてその貢献が将来期待できる業績に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。
佐藤 成美(さとうなるみ)
サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

