炭素数5でバイオ化! 石油由来より高機能なポリウレタンを実用化―第22回GSC賞 経済産業大臣賞 三井化学【受賞技術から見える未来】

2024/02/27
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私たちの身の回りには、塗料や接着剤、ウレタンフォーム、繊維といったように、さまざまなポリウレタン製品があります。三井化学は、ポリウレタン製品の原料になるイソシアネートをバイオ由来で作る方法を開発しました。このバイオ由来イソシアネートは、反応性に優れているため、より低温・短時間で硬化し、ポリウレタン製造時の環境負荷を低減できます。そればかりでなく、耐薬品性や、光沢性などの点で従来品より高機能のポリウレタンを実現します。これらの特性を活かし、自動車のコーティング材やメガネレンズなどに実用化されました。この技術によって、三井化学は第22回(2022年度)GSC賞の経済産業大臣賞を受賞しました。

環境にやさしく、高機能なポリウレタンを

ポリウレタンは、ウレタン結合と呼ばれる分子結合を持つポリマーの総称で、イソシアネートとポリオールなどの原料を反応、硬化させたものです。イソシアネートやポリオールの種類を変えることでさまざまな性質を持たせられるため、広い用途で使うことができます。三井化学は、自動車や家電製品などの基材へのコーティング材、包装用の接着剤、弾性材料などの用途に合わせてポリウレタン樹脂や材料を提供しています。

省エネルギーや再生可能資源の利用などが求められる中、同社はポリウレタン製造においても、低温または短時間で硬化反応をさせる「速硬化性」や、原料を生物由来とする「バイオマス素材の利用」に取り組むことになりました。また、コーティング材料としては、酸性雨や鳥の糞などに対する耐久性や、ハンドクリームなどに対する耐薬品性などが重要であり、これらの性能を向上させることを課題としてきました。

「新しいポリウレタンは、バイオ由来の原料を使い、既存のものより高機能にしたいと考えました」と、同社研究開発本部合成化学品研究所ウレタン材料設計グループ主任研究員の中川俊彦さんが話します。

炭素数5のイソシアネートに注目、高い機能性も見出す

イソシアネートは、「−N=C=O」という部分構造をもつ化合物で、反応性に富むことを特徴とします。ポリウレタン製品の用途に応じて、さまざまな構造のイソシアネートが原料に使われています。

三井化学がこれまで使ってきた石油由来のイソシアネートは、炭素数6のものでしたが、この炭素数を減らすと速硬化性や耐久性・耐薬品性が高まることを開発チームは見つけました。炭素数6未満のイソシアネートのうち、工業化が可能な炭素数5のものに注目しました。

ところが、プロセスの途中で生成されるジアミンの反応収率が低いなどの問題があり、なかなかうまく製造することができません。中川さんらが悩んでいたとき、社内の生体触媒の技術者から「酵素法を使えばよい」というアドバイスがあり、これがブレークスルーになりました。バイオマス由来のLリジンから酵素反応により炭素数5のジアミンを得るというバイオプロセスができました。このジアミンの有機合成プロセスによって、ジイソシアネートや、その一部が他の原子や基に置き換えられた誘導体へと変換します。こうして同社は「スタビオ®」と名付けたバイオ由来C5イソシアネートとその誘導体を製品化しました。

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図1:バイオ由来C5イソシアネート・誘導体の製造法
⁠(画像提供:三井化学)

「スタビオ®から作ったポリウレタンをコーティング材として使う場合、粘度が低いので、有機溶剤使用量を削減できます。また、反応性も高いので、低温や短時間での硬化が可能になり、省エネルギーにつながります」と中川さんは説明します。

さらに、「スタビオ®」から製造したイソシアネートは、バイオマスプラスチックになるだけでなく、その化学構造から、既存のものとは異なる性能を持つポリウレタンになることが分かりました。「その機能性の高さには私たちも驚きました」と中川さん。耐薬品性や耐久性、光沢性などの機能が向上したので、シリコン系太陽電池の背面を保護するバックシートのコーティングや、自動車用の接着剤などに使われています。

高屈折率レンズとしても実用化

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図2:実用化された領域と製品の例
⁠(画像提供:三井化学)

また、イソシアネートの誘導体を工夫することで、ポリウレタンの物性をコントロールでき、軽量で割れにくい透明樹脂や独特のやわらかさのあるゲルなどの新しい素材を作ることができます。ヘルスケア領域では、その特性を生かして、高屈折率レンズとして実用化されました。バイオマス度が35%あり、レンズ材の販売において世界で初めて「バイオマスマーク」の認定を受けた「Do Green™」シリーズの「MR-160DG™」です。

同社合成化学品研究所光学機能設計グループチームリーダーの龍昭憲さんは、「スタビオ®は無黄変性を有するイソシアネートなので、無色透明で品質の良いレンズが得られます。屈折率は1.60と高く、視界もクリアです。耐熱性に優れ、見え方のバランスが良いのも特徴です」と話します。

眼鏡レンズでは屈折率が重要です。屈折率が高いほどレンズの厚みを抑えることができるので、薄くて軽いレンズになりました。同シリーズでは、屈折率1.74の「MR-174DG」も製品化されています。「MR-160DG™は高い染色性も有しているので、高機能な度付きサングラスのレンズにもなります」と、龍さんは続けます。

切磋琢磨しながら持続可能な社会を目指したい

バイオマスを使った樹脂材料は他にも開発されていますが、今回、三井化学が開発した技術は、環境に配慮したバイオ製品としてのニーズと機能向上というポリウレタン製品としてのニーズの両方に応えたものといえます。

同社は、他の製品にはない高機能な特徴をさらに持たせ、また顧客のニーズに合う製品ができるように、イソシアネート誘導体化などの技術の開発を続けています。今回の方法では、従来品の石油由来材料を用いたプロセスより二酸化炭素の排出量を削減できましたが、さらにイソシアネートと反応させるポリオールもバイオ由来の材料にするなど、環境負荷低減に向けての取り組みを進めています。

龍さんは、「持続可能な社会の発展のためには、現在の生活の質を守りつつ、環境に配慮することが重要です。私たちの開発した技術や製品を今後につなげていきたい」と未来に向けて語ります。

中川さんは、「GSC(人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学)の実現に向け、材料の側面で貢献していきたい。小さな一歩でも積み重ねることが重要と思っています」と話します。そして、「化学工業ではさまざまな材料を使うので、私たちだけで全ての材料を変えることはできません。化学業界において他企業とも切磋琢磨し、お互いに刺激し合うことで、持続可能な社会の発展を目指していければと思います」と、締めくくりました。

グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、環境大臣賞は、産業技術の発展に貢献する、社会実装された業績に贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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