世界初!歯色と同化する修復材で長寿時代を支える―第55回日化協技術賞技術特別賞 トクヤマデンタル【受賞技術から見える未来】

2023/11/07
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歯科材料の開発および製造販売を行うトクヤマデンタルは、「構造色」と呼ばれる発色を利用したコンポジットレジン「オムニクロマ」を世界で初めて開発しました。コンポジットレジンとは、虫歯の治療をしたときの白い詰め物です。これまで、歯科医師が治療対象の歯の色に合わせた色調のコンポジットレジンを選択して使用していましたが、オムニクロマにはその必要がなく、この製品だけで患者の歯の色に合うようになります。これまでの常識を覆す技術に世界中が注目。同社は日本化学工業協会の2022年度「日化協技術賞 技術特別賞」を受賞しました。

歯の色は人によりけり、詰め物の色合わせは難題

虫歯の治療では、削った虫歯の部分に詰め物をして修復します。詰め物として、いま最も広く使われているのがコンポットレジンです。

コンポジットレジンは、樹脂成分とセラミックやガラスなどの微粒子とからなる有機無機複合材料です。主に歯の切削量が少ない症例で用いられ、その日のうちに治療が完結することや審美的に修復できることから、日々の臨床現場で最も使用されている材料の一つです。実際の治療では、虫歯の部分を削ったところに歯科用のボンディング材で処理を行い、コンポジットレジンを充填し、光を照射して固め、磨いて仕上げます(図1)。

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図1:コンポジットレジン。コンポジットは「複合」を意味し、レジンは「樹脂」を意味する。樹脂成分と無機フィラーと呼ばれるセラミック粒子などを含む複合材料がコンポジットレジンである
⁠(画像提供:トクヤマデンタル)

これは、ごく一般的な治療法ですが、治療後、充填部位の色が周囲の歯の色と違って見えたり、何年か経つと合わなくなったりすることがあります。歯の色は一般的には「白」と表現されますが、個人によって茶色がかったり、灰色がかったりと千差万別です。また、透明度についても違いがあります。さらに、同じ人でも年をとるにつれて歯が変色することが知られており、治療したときは色調が合っていても、その後合わなくなることがあります。

歯科医師は歯の色を判別するための色見本として「シェードガイド」と呼ばれる器具を使用しており、最も普及しているVITA社の色見本「VITA classical A1-D4 shade guide」では、歯の色が16種類に分類されています。また、コンポジットレジンも30種類以上の色の異なるものが発売されています。歯科医師はさまざまな色のコンポジットレジンから、患者の歯の色に合わせた色調のものを選んで使っているわけです。

しかしながら、天然歯とよく似た色に合わせるのは難しく、技量が必要です。また、コンポジットレジンの使用期限は3年ほどなので、多種のコンポジットレジンを揃え、管理するのは歯科医師にとって大変でした。

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図2:天然歯の色調とシェードガイド。歯の色調は16色に分類されている
⁠(画像提供:トクヤマデンタル)

構造色を応用できないかと試行錯誤

「このような問題を解決し、誰でも簡単かつ審美的に修復できるコンポジットレジンが開発できないかと考えていました」

「オムニクロマ」を開発した一人である同社鹿島工場技術グループ主席の秋積さんはそう振り返ります。2009年のころ秋積さんが着目したのが「構造色」でした。

構造色とは、物体に光が当たったとき表面の微細な構造によって、光が散乱や干渉を起こし、特定の波長の色が強調されて見える現象です。顔料とは発色の原理が異なります。例えば色のないシャボン玉に光が当たって虹色に見えるのもこの現象の一つです。他にモルフォチョウやカワセミなど自然界においてもこのしくみを使って、巧みに発色する生物も知られています。

秋積さんは、同社が製造している球状の無機フィラーの粒子径を変えることで、顔料を含んでいないにも関わらず、粒子径に依存した色を呈するコンポジットレジン、つまり構造色を発現するコンポジットレジンを見つけ、これを応用できないかと考えました。ところが研究を始めたもののなかなかうまく行かず、試行錯誤が続きました。

そしてついに見つけた答えは、歯の色調とコンポジットレジンの出す構造色を足し合わせることでした。

球状フィラーを特定の大きさにすると歯の色に合わせられた

コンポジットレジンは、無機フィラーと呼ばれるセラミック粒子と樹脂とを混ぜ合わせてつくられます。そのときの粒子形状を球状にし、かつ粒子の大きさを均一にすると、粒子径に応じて異なる構造色が現れます。また、半透明の材料で構造色を発現するものは、背景の色に混ざって見えることがわかりました。

そこで秋積さんは、歯の色に合わせて構造色が赤から黄色になるように特定の粒子径に調整した球状フィラーを配合したコンポジットレジンをつくったのです。歯の色調とコンポジットレジンの構造色が混ざると、歯の色に同化した色に見えます(図3、図4)。

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図3:背景色の影響。背景が白だと構造色が認識されにくくなり白く見える。背景に色がある構造色と背景色とが混じった色に見える。これを利用すれば歯の色調に適合する。
⁠(画像提供:トクヤマデンタル)

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図4:人工歯での色調適合性試験。充填硬化後は16色全ての人工歯に対して色調が適合している
⁠(画像提供:トクヤマデンタル)

これによりコンポジットレジンの色を変えることなく、歯の色調に合わせることができるのです。

また、同社つくば研究所主席の森﨑さんも、「粒子径を260ナノメートルにすると幅広い色調の歯に適合することが分かりました。当社には球状フィラーのサイズや構造などをコントロールして製造する技術があります。その技術があったからこそ、オムニクロマを開発することができたのです」と続けます。

トクヤマデンタルはコンポジットレジンの開発を1980年代から行っており、多くの技術や知見を備えていました。歯科材料の実用化には安全性や生体適合性、それに耐久性など多くの条件を満たす必要がありますが、それらもこれまでのノウハウによりクリアすることができました。

歯科材料で「人生100年時代」を支える

こうして、世界初の構造色を利用したコンポジットレジン「オムニクロマ」が誕生しました。この製品を使えば、何種類ものコンポジットレジンを用意して色合わせする必要はありません。また、ホワイトニングなどにより歯の色調が変化しても詰めなおす必要がありません。

これまでの常識を覆す製品として、世界中の歯科業界から注目され、トクヤマデンタルはこれまで多くの賞を受賞しています。また、米国、欧州だけでなく世界各国で発売され、徐々にシェアを伸ばしています。

「構造色は物理現象を利用しており、色あせることがありません。年齢を重ねて歯の色が変わってもその人の歯の色であり続ける。そういう人生100年時代にふさわしい製品や技術を追求していきたいと考えています」と、同社マーケティング部主席の平田さんが話します。

歯の健康は全身の健康につながると考えられ、生涯にわたり食べ物をしっかり噛めるよう適切な治療やメンテナンスが求められています。治療技術とともに材料技術の進歩も歯の健康に貢献し、人生100年時代を支えているのです。

一般社団法人日本化学工業協会(略称 日化協)は、優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰する「日化協技術賞」を設けています。1968年に創設されたこの賞では現在、化学に関連する事業者から業績を公募し、優れた業績に対して総合賞・技術特別賞・環境技術賞の3つの賞を贈り、表彰しています。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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