CO2を固定する強いコンクリート、世界へ!―第55回日化協技術賞 環境技術賞 デンカ【受賞技術から見える未来】
2023/11/282050年のカーボンニュートラルに向けた有力な一手となる「コンクリート用の機能性材料」が見出され、製品化されました。コンクリートに使用するセメントの製造工程には二酸化炭素(CO2)の排出を伴います。その量は世界規模で見ると、産業別で最も多い鉄鋼とほぼ同量で、対策が望まれていました。今回、紹介するデンカは、CO2排出量を削減しつつCO2固定化により高耐久性を付与するセメント・コンクリート用機能性材料「LEAF」を製品化しました。しかも、コンクリートの強度も高くなるとのこと。すでに採用実績も積み重ねています。製品の効果と影響力が認められ、第55回日化協技術賞「環境技術賞」を受賞しました。
多量のCO2排出がクローズアップされ始めたセメント・コンクリート
道路、橋、ビル……。社会インフラにコンクリートは欠かせません。コンクリートの材料の一つであるセメントは、石灰石を加熱してCO2を取り除いて製造されます。そのため、セメント製造時には、加熱エネルギーに加えて、石灰石由来のCO2を排出してしまいます。セメントを多く含むコンクリートは、CO2排出をもたらす材料として対策が求められています。
世界規模で見たとき、産業別のCO2直接排出量におけるセメントの割合は過去20年で増加し、最も多い鉄鋼とほぼ同量です(図1)。

図1:産業別のCO2直接排出量
(出所:2023年7月13日第55 回日化協技術賞受賞講演会 環境技術賞「CO2吸収・固定型コンクリートの実現に資する炭酸化混和材『LEAF』の開発と製品化」)
「新興国ではこれから道路や橋などの社会インフラを構築していかなくてはなりません。世界的に見ると、セメントの需要はまだまだ増加します。私たちが開発したCO2吸収・固定型のコンクリートが世界で必要とされているのです」。こう話すのは、デンカ青海工場の青海サステナビリティー推進部でグループリーダーを務める森泰一郎さんです。
CO2固定化で排出量はマイナスに
そんな悩みの種だったコンクリートが、CO2排出量を減らすどころか、CO2を吸収するというのです。いったい、どのようなコンクリートなのでしょうか。
鍵を握るのは、デンカが開発した炭酸化混和材「LEAF」です。

図2:「LEAF」を用いたコンクリートによるCO2固定化。LEAFは「Long-life, Environment, Add, Functions」の略。工場副産物の消石灰が原料のためCO2排出量ゼロとして計算できる。図内「CO2-SUICOM」(後述)はLEAFを混和させたコンクリート製品で「CO2-Storage Utilization for Infrastructure by COncrete Materials」の略
(出所:2023年7月13日第55 回日化協技術賞受賞講演会 環境技術賞「CO2吸収・固定型コンクリートの実現に資する炭酸化混和材『LEAF』の開発と製品化」)
コンクリート製造時、セメントや高炉スラグ、フライアッシュと共にLEAFを混ぜ(図2左)、型に流し入れます。
そして、粘土くらいに固まったところで型から外し、「養生槽」と呼ばれる室内でCO2ガスに晒します。すると、LEAFの主成分であるダイカルシウムシリケートγ相(γ-2CaO・SiO2。γ-C2Sとも)がCO2ガスと化学反応を起こし、これらが炭酸カルシウム(CaCO3)などになります。この製法でつくったコンクリートは、特定の条件下、製造時に排出されるCO2を差し引いても1m3あたり18kgものCO2を固定できます(図2右グラフ)。
「CO2ガス養生をすると、コンクリートの隙間(図3左写真の黒色部)が大理石の主成分でもあるCaCO3で埋められます。緻密なコンクリートとなり強度も増します」と、同社エラストマー・インフラソリューション部門課長の五十嵐数馬さんは説明します。このコア技術は「強制炭酸化」と呼ばれています。

図3:強制炭酸化(CO2固定化)前後のコンクリート
(出所:2023年7月13日第55 回日化協技術賞受賞講演会 環境技術賞「CO2吸収・固定型コンクリートの実現に資する炭酸化混和材『LEAF』の開発と製品化」)
きっかけはコンクリートの剥落、ヒントは中国の遺跡に
LEAFの研究開発は20年以上年から始まっていました。「当時、鉄道や高速道路のトンネルや橋などからコンクリート片が剥落する事例が発生し、コンクリート構造物の長期耐久性や安全性向上のための対策が行われていました。そのヒントを得るべく、日本の研究者らは古代遺跡の調査を行っていたのです」と五十嵐さん。
中国の大地湾遺跡には、5000年以上前に造られたコンクリート様の建造物がしっかり残っています。人が居住して、その建物内で煮炊きをした際に発生したCO2とその建物に使用されたセメントに似た材料が長年にわたり化学反応した結果、緻密で強いコンクリートになっていたのです。
そこで、詳しく調べてみると、現代のコンクリートに使用されているセメントに近い成分とCO2との反応から大理石のように変化したことがわかったのです。「CO2との反応からコンクリートに高耐久化を付与する炭酸化混和材の研究をしてできたのがLEAFです」と森さん。「世界でも炭酸化混和材を製造販売するのは、デンカだけ。コンクリート以外にもLEAFを使えないかというお声も多くいただき、反響の大きさを実感しています」と五十嵐さんは続けます。
実績上げるCO2吸収・固定型コンクリート「CO2-SUICOM」
デンカは、LEAFを混和させてCO2を吸収・固定化するコンクリートを2008年に鹿島建設などと開発しました。「CO2-SUICOM」として、歩車道境界ブロックや舗装ブロックなどに採用されています(図4)。

図4:「CO2-SUICOM」の使用実績
(出所:2023年7月13日第55 回日化協技術賞受賞講演会 環境技術賞「CO2吸収・固定型コンクリートの実現に資する炭酸化混和材『LEAF』の開発と製品化」)
経済産業省も「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の「カーボンリサイクル・マテリアル産業」にCO2-SUICOMを取り上げています。
2022年度からは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)のグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」も始まりました。プロジェクト実施のため、デンカの他、鹿島建設や竹中工務店などが中心となり、55の企業・大学・研究機関からなるコンソーシアム「CUCO」(Carbon Utilized Concrete)が発足し、技術開発を行っています。
循環型経済も視野に、社会への定着を目指す
目下の課題はコスト削減と、固定化できるCO2量の増加にあります。「CO2-SUICOMのコストは通常のコンクリートの3倍ほど。元々コンクリートは安価なので、すぐ3倍ぐらいになってしまいます。普及するまでは公的な助成制度などが必要だと痛感しています。需要が増えて、大量生産できるようになれば、コストは自ずと下がってきます」と、五十嵐さんは課題と期待を話します。
固定化できるCO2量の増加については、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に取り入れようとする取り組みがあります。砂利や砂の代わりとなる廃コンクリートにCO2を固定化させて、コンクリート材料として再活用するための技術開発が始まっているのです。
森さんは「今後、需要が伸びる海外のインフラ整備にCO2固定化の技術を展開したい」。五十嵐さんは「未来の子どもたちに負荷を残さぬよう、CO2固定化の技術を社会に定着させたい」と抱負を語ります。
CO2固定化の有力な一手として、LEAFやCO2-SUICOMにますます注目が集まりそうです。
一般社団法人日本化学工業協会(略称 日化協)は、優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰する「日化協技術賞」を設けています。1968年に創設されたこの賞では現在、化学に関連する事業者から業績を公募し、優れた業績に対して総合賞・技術特別賞・環境技術賞の3つの賞を贈り、表彰しています。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。
