オンラインとオフラインを分けるなかれ――『アフターデジタル』【厳選本から読み解くDXのツボ 第5回】
2022/02/15
連載の目次
- 第1回:DXの教養ーデジタル時代の求められる実践的知識ー
- 第2回:イラスト&図解でわかるDX
- 第3回:なぜ、DXは失敗するのか?ー「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデルー
- 第4回:中国デジタル・イノベーションーネット飽和時代の競争地図ー
- 第5回:アフターデジタル ーオフラインのない時代に生き残るー
- 第6回:アフターデジタル2 ーUXと自由ー
「自分たちのデジタルトランスフォーメーション(DX)、本当にこれでいいんだろうか。真のDXに取り組んでいるといえるのだろうか」
こう自問自答しながらDXに取り組んでいる方も多いかもしれません。情報が世に溢れすぎていて、なにがDXの正解なのかが見えづらくもなっています。
そうしたなか、明確に「これこそがDXだ」と指南し、多くの読者から「わが意を得たり」と共感を得ている本があります。『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』です。
本書は、「オフラインがなくなる世界の到来」こそが重要な世界の変化だとした上で、企業は「常時オンラインに接続の環境の中でどうビジネスを展開するか」を考えなければならないと伝えます。読者は「この考え方でDXに取り組めば、私たちのDXも真のものだ」と自信をもてることでしょう。
Amazonでは1000件を優に超えるレビューが寄せられ、平均点4.2点と高評価です。「デジタル化の向かう先を明快に言語化している」「発想の基準が変わる一冊」などの感想も見られます。
「なにをしたらよいのか分からない」人に「変革の武器」を
『アフターデジタル』は、コンサルティングサービスなどを行う企業ビービットの藤井保文さんと、情報技術(IT)評論家の尾原和啓さんによる共著書です。藤井さんは2011年にビービットに入社し、台北、そして上海の各支社で現地日系企業にコンサルティングを行うなどしてきました。尾原さんは、NTTドコモの事業支援や、リクルート、Google、楽天といった企業の事業企画などを手がけてきました。

藤井保文・尾原和啓著『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』
(2019年 3月、日経BP刊)
藤井さんは冒頭、著者の一人として「本書は、『デジタルトランスフォーメーション』を行いたいと思いつつも、『なにをしたらよいのか分からない』と悩んでいる方に向けて、『変革の武器』として使っていただくことを想定しています」と明言します。
では、「なにをしたら」と悩んでいる人たちはなにをしたらよいのか。著者の二人が「必要なこと」と提案するのが、「OMO」(Online Merges with Offline)という考え方をもつということです。
「リアルが主、オンラインが従」からの脱却を
OMOは、もともとグーグルチャイナの元最高経営責任者だった李開復氏が提唱した考え方ですが、藤井さん・尾原さんは中国や日本の企業と議論を重ね、OMOをつぎのように捉えるようになりました。
「オンラインとオフラインを融合し一体のものとした上で、これをオンラインにおける戦い方や競争原理と考えるデジタル成功企業の思考法」
OMOのMにあたる“Merge”には「一つになる」の意味があります。これまで、オンラインとオフラインは分けて考えられていましたが、いまはもうモバイル、モノのインターネット(IoT)、センサなどの技術がどこにでもあるため、オンラインとオフラインは一つになったというわけです。
これにより、かつての「リアル(店や人)でいつでも会えるお客様が、たまにデジタルにも来てくれる」といった状況も、いまや「デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる」という状況となりました。この新たな考え方に転換することができるかどうかが最も重要と二人は述べます。
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OMOの考え方に沿ってDXを進めるべきと二人が勧めるのは、主に中国の成功企業がOMOの考え方をとっているからです。
その成功例として、中国平安保険という1988年設立の企業の取り組みを挙げます。従来、保険業では営業員が得た顧客情報こそが重要で、その営業員が辞めると顧客情報もなくなってしまうような世界でした。これに対し、平安保険は、「グッドドクター」という医療・健康アプリをつくり、そこで顧客たちの医療への関心・不安を吸い上げるようにしました。顧客一人ひとりの「ペインポイント」(お悩み)がわかったため、その情報をもとに営業員などが問題解決をやニーズ対応をすることになったそうです。
つまり、「顧客とのリアルなコミュニケーションがあるなかでインターネットをどうビジネスに活用するか」ではなく、「リアルな場所や行動も常時オンラインに接続している環境があるなかでビジネスをどう展開していくか」という考えに転換したわけです。
中国企業のこうしたOMOの好例を紹介する一方で、日本企業については「リアルで顧客と接点があり、たまにオンラインで会える」といった旧来の捉え方にとどまっていると指摘します。
顧客への価値提供スタイルは「寄り添い」へ
書名にある「アフターデジタル」は、藤井さん・尾原さんが、OMOを理解してもらうために考えた造語です。
旧来の、リアル世界が中心で、付加価値的に新たなデジタル領域が広がっているといった図式で表せる状態を「ビフォアデジタル」と呼ぶのに対し、「アフターデジタル」は、リアル世界がデジタルの世界に包含されるという図式で表せるものだと説きます。
アフターデジタル時代のOMOを前提としたビジネスが展開されることで、なにがどう変わるのか。二人は「ビフォアとアフター」の違いも具体的に示します。
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ビフォアデジタルの時代では、企業は顧客に「製品単体」で価値提供するしかありませんでした。ただひたすら「おいしいビールをつくる」といったものです。一方、アフターデジタルの時代では、企業と顧客は常時オンラインでつながっていられるので、顧客に「体験全体」での価値提供が可能になります。ビールを売る前にも顧客におすすめ商品情報を届けたり、売った後もビール熟練度ランキングで顧客を楽しませたりできるわけです。
よく、企業が顧客に提供する価値の変化を「モノからコトへ」と表すことがありますが、二人は、もつべき意識を「モノからコトへ」でなく「モノから寄り添いへ」に変えたほうがよいのではないかと提案します。
頂点はメーカーからプラットフォーマーへ
企業と顧客の関係が「モノから寄り添いへ」になることで、産業構造までも変化すると二人は述べます。
これまでの産業構造は、メーカーがトップにいて、流通や小売店を通していかに売るかといったものでした。しかし、新たに、顧客データを多くもっているプラットフォーマーが主導となり、その下にモビリティなどの体験型の価値提供をするサービサーがいて、メーカーは一番下に位置づけられる構図ができてくるといいいます。
事実、中国では、決済アプリ「アリペイ」を提供するアリババグループや、「ウィチャットペイ」を提供するテンセントなどのプラットフォーマー企業が産業構造のトップにいる構図ができています。
日本だけが昔の産業構造のままということにはならないでしょう。二人は、重要になるのは「自社はこの中でどのポジションを確保するのか」という視点だと、読者に呼びかけます。
OMO視点のDXで、日本企業の特長を伸ばせるかも
「中国のDXはこうして進んでいる」といった事例を多く見せつけられると、「日本には日本のやり方がある!」という感情も生じてしまうものかもしれません。
しかし、アフターデジタルに特徴的な「顧客に寄り添う」は、伝統的に日本企業が大切にしてきた営みです。OMOやアフターデジタルの考えに転換してDXを進めることで、かえって自社の特長を伸ばせるといった日本企業も多くあるのではないでしょうか。
「DXでなにをしたらよいのかわからない」と悩んでいる人に対する、本書『アフターデジタル』でのメッセージは、なによりまず「オフラインとオンラインの主従関係を逆転させること」でした。DXの規矩を得られる一冊です。
『アフターデジタル』から読み解ける「DXのツボ」
- DXでは、オンラインとオフラインを一体のものと考えるOMO(Online Merges with Offline)の考えが必要
- OMOによって、企業は顧客に「製品単体」でなく「体験全体」を提供できるようになる
- メーカー頂点型からプラットフォーマー頂点型の産業構造に変わる中で、自社がプラットフォーマー、サービサー、メーカーのどの位置を確保するか考えることが大切
漆原 次郎(うるしはら じろう)
フリーランス記者・編集者、Chematels副編集長 神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌、経済誌、ウェブニュースなどに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
