中期経営計画の戦略に!「手段としてのDX」ここにあり――AGC株式会社【変革企業に学ぶDXのキモ 第1回】

2021/12/08
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連載の目次

  • 第1回:AGC
  • 第2回:豊田自動織機
  • 第3回:SGホールディングス
  • 第4回:トラスコ中山(公開終了)
  • 第5回:PRISM BioLab

「DX(デジタルトランスフォーメーション)は目的でなく手段であるべき」とよく聞ききます。とはいえ、これだけ「会社にDXを」と連呼されると、つい「DX“を”やらねば」と、DXを目的にしてしまいそうです。一方で、成果を上げる企業の多くは、明確に「DXは目的達成のための手段」と位置づけているもの。今回、取材した素材メーカーのAGCは、まさにDXを企業変革のための主要戦略の一つと位置づけ、競争力の強化、さらには顧客への価値提供を図っています。担当者から「手段としてのDX」のモデルとなるような話を伺いました。

戦略の柱の一つに「DX加速」を位置づけ

「『DXは X by D である』と、社長の平井(良典氏)はよく言っています。DXは、コーポレート・トランスフォーメーション(企業変革)を実現するためのテコであると」

AGC経営企画本部DX推進部の湯浅修一さんはこう話します。つまり、デジタルの手段(D)により変革(X)していく、という意味を込めているわけです。

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AGC株式会社 経営企画本部 DX推進部 企画・管理グループリーダー 湯浅修一さん
(画像提供:AGC、以下同)

「手段としてのDX」という位置づけは同社の経営計画からうかがえます。

同社は、サステナブル社会への貢献や継続的に成長・進化する企業の姿を「2030年のありたい姿」とし、その実現に向け中期経営計画「AGC plus-2023」に取り組んでいるところ。2020年度758億円だった営業利益を、2023年度に1600億円とする目標などを掲げていますが、その戦略として、「“両利きの経営”の追求」「サステナビリティ経営の推進」とともに「DXの加速による競争力の強化」を柱に据えているのです。

DXの進捗を「フェーズ」で捉える

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図1 AGCにおけるDXの方向性

同社は、DXのフェーズ、つまりDXがどの段階にあるかも明確にしています。

「DX推進部が2017年につくられてから3年間はフェーズ1として、オペレーショナル・エクセレンスに取り組んできました」

オペレーショナル・エクセレンスとは一般的に、現場の業務遂行能力が卓越した状態に高まっていることを指します。同社はフェーズ1を、DX実現に向けた基盤づくりと捉えてきました。

「2020年からはフェーズ2に移行し、これまでの取り組みに加え、素材メーカーとして競争基盤を高める取り組みをしています」

同社はこのフェーズ2を、本格的なDXの取り組み段階としています。しかし、「競争基盤の強化」がゴールではないとも湯浅さんは言います。

「最終的には、お客様に新しい価値を提供することをねらっています。デジタル技術により、新しい価値を社会に向けて創造していくという考えでDXを進めています」

トップと現場のハイブリッドな推進

DXが言葉として普及するかなり前からAGCは、生産工程にCAD(コンピューター支援設計)システムを、また研究開発にシミュレーションのシステムを導入するなど、デジタル化を進めていました。そうした素地のある中で、DXをまずはトップダウンで推進したといいます。

「平井は社長就任前、ドイツのインダストリー4.0の動向を見て、工場のスマートファクトリー化を進めていこうと考えました。さらに平井だけでなく、現在のCFO(宮地伸二氏)とCTO(倉田英之氏)もデジタルについての知見があったので、トップ主導で進みやすかった点はありました」

このトップダウンによる推進に加え、2020年ごろからは各事業部門でもDX推進の組織を整備してきたといいます。「ハイブリッドで進める体制ができたのは大きい」と湯浅さん。

人の育成という点でも、業務知識にデジタルスキルを併せもつ「二刀流人材」の育成を進めてきました。

熟練者の強みをAIでさらに強くする

手段としてのDXの実際の取り組み事例はどういったものでしょう。湯浅さんは、まず競争基盤を高める取り組みの一環として、人工知能(AI)を用いた技能伝承システム「匠KIBIT」を挙げます。「熟練技術者のものづくりの知見を、見える化・デジタル化して、共有することができます」。

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図2 AI Q&Aシステム「匠KIBIT」。質問を入力することで、集約したガラス製造の知見を簡単に引き出せる。FRONTEOとの共同開発システム

熟練者の技能をデジタル技術で他者に伝承していくとなると、「人間の出番がなくなる」と想像してしまいがちですが、湯浅さんはそうではないと言います。

「(社員に)アンケートをとった結果、新たな発見があるなどと高評価でした。熟練作業者の技術的な強みをさらに強くするという考えで、『匠KIBIT』を推進しています。みんなで知見を共有する文化がつくられていくことが最も重要だと思います」

また、対顧客の取り組み事例としては、マーケティング・オートメーションによる、こと細かな顧客目線の把握を挙げます。同社はオンライン上の顧客の行動情報を取得できる「Oracle Eloqua」というシステムを導入しています。

「私たちは『アトッチ』という後付け式の省エネガラスを販売していますが、営業活動を効果的・効率的に進めるためにお客様の声をマーケティング・オートメーションで収集・分析しています。お客様との接点が増え、対面営業のみでは得づらい、お客様が製品にどんなことを感じているか理解できるようになりました」

プロセス同士をつないでいくという挑戦

「2030年のありたい姿」を実現するため、さらに手段としてのDXは必要となっていくのでしょう。湯浅さんは、デジタル活用の発展系も描いています。

「複数プロセスをデジタル技術でつなぐことに挑んでいきたい。たとえば、お客様のニーズをマーケティング・オートメーションで把握し、それを研究開発組織にフィードバックする。お客様の望みどおりの素材を開発することに加え、当社独自の生産技術を駆使して製品をつくるといった一連のプロセスを、デジタル技術でつないでいくことを描いています。きっとDXの本質はそういうことなのでしょう。私たちとしてもそれが今後のチャレンジになります」

AGCから学んだ「DXのキモ」

  1. DXは手段。「X by D」である
  2. 目標に対して、DXがどのフェーズにあるかも明確化する
  3. 「熟練者の技術の強みをさらに強くする」という考えでDXに取り組む

漆原 次郎(うるしはら じろう)

フリーランス記者・編集者、Chematels副編集長 神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌、経済誌、ウェブニュースなどに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

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