DXで築く顧客とのウィンウィン状態――SGホールディングス【変革企業に学ぶDXのキモ 第3回】
2021/12/21
連載の目次
- 第1回:AGC
- 第2回:豊田自動織機
- 第3回:SGホールディングス
- 第4回:トラスコ中山(公開終了)
- 第5回:PRISM BioLab
自社で取り組んでいるデジタルトランスフォーメーション(DX)で利を得るのはだれか。これもまた、DXを考える上での重要テーマかもしれません。「自社の利」だけでなく「顧客の利」まで具体的に構想し、自社・顧客のウィンウィン(win-win)の状態を築くこともできます。
物流大手SGホールディングスのDXは、まさにウィンウィンの構築を視野に入れたもの。2020年竣工の「次世代型大規模物流センター『Xフロンティア』」(東京都江東区)内に、通信販売事業者などの電子商取引(EC)を行う事業者が従量課金制で利用できる「シームレスECプラットフォーム」を開設。自動搬送ロボットや自動梱包機などのデジタル技術を駆使した物流システムにより、EC事業者の固定費削減やリードタイム短縮などを実現しています。「DXは顧客やエンドユーザーに向けたものでもある」という考えが基本にあると、広報担当者は話します。
グループで体制を組み、次世代型大規模物流センターを竣工
SGホールディングスはグループ全体のDXの戦略を立案してきました。
同グループのDXの象徴の1つといえるのが、2020年1月に竣工し、2021年3月から本格稼働を始めた次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」です。地上7階建てで、延べ床面積は17万1029平米。東京・渋谷のスクランブル交差点100個近くの広さです。Xフロンティアの中継センターは仕分け処理能力が高いため、関東圏に複数あった中継拠点を集約でき、輸送効率や積載効率が向上しました。中継センターのほかに、国際物流、大型・特殊輸送、ECプラットフォームといったグループ各社の物流機能が集結しています。

図1 2020年に竣工した次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」
(写真提供:SGホールディングス)
SGホールディングス広報ユニットの吉田真希子さんは、Xフロンティアの構想をこう説明します。
「2014年頃からXフロンティアの構想が始まりました。配送網の効率化が求められていた中、中継センター運用の考え方を見直していく必要がありました。また、総合物流企業として倉庫・ロジスティクス業務や国際物流業務なども集約させることで、お客さまに最適なソリューションを提供する機能の必要性も感じていました」
こうした課題意識から、Xフロンティア建設に向けたプロジェクトは始まりました。
Xフロンティアは2021年3月から全面稼働を開始。吉田さんは「グループシナジーの成果が出ています」と言います。
DXの成果を外部のEC事業者にも提供
同グループがEC事業者に向けて、Xフロンティア5階に設置したのが「シームレスECプラットフォーム」です。
EC事業者は事業規模を拡大していくうえで、在庫管理、物流加工、配送手配といった商品発送にかかる業務を外部委託するケースがあります。その場合、設備などの初期投資費や固定費などが大きくなることもあります。
同プラットフォームについて、「EC事業者は最新のロボティクスなどを備えた高度な物流施設を初期投資なしで利用できます。それだけでなく、費用は使った分だけの従量課金制で契約から最短1週間で利用可能であるため、繁忙期の物量増に対応するための補強設備としても活用いただけます。また佐川急便の中継センターにダイレクトにつながっていることから、配送リードタイムの短縮も実現しています」と吉田さんは話します。
また、同プラットフォームのねらいをこう説明します。
「中小規模のEC事業者は増えています。初期投資のお金をかけにくい方々に、当社グループが用意する設備をご利用いただき、使った分だけお支払いただくことで、気軽にプラットフォームを利用し、事業に役立ていただけるのではないかと考えました」

SGホールディングス経営企画部広報ユニットの吉田真希子さん
(写真提供:SGホールディングス)
配送先に国内・海外の分け隔てがない点や、配送プロセスでは大規模ハブセンターヘ直結している点などから「継ぎ目のない」を意味する「シームレス」が冠されているとのこと。
シームレスECプラットフォームの最新設備については、DXの一環で実現した4つの最新技術をEC事業者に提供しています。

図2 シームレスECプラットフォームの4つの最新設備
料金体系などは佐川グローバルロジスティクスのサイトを参照してください
(出所:SGホールディングス発表資料をもとに筆者作成)
「DXの目的は業務効率化のみならず顧客の利便性向上も」
すでに複数のEC事業者に、シームレスECプラットフォームを利用してもらっているといいます。「2020年からのコロナ禍でEC市場が拡大するなか、利用したいというお客さまの声を多数いただいています」と吉田さんは言います。
では、DXの目的とは何か。同グループには、次のような考えがあります。
「私たちのDXの目的は、自らの業務効率化や省人化といった側面もありますが、私たちの業務の先にいるお客さまやエンドユーザーへのサービス品質や利便性の向上を実現することも目的の1つです」
DXに取り組むとなると、自分たちの手で新たな技術やしくみを構築することになるので、「これで自分たちの業務効率化が進む」と期待するのは当然かもしれません。しかし、DXにより自分たちの業務の先にいる顧客にも効果をもたらすことができるという本質的なことを明確に視野に入れることで、DXの成果の生かし方もまた変わってくるのかもしれません。
DX・流通革新は未来へ続く
SGホールディングスグループは、今後も顧客のサービス品質や利便性の向上を目的としたDXに取り組み続けていくとのことです。最近では、伝票情報のデジタル化に取り組み、人工知能を使って、配送伝票の手書き文字を読み取り、システムに自動入力する「AI-OCR」を本格利用しています。この技術も、グループ外の顧客に対して「Biz-AI×OCR」というサービス名で2021年1月に提供を開始しました。
さらに、同グループでは「未来に向けた取り組み」として、無人航空機(ドローン)を活用した物流効率化や、自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発なども、実証実験を実施、計画しています。流通分野の技術革新は、私たちの生活にもよい影響をもたらすことでしょう。
SGホールディングスから学んだ「DXのキモ」
- DXの成果を外部事業者にも提供し、ウィンウィンの関係を構築することができる
- 自社のDXで実現できたことを、それが困難な外部事業者に提供することで顧客ニーズに応える
- DXで目指すべきは、自分たちの事業の先にいる顧客の利便性向上
漆原 次郎(うるしはら じろう)
フリーランス記者・編集者、Chematels副編集長 神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌、経済誌、ウェブニュースなどに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
