もってますか? 技術の先の未来像――『イラスト&図解でわかるDX』【厳選本から読み解くDXのツボ 第2回】

2022/01/25
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連載の目次

  • 第1回:DXの教養ーデジタル時代の求められる実践的知識ー
  • 第2回:イラスト&図解でわかるDX
  • 第3回:なぜ、DXは失敗するのか?ー「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデルー
  • 第4回:中国デジタル・イノベーションーネット飽和時代の競争地図ー
  • 第5回:アフターデジタル ーオフラインのない時代に生き残るー
  • 第6回:アフターデジタル2 ーUXと自由ー

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、どんどん進歩していくデジタル技術を武器に、現在から未来にわたり通用する変革を起こしつづける営みといえます。「いまどうなっていて、なにができるか」もさることながら、「未来はどうなっていて、なにができるか」を思い描くことも、DXを進めるには重要です。

今回、取り上げる『イラスト&図解でわかるDX』はまさに、そんな未来社会のイメージを抱かせてくれる一冊です。著者の兼安暁さんは、これまで200以上のDX案件に携わった経験をもつ、現在はフリーランスのコンサルタント。豊富な経験・知識に裏打ちされているからでしょう、2030年ごろの未来社会の姿をリアリティをもって示します。本文、そしてイラスト・図解による「未来像の提示」こそがこの本の特徴です。本書で未来のイメージを膨らませながら、DXに取り組んでみてはいかがでしょうか。

「工数1/70、コスト1/50」はすでに起きている

兼康さんは、日本企業のほとんどが、世の中の大きな変化を理解していないことに気づき、「勝ち残っていける日本人や日本企業を増やしていくために、あなたのDX(デジタルトランスフォーメーション)を応援したい」という思いから執筆したと述べています。

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兼安暁著・鈴木祥代画『イラスト&図解でわかるDX ―デジタル技術で爆発的に成長する産業、破壊される産業―』
⁠(2019年10月、彩流社刊)

では、「世の中の大きな変化」とはどのようなものでしょう。まず、本書の前半で、「先進的な国や企業はもうここまでやっている」と感じさせる「大きな変化」の事例を数多く示します。

次のような事例は、すでに起きている「変化」です。

北欧の電子立国エストニアでは、戸籍や法人登記情報がすべてブロックチェーンで管理され、ネット上でさまざまな手続きが完了する。登録情報の証跡が自動的に残るブロックチェーン技術により、情報管理が効率化されている。

米国の自動車企業テスラは、生産・出荷する全車のデジタルツイン、つまり実車のデジタル版レプリカをもっていて、走行データがリアルタイムに反映される。走行中に感知されたガタツキなどの情報がデジタルツインに送られ、ソフトウェアの更新プログラムが自動的にダウンロードされて不具合が直る。

おなじく米国の自動車企業ローカル・モーターズは、自動運転の電気バス「Olli」の製造に3Dプリンティングを使い、部品点数を従来の2500点から175点に減らした。結果、工数は従来の70分の1になり、製造コストは5分の1に減らせたという。

もちろんこれらは先進的な行政・企業の事例です。しかし、そこで使われているブロックチェーン、デジタルツイン、3Dプリンタなどの技術は「それまでの競走ルールを変えてしまう可能性があります」と本書は指摘します。ほかにも、既存の産業を脅かすデジタル技術として、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)、スマートスピーカー、バッテリーを挙げています。

技術進歩がつくりだす「滅びる産業」と「伸びる産業」

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これらの技術に脅かされた産業が将来どうなるかといえば、「ディスラプトされて(滅んで)しまう」と明言します。兼康さんが、間もなくディスラプトされると予想するのは、「自動車産業」「火力発電所と電力業界」「教育産業」「小売・流通業」「スマホ関連」「銀行」です。

どれもいまの社会では主要な産業ではありませんか!

本当かと驚かされるばかりですが、兼康さんはこれら産業がディスラプトされる根拠も示します。たとえば、自動車産業については、電気自動車への置き換わりと3Dプリンタ技術の普及により、必要な部品はいまの100分の1まで減り、だれもが車をつくれるようになるといったものです。決して当てずっぽうではありません。

ただし、日本の産業が2030年ごろ実現するであろう技術の影響に気づいて、そうした世界に向けて取り組み始めれば、「再び世界一、二の経済力を取り戻せるかもしれません」とも述べます。

一方で、技術の進展で、これから発展する産業も示します。少しだけ例をお伝えすると、「長寿・美容産業」「都市農業・細胞農業」「宇宙産業」「VR・AR産業」といったものです。

たとえば、長寿・美容産業については、血液一滴からがんを見つけるデバイスがすでに開発されたり、遺伝子治療を支えるゲノム解析のコストが近いうちに1万円まで下がったりして、病気にならない状態を保つことが目指されています。さらに再生医療が毛根の蘇りや肌の若返りといった美容にも応用され、普及していくといった未来へのプロセスを描いています。病や美に対する考え方の変化に伴い、産業が伸びていくというわけです。

目指すな右肩上がり! 目指せエクスポネンシャル!

兼康さんが示すこうした未来予測は、「変化の本質」を理解すれば読者もできるようになるといいます。本書では「変化の本質」を7個ほど挙げていますが、とくに6番目と7番目は衝撃的です。

「6. 右肩上がりで成長する企業は負け組」
⁠「7. 勝者の描く成長曲線はエクスポネンシャル」

これまで「右肩上がり」は、企業が順調に成長を遂げていることを象徴するものでした。ところが、右肩上がりの成長では、これからの時代は「不十分」で「生き残れないといわれています」と兼康さんは警鐘します。

右肩上がりでも不十分なら、なにを目指すのか。ここで、登場するのが、Google、Apple、Facebook、Amazonなどの企業が描いてきた「エクスポネンシャル」という成長のしかたです。「指数関数」を意味するもので、いわば成長の「S字カーブ」の伸びざかりの状態を、たゆまない商品開発やサービス提供を続けることで、ずっと保っていくことを指します。

そして、エクスポネンシャルを実現させるような技術の情報に日々触れることが、変化に適応するだけでなく、変化の先を読んで先回りするための「行動」の一つになると、兼康さんは述べます。

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いかがでしょうか。非常にハイレベルなことが語られているようにも思えます。

しかし、エクスポネンシャルな成長が実現可能かは置いておいても、「時代は右肩上がりからエクスポネンシャルへ」といった変化を意識しておくことは、みなさんが取り組んでいるDXにも、ご自身のキャリア設計にもプラスになるのではないでしょうか。

『イラスト&図解でわかるDX』から読み解ける「DXのツボ」

  1. デジタル技術を駆使した「大きな変化」が世界で起きていることを心得ておく
  2. 技術の進歩が、滅びる産業も成長する産業もつくることを心得ておく
  3. DXによる企業成長を描くときは、右肩上がりでなくエクスポネンシャルのイメージを

漆原 次郎(うるしはら じろう)

フリーランス記者・編集者、Chematels副編集長 神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌、経済誌、ウェブニュースなどに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

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