協業相手と「同じ船に乗って」不良予測AIを開発――豊田自動織機【変革企業に学ぶDXのキモ 第2回】

2021/12/14
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連載の目次

  • 第1回:AGC
  • 第2回:豊田自動織機
  • 第3回:SGホールディングス
  • 第4回:トラスコ中山(公開終了)
  • 第5回:PRISM BioLab

DX(デジタルトランスフォーメーション)では高度な技術が必要にもなります。技術力ある他社と協業してDXを実現しようとする企業も多いことでしょう。今回は「協業によるDX」における「キモ」の話を、自動車部品メーカー大手の豊田自動織機に聞きました。同社は、ドイツに本社があるシーメンスAGとの協業で、カーエアコン用コンプレッサーのアルミダイカスト工程での製品不良を予測する人工知能(AI)を開発し、製造工程での不良大幅削減という成果を出しています。担当者は協業でのDXを振り返り、「同じ船に乗る」というキーワードを挙げました。

「世界1位」支えるダイカスト工程、「不良予測」へ協業を模索

豊田自動織機は、カーエアコン用のコンプレッサー(冷媒圧縮機)の世界シェア1位。エンジンルーム内の幅広い温度変化に加え、外振動を受けつづける過酷な環境のなかで、音・振動・ショックが少なく安定稼働しつづける小型・軽量・省燃費なコンプレッサーを製造しています。

製品のこれら特徴を支えるのが、溶融アルミ材を、圧力をかけて鋳型に注入する「アルミダイカスト」の技術です。これまで同社は、鋳物欠陥である「巣」とよばれる有害な隙間を開けてしまうことのない無含浸の鋳造方法で、高精度な成形を果たしてきました。

*無含浸:隙間などに、薬剤(含浸剤)を圧入し、硬化させて埋める含浸が不要なこと

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アルミダイカスト製法で製造するコンプレサッサー用モーターハウジング
⁠(写真提供:豊田自動織機、以下同)

しかし、2010年代中頃になると、熟練作業者たちによる改善も尽くされるなどして、高品質化は頭打ち状態になりました。当時は、IoT(モノのインターネット)やビッグデータなどがモノづくりにも活用され始めたころ。同社も2014年、これらの技術によるさらなる高品質化に本格的に乗り出しました。

工程の刷新に取り組んだ担当者の一人が、現在ITデジタル推進本部DX推進部に所属する井上雅昭さんです。井上さんらは、ダイカスト工程の測定・分析技術の開発から着手しました。大量の測定データを分析し、これまで実現できなかった「不良予測」の実現を目指したのです。

「ダイカスト工程では通常、成形品の中身が見えません。ダイカスト工程に不良があることは後工程でようやく検出されるのです。それゆえ生産ロスが発生します」(井上さん、以下同)。つまり、事後の不良検出でなく事前の不良予測ができれば、ロスを抑えられるわけです。

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豊田自動織機株式会社 ITデジタル推進本部 DX推進部 井上雅昭さん

測定データの蓄積まではできたものの、同社はデータを高度分析する技術までは持ち合わせていませんでした。検討を重ねた結果、「産業用機器でも多くの実績をもつ、ドイツのシーメンスにアプローチしました」。シーメンスはドイツのインダストリー4.0を支える旗艦的工場を持ち、AIによる解析技術などでも先進的な企業です。

隠さずに伝達することで、海外企業と「同じ船」を実行

海外企業のシーメンスとの初の協業です。井上さんは、協業を進める上で、「同じ船に乗る」をキーワードにしていたと言います。「技術を利用する側・提供するという関係性を超え、一丸となって一つの目標に向けてやっていこうという意味です」

「同じ船に乗る」や「一丸となって」は、言うは易し行うは難しともいえるもの。井上さんらはこれらを実現するため、シーメンスとの間でさまざまな策を立て、実行に移しました。

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ドイツ・ニュルンベルグのシーメンス本社で会する両社担当者たち

まず行ったのは、「目標を共有する」ことです。

「最終目標は『不良を減らす』という明確なもので、もちろん目標には数値もありました。時間や費用をいくらかけてよいわけではないので、KPI(重要業績評価指標)を設定し、合意しました。節目ごとの到達目標も共有しました。途中、データが正確でないと気づいたときは軌道修正もしましたね」

また、「現地現物」を基本とする、密なコミュニケーションを図ったともいいます。

「現場を知らずに分析はできません。幸い、協業開始がコロナ禍になる前だったので、シーメンスの担当者に数回、ダイカスト工程の現場を見てもらいました。我々も先方の技術を把握するためドイツに行きました。リモートで週1回のミーティングも重ねました。コロナ禍以降も、現場をリモート中継で見てもらったり、装置を遠隔操作できるようにして動き方を把握してもらったりしました」

さらに井上さんは、重要だった点として、「包み隠さずに伝えあった」ことを挙げます。

「我々にも至らぬことは多々ありますが、隠したり飾ったりせず、できることも、できないことも正直に伝えました。シーメンスが持っていなかった技術については新たに開発してもらう契約を結んでいましたが、我々の悩みを率直に伝えることで、シーメンスからも、彼らができていないことも正直に伝えてもらえやすくなったと思います」

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シーメンス担当者との実際のミーティング風景

シーメンスからは「まずやってみてから、検討しましょうよ」とたびたび言われたともいいます。承認を得て実行する日本企業とは逆の発想と言えます。「どれもよい提案なのですが、社内でどう承認を得るか悩みました」と井上さん。ただ、担当役員に協業の必要性やDXに対する理解があったので、素早い決裁を得られることも多くあったと話します。

1つの成功体験から全社的なDXへ

豊田自動織機のシーメンスとの協業は進み、2021年4月、製品不良を予測するAI開発の発表に至りました。

実際、このDXで不良を大幅に減らすことができたといいます。

「モデルラインにおいて、ダイカストの射出1回あたり4万点ほどのデータを収集・分析し、熟練作業者でも把握できないような不良要因を特定できました。『不良の予測』ができるようになり、対応のための緊急会議の実施や、対応要員の準備もなくなりました。後工程での不良品回収などの生産ロスも減り、生産性は確実に向上しました」

DXにあたり、現場の技術者や作業者にもその重要性を理解してもらうアクションもとられたといいます。工場の技術者に一時的に別の部署に異動してもらい活動を共にしたり、作業者の困りごとを聞いてシステムや機械装置の改善・改造に反映させたり。DX以前からの、工場と一体となった活動の積み上げが、スムーズな移行につながったのでしょう。

こうして豊田自動織機は協業によりDXの大きな一歩を踏み出しました。2021年6月にはITデジタル推進本部を新設し、全社的なDX推進体制を強化しています。

「今後は横展開をしていくことになります。ダイカスト工程でAIを使うのは難しいと言われてきましたが、成果を出せました。多くの社員に成功体験をしてもらい、会社全体のDXに発展させていければと考えています」

豊田自動織機から学んだ「DXのキモ」

  1. 自社だけでDXが難しい場合は、協業もやり方次第では有効な手
  2. 協業相手とは目標・手段・過程を明確に共有し、「同じ船に乗った」意識で
  3. 自分たちの現状を包み隠さず伝え、相手からも包み隠さず伝えてもらうことが大切

漆原 次郎(うるしはら じろう)

フリーランス記者・編集者、Chematels副編集長 神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌、経済誌、ウェブニュースなどに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

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