金属不使用! 超強塩基の触媒で不斉分子変換反応を実現―第21回GSC賞奨励賞 東北大学 近藤梓氏【受賞者に聞くプロジェクトの秘訣】

2023/07/27
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第21回(2021年度)のグリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)奨励賞を受賞した一人が、東北大学大学院理学研究科准教授の近藤梓氏です。「不斉有機超強塩基触媒を用いた不斉分子変換反応の開発」の業績により受賞しました。近藤さんは、超強塩基を用いた有機触媒を開発し、これまで難しかった不斉分子変換反応を複数にわたり実現しています。金属を使わない有機触媒は、安価で環境にやさしい触媒として注目されています。

鏡像異性体をつくり分ける有機触媒

近藤さんが開発した不斉有機超塩基触媒とは、「超強塩基」を用いた「不斉有機触媒」のことです。超強塩基とは塩基性(アルカリ性)が非常に強い塩基性媒体のこと。また、不斉有機触媒とは、不斉反応と呼ばれる化学反応を促進するための、炭素や酸素、窒素などからなる触媒のことです。

2001年に野依良治氏らがノーベル化学賞を受賞した研究で、不斉反応や不斉触媒といった用語が出てきたのを覚えている人もいるかもしれません。不斉とは、分子などが立体構造に対称性を欠く現象のことを指します。不斉があることにより、鏡像の関係にあって重ね合わすことができない「鏡像異性体」という二つの分子化合物がもたらされます。

鏡像異性体は、「右手と左手」の関係に例えられます。右手と左手では機能が異なることが多く、薬などでは効力や毒性などが異なることがあります。例えば、睡眠薬のサリドマイドの薬害は、催奇形性のある左手型が混在していたために起こりました。こうしたことから、右手と左手の作り分けは医薬品の開発や製造、化学工業ではとても重要です。

野依氏らが開発した不斉触媒は、鏡像異性体の右手か左手だけを合成する触媒を指します。金属を用いた触媒であることから活性が高く、多くの化学反応に使われています。その一方で、金属は高価な上、有害なものが多いのでコストや環境負荷の点で課題視されていました。

これに対し、2000年ごろから研究が盛んになった有機触媒では、金属を用いません。環境負荷が低い上に安定で扱いやすいなど多くのメリットがあり、金属触媒に代わるものとして期待されています。2021年には、ドイツのベンジャミン・リスト氏と米国のデイヴィッド・マクミラン氏が不斉有機触媒の開発でノーベル化学賞を受賞し、いっそう注目が高まっています。

「有機超強塩基」に注目

「私が有機触媒の研究を始めたきっかけは、東北大学の寺田眞浩教授の研究プロジェクトに加わったことです。寺田研究室では主に酸を使った有機触媒の研究が行われていましたが、私は塩基を使った触媒の開発に学生さんたちとともに取り組むことになりました。塩基触媒は課題が明確で、研究できることが多いのではないかと考えたのです」と、近藤さんは振り返ります。

有機塩基触媒は、反応物である基質から、プロトンとも呼ばれる水素イオンを引き抜く「脱プロトン化」の作用のある触媒です。この反応によってできた中間体が求核剤となり、反応が進みます。しかし、現在触媒として使われている有機塩基触媒は塩基性の低いものなので、基質の対象としては、プロトンを引き抜きやすい酸性度の高い化合物に限られています。塩基性を高めれば、より多くの化合物と反応させることができます。つまり、触媒の用途が広がり、汎用性が高まります。

そこで、近藤さんらが目をつけたのが「有機超強塩基」と呼ばれるホスファゼン塩基でした。これはリンに窒素が4つ付いた構造をもつもので、このホスファゼン単位をつなげていくと塩基性が増大します。「有機塩基のチャンピオン」といわれるほど強い塩基性をもちます。

近藤さんらは、この有機塩基の構造に一方の鏡像異性体を選択的に与えるための機能を持たせた触媒分子を設計し、その開発を進めました。光学活性のもたない化合物を触媒によってエナンチオ選択的に反応させれば、光学活性をもつ新たな化合物が得られます。

「有機触媒では、分子の性質を理解し、合理的に構造を設計してやれば、新しい触媒をつくることができます。触媒分子の合成は簡単ではないですが、自分の工夫次第でなんとかなるところがおもしろいところです」と近藤さんは話します。

高難度な分子変換反応に成功

近藤さんらのグループでまず開発したのが「キラルイミノホスホラン触媒」です(図1)。そして、この触媒を用いて、「ジチアン化合物のエネンチオ選択的付加反応」の実現に成功しました。ジチアン化合物は硫黄2個を持つ化合物であり、有機合成におけるビルディングブロックとしてよく使われます。しかし、この化合物は比較的酸性度が低いため、これまでの有機塩基触媒では十分に反応させることができませんでした。これに対し近藤さんらが開発したキラルイミノホスホラン触媒では、高い収率でエナンチオ選択的にジチアン化合物にイミンを付加させることができます。この反応を医薬品などの合成に利用されることが期待されています。

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図1:独自に開発した不斉有機超強塩基触媒
⁠(画像提供:近藤氏)

さらに、図1にあるように、有機超強塩基部位と基質認識部位の二つの異なる機能を持つ塩基性部位からなる「キラルグアニジン-ホスファゼン触媒」(図1左下)や、ウレアのアニオン種の強塩基性とウレアの基質認識能を活用した「キラルウレエート触媒」(図1右)の開発に成功しました。

このほか近藤さんらのグループでは、この触媒を用いて、直接マンニッヒ型反応による連続する四置換不斉中心の構築や、ヘテロアレーンのα位直接不斉修飾といった、これまでほとんど例のない高難度分子変換を実現しています(図2)。

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図2:不斉有機超強塩基触媒による不斉分子変換反応
⁠(画像提供:近藤氏)

「触媒の開発は何の機能もない化合物の段階から始まるので、どんなものができるか予測できません。トライ・アンド・エラーの繰り返しで、苦労してつくった化合物でも、構造がすべて間違っていることもあります。そんなときは、設計に戻って、いちからやり直しです。とくに、キラルウレエート触媒は2年くらいかかって大変でした。基本コンセプトや構造のパーツを見直しながら何度も合成を繰り返す、とても根気のいる研究でした」と、近藤さんは話します。

「多くの人に使ってもらうため改良も進める」

有機触媒の開発には大変な苦労があります。しかし、物質自体は安定なので、方法を見つければ基質や触媒などを混ぜることで簡単に反応が進みます。近藤さんらが開発した超有機塩基触媒でも、これまでにできなかった難しい反応が容易にできることが明らかになりました。

次の段階では、多くの人にこの触媒に興味をもってもらい、使ってもらうことが重要となりそうです。多くの人がいろいろな反応に応用することで、触媒の新たな機能が見つかるなど、可能性も広がります。多くの人に使われ、医薬品開発などで実用化されてこそ、これらの触媒が社会で大いに役立つものになるといえます。

「今回の受賞が、グリーン・サステナブルケミストリーを意識するきっかけになりました。自分たちの触媒に限らず、有機触媒の良さをどんどんアピールしていきたい。また今後は、多くの人に使ってもらうためにも、より使いやすいように触媒の改良も進めていきたいと考えています。実用化に向けて、触媒の大量生産やリサイクル技術なども開発する必要があります。そのためにも産学連携を進めていきたいですね」と近藤さん。これらの触媒に続く、新たな触媒の開発も進めているといいます。

有機超強塩基触媒がどのように発展していくのか、将来が楽しみです。

グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、奨励賞はGSCの推進においてその貢献が将来期待できる業績に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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