火炎噴霧による触媒でCO₂資源化を加速―第21回GSC賞奨励賞 茨城大学 多田昌平氏・山形大学 藤原翔氏【受賞者に聞くプロジェクトの秘訣】
2023/05/23
第21回(2021年度)のグリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)奨励賞を受賞した一組が、茨城大学(現 北海道大学)助教の多田昌平氏と山形大学助教の藤原翔氏です。「火炎噴霧熱分解法を活用した新規固体触媒の開発とCO₂有価物変換への応用」の業績によるもの。金属溶液を火炎中に噴霧し、加熱することで微細な粒子を合成する「火炎噴霧熱分解法」を活用して、カーボンリサイクルに貢献する優れた触媒を開発しました。
注目される二酸化炭素の再利用技術
カーボンニュートラルの実現に向けて、二酸化炭素(CO2)を利用する技術が世界中で注目されています。その一つが、CO2と水素を反応させて、燃料や化学製品の材料となるメタノールを合成する技術です。すでに海外で商業生産が始まりましたが、課題としてプロセスや触媒の改良が求められています。
今回GSC賞奨励賞を受賞した茨城大学(現・北海道大学)助教の多田昌平さんと山形大学助教の藤原翔さんが取り組んだのは、副生成物をできるだけ出さずにメタノールだけを効率よく合成する触媒の開発です。
「CO2からメタノールを合成する場合、生成物のメタノールより原料のCO2の方が安定なので、メタノール合成は難しい反応なのです。既存の触媒では、一酸化炭素(CO)などの副生成物ができることや反応の効率が低いことなどが問題でした。工業化を見据え、性能のよい触媒が求められているのです」と藤原さんが話します。

図1:二酸化炭素(CO2)からのメタノール合成。温室効果ガスであるCO2からメタノールを合成できれば、化学製品の原料や燃料として利用できる
(画像提供:藤原氏・多田氏)
新しい触媒Cu/ZrO2に着目
メタノールの合成触媒を研究している多田さんらは、メタノールを効率よく選択的に合成するため既存触媒の構成を見直し、銅-ジルコニア(Cu/ZrO2)触媒に着目しました。銅粒子をジルコニア粒子に固定させたもので、このような触媒を「固体触媒」といいます。反応後に生成物と触媒を簡単に分離できるので化学工業でよく使われます。ジルコニウムの酸化物であるジルコニアは白色の粉末で、表面積が広いなどの特性から触媒としての用途が広がっています。
この触媒における反応機構を調べてみると、メタノールの合成は銅粒子とジルコニア粒子の界面で起こり、生成したメタノールが触媒の表面で反応して分解すると不要なCOが生成してしまうことが分かりました。
「メタノール分解反応を抑え、触媒能力を高めるためには、反応が起こる銅粒子とジルコニア粒子の界面を増やすことが重要です。そのために銅粒子の大きさをできるだけ小さくしつつ、できるだけたくさん銅を触媒に保持させることで、反応が起こる界面を増やすことができると考えました」と藤原さんは言い、さらにこう続けます。
「その触媒を合成する方法として、ナノサイズの微小な粒子を合成できる火炎噴霧熱分解法が適しているのです」
火炎を利用して粒子をつくる
火炎噴霧熱分解法とは、火炎内の高いエネルギーを利用して、簡便にナノサイズの小さな粒子を合成する技術です。原料の金属溶液を火炎に噴霧すると、原料が燃焼し、微細なナノ粒子ができます。温度や、金属溶液を燃焼させる時間などの条件を変えることで、粒子の大きさや形状などを調節できます。噴霧するだけで連続的に触媒を合成できるので工業的にも優れた方法といえます。
藤原さんは、エネルギーに興味があって、燃焼について研究していました。スイスに留学しているとき、同じ大学に留学していた多田さんに偶然出会いました。帰国後、多田さんから声をかけられ、CO2からメタノールを合成する触媒の開発に取り組むことになりました。
「始めは教えてもらいながら触媒の開発に取り組みました。今回受賞のきっかけとなった触媒は、銅とジルコニアの原料を燃やすだけです。簡単に高性能な触媒の粉末を合成できて、こんなことが起こるんだとびっくりしました」と藤原さんは振り返ります。

図2:火炎噴霧熱分解法。目的の金属を含む溶液を燃焼させると、炎の中で粒子が生成する
(画像提供:藤原氏・多田氏)
触媒を合成する従来法の一つに含浸法があります。これは、触媒を溶かした溶液に担体を浸してから乾燥させるというものです。含浸法でつくった触媒では銅の粒子の大きさは数十nm(1nmは10億分の1m)程で、銅の含有量は20%程度でした。燃焼条件などの検討を重ね、火炎噴霧熱分解法でつくった触媒は、銅の粒子の大きさは10nm以下と小さく、60%という高含有率で銅を保持できました。
また、商用触媒のCu-Zn/Al2O3触媒と同等以上のメタノールを生成する反応速度でありながら、副生成物の生成を抑制できることが示されました。

図3:触媒重量あたりのメタノールとCOの生成速度。火炎噴霧熱分解法で合成した銅-ジルコニア(Cu/ZrO2)触媒を用いた反応(青)は、商業生産で使われるCu-Zn/Al2O3触媒の反応(黒)と同等以上のメタノール生成速度でありながら、副生成生物の生成速度は遅く、COが生成しにくいことが示された
(画像提供:藤原氏・多田氏)
「火炎噴霧熱分解法は、原料の純度は重要でなく、燃やすだけで触媒や酸化物の粒子を簡単に合成できるので、工業化に向いています。今後は、このプロセスの理解を進め、触媒合成のスケールアップを目指したく思います」と藤原さんは言います。
メタノールは石油に代わる物質として有望視されています。再生可能エネルギーを利用した水素や化学工場で排出されるCO2を使ってメタノールを生産できれば、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)の実現にも大きく貢献します。そのためにも、高性能な触媒が待ち望まれているのです。
多田さんの触媒の研究と藤原さんの火炎噴霧熱分解法の研究の成果が融合して生まれた触媒がどのように発展していくのか。今後の行方が楽しみです。
グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは
公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、文部科学大臣賞は学術の発展・普及への貢献に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。
佐藤 成美(さとうなるみ)
サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。
