ガラスを「透明な日傘」に! 世界の省エネに貢献――2021年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門 中小企業庁長官賞 フミン【受賞者に聞くプロジェクトの秘訣】

2022/10/04
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地球温暖化は地球規模での対策が必要な課題です。一方で各国とも産業の発展を止めるわけにはいかず、温室効果ガス排出につながるエネルギー利用が減る兆しはなかなか見えません。そうした中、社会活動を止めずに省エネルギーを行うための救世主ともいえる技術を生み出したのがフミン(福島市)です。2021年度の「省エネ大賞」(概要は末尾参照)の製品・ビジネスモデル部門で中小企業庁長官賞が贈られた技術について、誕生の背景や苦労話、そして今後へ向けた思いなどを代表取締役の八木澤勝夫さんに伺いました。

既存建築物では紫外線・赤外線の対策が困難なことも

地球上に降り注ぐ太陽光線には、光として目に見える可視光線だけでなく、目に見えない紫外線や赤外線などのさまざまな電磁波が含まれています。紫外線は日焼けの元になりますし、赤外線は照らされた部分に熱を生み出します。

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日傘を使うように、日差しを遮ってしまえば紫外線や赤外線などの影響を防ぐことはできます。しかし、屋内にいるときに太陽光を遮られてしまうと、室内が暗くなり快適に過ごすことはできません。

外光を取り入れるために大きなガラスを使う建築物では、紫外線や赤外線をカットするために「Low-E(Low-Emissivity)ガラス」と呼ばれる機能性ガラスや遮熱フィルムを用いた対策が取られています。とはいえ、新築であればともかく、既存の建物では機能性ガラスを取り付けたくても窓枠ごと取り替えが必要だったり、遮熱フィルムを貼ることができない種類のガラスが使われていたりと、対策が困難な場合も少なくありません。

これらの問題点を一気に解消し、建物での省エネルギーに大きな貢献をしたことで2021年度の省エネ大賞を受賞した技術が、フミンの開発した「フミンコーティング」です。

塗布だけでガラスに「日傘」の効果を得られる

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図1:コーティングの有無で効果を比較した実験(赤外線遮蔽効果測定)の結果。使用したランプは東芝ライテック「赤外線照射電球100W」、測定器は京都電子工業「汎用低熱流センサーTR2-B」
⁠(写真提供:フミン)

フミンコーティングは太陽光線に含まれる赤外線と紫外線をカットするガラスコーティング技術です。市販のスプレーガンで既存のガラスに塗布するだけで施工できます。

「狙った波長の光を吸収するための微小な金属粒子を混ぜた液体をガラスに吹き付けて、表面に薄膜を作ることで『透明な日傘』にするんです。ガラス表面に均一な厚さの薄膜を作る技術としては真空蒸着法などがありますが、費用的にもサイズ的にも制約が大きい。私たちは誰でも、そしてどんな場所にでも施工できる技術を生み出しました」。八木澤さんはそう言って胸を張ります。

雨の日の運転中に独自の薄膜生成法への気づきが

市販のスプレーガンで吹き付けるだけで均一な薄膜を作り出すフミンコーティング。その開発の鍵は“雨粒”でした。

「雨の日に車を運転しているとき、霧雨だとフロントガラスにつく水滴で視界が悪くなります。でも雨粒が大きくなると、ガラスに当たった瞬間に水膜が広がって視界を遮らなくなりますよね。この気づきをきっかけに、スプレーガンのノズルを改造して粒径を大きくしたんです。すると予想通り、きれいな薄膜が広がりました。後は、薄膜になった瞬間に固まってくれればいい。これは吹き付ける際に使うブロアー(送風機)の温度や風の強さを変えてみたり、とにかく何度も実験を繰り返して実現しました」

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図2:国立新美術館でのコーティング施工の様子
⁠(写真提供:フミン)

ガラスの種類や形状を問わず施工できるという特徴は、新築だけでなく既存の施設にも導入できるという大きなメリットにつながります。国立新美術館(東京都港区)を覆う4,700m<sup>2</sup>ほどのガラスに施工した際には、施工前年との比較で約18%の年間電力使用量削減につながったと言います。

「遮光フィルムで対策する建物も少なくないですが、建物内が暗くなると今度は照明にエネルギーを使います。私たちの技術は、日差しはそのままに差し込む赤外線をカットすることで発生する熱を抑え、余分な空調を要らなくしています。実はガラス以外にも施工できるので、可能性はまだまだ広がるはずです」

震災を乗り越えて再び注目を集める

元々は職場に発生する結露をどうにかしたいという思いから開発が始まったこの技術は、完成までに丸1年ほどの時間を費やします。「一度火がつくと、頭が休まらないんです。365日会社にいました。手法はもちろんですが、安全面にもとことんこだわりました」

金属の微粒子を混ぜる工程では有機溶媒が使われることが多い中、安全面や環境への負荷を考えて厚生労働省が指定する13種類の揮発性化学物質は一切使用せず、手指消毒にも使用するイソプロピルアルコール(IPA:IsoPropyl Alcohol)でコーティング液を作成しました。また、赤外線と紫外線をカットするための金属粒子についても種類、粒径、配合などを変えて試作を500回重ねた中から、最適な組み合わせを見つけたと言います。

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図3:「IGEM(International Greentech & Eco Products Exhibition & Conference)2010」にて、マレーシア国王に技術紹介
⁠(写真提供:フミン)

技術を確立した後は順調に施工実績を重ね、社会的な反響も徐々に大きくなってきました。その頃に発生したのが、東日本大震災でした。すでに動いている最中だった取引は、一斉にストップしてしまいます。

「この日は、シンガポールで世界的なホテルグループと商談をしていました。全世界の系列ホテルに施工する契約を結ぶ寸前だったのですが、急いで福島へと戻らざるを得ませんでした。以降しばらく、社会的には従来の意味での省エネどころではなくなりました。進んでいた話は一旦全部なくなり、もう終わりだなと思いました。自分の出番はもう潮時かと思っていたときに、省エネルギーセンターから声をかけていただいて、賞へ応募することになったんです。受賞は本当に、このところの時代の流れにちょうど乗っかったのかなと思っています」

この技術を元にさまざまな点で社会貢献していきたい

他に類を見ないフミン独自のガラスコーティング技術は、近年の地球温暖化やヒートアイランド現象への対策推進という追い風も受け、国内・海外問わず再び脚光を浴びています。

「ガラスを使っている建物は、地域に偏りがなく、全国・全世界に広がっていますので、ニーズはたくさんあります。まして海外、特に東南アジアや中東などではいかに太陽からの熱を避けながら快適に暮らすかが喫緊の課題ですからね。ただし、個人的な思いとしては、あまりガツガツはしていません。何よりも自分が考えた技術がしっかりと社会のために、ものになってほしいという思いが強いですね」

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図4:スプレーガンでコーティング作業を行う様子
⁠(写真提供:フミン)

市販のスプレーガンで施工できるこの技術は、特殊な技術などを必要としません。事前にレクチャーさえ受ければ、誰でも施工できるのも特長の一つです。

「このコーティングを施工する現場が増えれば、例えば障害者雇用の観点でも貢献できることがあるでしょう。世に新しい仕事を創り出し、雇用を生むという部分でも、まだまだ貢献できることがあると思っています」

省エネ大賞とは

一般財団法人賞エネルギーセンターは、わが国の産業、業務、運輸の各部門における優れた省エネに関する取り組みや、先進的で高効率な省エネ型製品などを表彰する制度として、「省エネ大賞」を設けています。1990年に創設されました。優れた省エネルギー性を有する民生用エネルギー利用機器・資材およびエネルギー利用システムについて、公募の上、厳正なる審査によって各賞が決められています。

賞のサイト:https://www.eccj.or.jp/bigaward/item.html

本田 隆行(ほんだ たかゆき)

科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)

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