NOX耐性のあるアミンでCO₂を分離・回収―第21回GSC賞 奨励賞 東ソー【受賞者に聞くプロジェクトの秘訣】

2023/04/20
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第21回(2021年度)グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)の奨励賞が贈られた企業の一つが東ソーです。「二環式3級アミンを用いたNOx耐久性CO2分離・回収技術の開発」の業績により受賞しました。同社は発電所などの排ガス中の二酸化炭素(CO2)を効率よく分離・回収できる高性能アミン化合物を開発。排ガスに夾雑物として含まれる窒素酸化物(NOx)に対する耐性を持たせ、安定性を高めている点が特徴です。カーボンニュートラルの実現に貢献する技術と期待されています。

排ガスからCO2を回収、従来法に課題も

地球温暖化対策の重要性が高まり、2020年には政府が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す「カーボンニュートラル宣言」をしました。地球温暖化の原因と考えられている温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンなどがあり、中でも影響が大きいと考えられているのがCO2です。カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2の分離・回収技術が注目されています。

この技術の一つである化学吸収法は、CO2を選択的に吸収するアミンを利用してCO2を分離・回収するもの。まず、吸収塔でアミンを含む吸収液とCO2を含むガスを接触させて、CO2を選択的にアミンに吸収させます。その後、放散塔で吸収液を加熱してCO2を分離し、回収します。アミン吸収液は、熱交換器で冷却された後、再度吸収塔に送られます(図1)。

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図1:アミンを用いたCO2分離・回収法。汎用アミンでは、排ガスに含まれるNOxによってアミンが分解劣化し、CO2の回収能が悪くなるという課題があった
⁠(画像提供:東ソー)

この技術は、発電所の排ガスのようなCO2低濃度のガスからでも高純度でCO2を分離・回収できるというメリットをもたらすため、すでに発電所や工場で利用されています。しかし、エネルギーやコストが掛かるのが大きな課題でした。エネルギーやコストが掛かる理由は、CO2回収に大きな熱エネルギーが必要なこと、そして排ガス中の夾雑物として含まれるNOxによりアミンが劣化し、吸収液の寿命が短いことにあります。回収能が落ちてしまうため、定期的に吸収液の補充が必要でコストが掛かるのです。アミンの劣化をどう防ぐかが課題でした。

構造に着目し、NOx耐性アミンを開発

東ソーはCO2削減技術に取り組み、NOx耐性があり、かつ回収能に優れたアミンの開発を目指しました。「私どもは工業原料としてさまざまなアミン類を製造しています。中でもエチレンアミンについては、国内唯一の生産メーカーとして、アジアでも大きな生産規模を誇っています。これまで培った知見や技術を活用しようと考え、NOx耐性のあるアミンを開発することになったのです」と、同社有機材料研究所所長の木曾浩之さんが話します。

アミンはアンモニア(NH3)の水素原子を炭化水素の残基で置換した塩基性化合物で、置換した基の数により1級、2級、3級に分類されます。分子構造によって多様な性質を示すため、用途に適したアミンをつくることができます。

「アミンは、化学反応によってCO2と結合し、加熱するとCO2を離す性質があるので、CO2の分離や回収に向いています。ただし、NOxと反応すると別の化合物になってCO2と結合しなくなり、回収能力が低下してしまいます。アミンは、溶液の性質などが変わると、構造が変化して反応性も変わります。そこで構造に着目して、いろいろなアミンのNOx耐久性を調べました」と、同社有機材料研究所CO2利用技術開発グループの山本敦さんが続けます。

試行錯誤する中で木曾さん・山本さんらは、「二環式3級アミン」にNOx耐性があることを発見しました。このアミンはかご状の骨格構造をしていて、構造が変化しにくく安定性が高いという特徴をもっています。量産化を見据え、二環式アミンの中でもできるだけ構造が簡単で、性能のよいものを検討し、ついに見出したのが同社が「RZETA」と呼ぶ二環式3級アミンです(図2)。工業的に作るのが難しい構造をしていますが、これまでの技術により量産化に成功し、NOx耐性アミンによるCO2分離・回収技術の実現に向け大きな一歩を踏み出しました。

「社内には、アミンについてよく知っている人が多いので、いろいろな意見を聞くことができ、立ち話でもヒントになることがたくさんありました。素材メーカーの強みかもしれません」と、山本さんは話します。

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図2:RZETAの構造
⁠(画像提供:東ソー)

高い耐久性に「びっくり」

開発したRZETAの性能を、CO2回収用アミンとしてよく使われているN-メチルジエタノールアミン(MDEA)と比較しました。双方をNOxとCO2を含むガスに接触させてみると、MDEAは時間とともに分解していくのに対し、RZETAは120日間分に相当するNOxで処理しても分解せず、高い耐久性を示しました(図3)。さらに、従来品のMDEAは時間とともに劣化し、CO2回収量が落ちましたが、RZETA については90日間分相当のNOxで処理してもCO2回収量がほぼ低下しませんでした。

「従来のものより少し性能が良いだけではだめだと考えて実験を繰り返すなど、NOx耐性の壁を乗り越えるまでグループ一同苦労しました。やっとのことで見つけたRZETAの安定性には信じられないほどびっくりしました。高温にも安定的で、たとえ160℃になっても問題なく使えます」と、山本さんは言います。

こうしてRZETAのNOx耐性とCO2回収能が明らかになりました。これらの性能は、吸収液の長期安定使用や、エネルギー・コストの削減につながります。CO2を放出するとき必要なエネルギーも従来法のMDEAに比べて20%ほど少なくて済むことが分かりました。

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図3:RZETAのNOx耐性とCO2回収能
⁠(画像提供:東ソー、一部改変)

実用化へ、回収CO2の用途を模索

「GSC賞を受賞して、技術の実用化を期待されていることを実感しました」と、山本さんは話します。すでに実証試験を始めており、数年以内にRZETAを用いたCO2 分離・回収技術を実用化したいとのことです。社内でもCO2削減の目標が挙げられており、複数の部署が協力して技術の実用化を進めています。

「もう一つ重要なのが、回収したCO2の使い道です。一部のプラントでは、回収したCO2を別の製造に使う予定ですが、将来は、山口県にある南陽事業所で排出されるすべてのCO2を回収する予定です。回収したそのCO2をどう使うか現在考えているところです」と、木曾さんは言います。

受賞後、社外からの問い合わせが増え、海外からも反響があったといいます。「2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、どこも待ったなしです。今回の製品だけでなく、それぞれのニーズに合うものを開発して、みなさんの期待に応えていきたい」と、木曾さんが抱負を述べました。

グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞)とは

公益社団法人新化学技術推進協会のグリーン・サステイナブル ケミストリーネットワーク会議が、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)分野の推進に貢献する優れた業績を挙げた個人や団体にGSC賞を贈っています。各賞は以下の通りです。三大臣賞(経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、環境大臣賞)。ベンチャー・中小企業賞。奨励賞。うち、文部科学大臣賞は学術の発展・普及への貢献に対して贈られます。GSCは、「人と環境にやさしく、持続可能な社会の発展を支える化学」を追求する世界的な環境運動を指します。

佐藤 成美(さとうなるみ)

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。科学の幅広い分野について一般向けの記事のほか、研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『本当に役立つ栄養学』『「おいしさ」の科学』(以上、講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

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