デジタル活用で水処理の最適化めざす――2021年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門 審査委員会特別賞 オルガノ【受賞者に聞くプロジェクトの秘訣】

2022/11/01
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私たちの暮らしに水の存在は欠かせません。生活用水としてはもちろん、産業の現場でもさまざまな形で水が使われています。水を使う前と後で水を適切に処理する「水処理設備」により、狙った品質の水を安定的に、かつ省エネルギーで生み出すための技術を開発したのが、オルガノ(本社・東京都江東区)です。この技術が評価され、2021年度の「省エネ大賞」(概要は末尾参照)の製品・ビジネスモデル部門で審査委員会特別賞が同社に贈られました。サービスが生み出された背景やその特徴、そして今後へ向けた思いなどを、プラント本部ソリューション推進室の田熊康秀さんに伺いました。

RO膜処理が避けて通れない「ファウリング」という課題

産業の現場では、冷却用や洗浄用などさまざまな用途のために処理された水が使われています。こうした水を使うときは、それぞれに適切な水質となるよう水処理の状況を管理しなければなりません。水処理の方法で、現在よく使われるものの一つが膜処理です。

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図1:生活用品に使われる膜。(左)家庭用浄水器のフィルター。(右)コーヒーフィルター

身近なところでいえば、家庭用浄水器やコーヒーフィルターも水処理を行う“膜”の一つです。この水処理用の膜の中でも高性能なものに、「RO膜」と呼ばれるものがあります。「RO」は、英語の“Reverse Osmosis(逆浸透)”の頭文字からとったものです。

皆さんは浸透圧という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一定以下の大きさの分子だけを通す半透膜という膜で真水と塩水を仕切ると、塩の濃さが薄まるように、真水が塩水のほうへと半透膜を通って移動します。このときに変化した水位に相当する圧力のことを浸透圧といいます。野菜を塩揉みしたら水分が出てくるのも、同じ原理です。この原理を応用して、塩水の側に浸透圧以上の大きな圧力を加えると、塩水側から真水だけが膜を通って移動するのです。この「逆浸透」と呼ばれる現象を利用して水処理を行うための膜なので、RO膜と名付けられています。RO膜を使えば、排水処理や極めて純度の高い超純水の製造だけでなく、狙った成分の濃縮も行うことができます。

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図2:RO膜による水処理と、ファウリング発生の概念図
⁠(画像提供:オルガノ)

RO膜は使われ続けていると、さまざまな付着物によって目詰まりを起こします。中でも厄介なのがスライム状に増殖した微生物によって膜が詰まる「ファウリング」という現象です。田熊さんは、「微生物は増殖してスライム状になり、膜表面や細孔内に付着・堆積します。すると処理できる水量が減ってくるので、更に加圧して処理水を確保しようとします。結果としてポンプの消費電力は上がり、省エネの観点から好ましくない状態になります」と説明します。

この課題を解決するためにオルガノが開発したのが、2021年の省エネ大賞を受賞した技術「オルスマートRO」です。

殺菌剤開発、状態把握、システム導入で省エネを実現

受賞した「オルスマートRO」は、三つの技術的特徴を持つサービスになっています。

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図3:「オルスマートRO」のサービス概要とその効果
⁠(画像提供:オルガノ)

一つ目は、高性能な殺菌剤の導入です。これまでもファウリング対策には、さまざまな殺菌剤が使われてきました。しかし、どれも殺菌力が弱かったり不安定だったり、さらには膜を劣化させてしまったりといった弱点があり、状況に適した薬品注入が難しいという問題点がありました。

「そこで、独自に新開発した殺菌成分を用いた新しい水処理薬品を開発しました。既存の殺菌剤が抱えていた弱点を全て克服した優れた性能を持つものであり、元々ラインナップしていたRO膜用薬品『オルパージョン』シリーズに追加しました」

二つ目の特徴は、ファウリング状態の正確な把握と最適な薬品注入です。これまではRO膜にファウリングが発生している状態を管理しながらの薬品処理ではなく、常に一定量の薬品を注入するという処理が行われていました。しかし、これでは問題を引き起こす微生物が急に増殖しても薬品による処理が追いつかず、結果的に膜の洗浄や交換で対応せざるを得なくなることも少なくありませんでした。そこで「オルスマートRO」では、ファウリング発生状況を正確に把握することで、薬品注入量の自動制御を可能にしたのです。

そして三つ目の特徴が、高セキュリティ遠隔管理システムの導入です。これまでも管理者は遠隔地からインターネットを介して機器類の情報データを確認できましたが、データに基づいて調整作業を行う際にはどうしても作業員を現場に派遣する必要がありました。これに対して「オルスマートRO」では、高セキュリティのネットワークシステムを導入することで、データ確認だけでなく装置の運転パラメータ等を遠隔操作することまで可能になりました。

「これら三つの特徴を駆使することで、RO膜処理設備のファウリング発生を効率よく確実に抑制し、その結果として電力の省エネを実現できたのが『オルスマートRO』というサービスです」と、田熊さんは話します。

「どうにか省エネを」現場の声が開発の原動力

実際に「オルスマートRO」の導入事例を見てみると、その効果ははっきりと数字で確かめられます。導入前後に同じ日数だけ稼働させたRO膜処理設備の管理データを比べてみましょう。

導入前はファウリングの発生によって圧力が上がり続けており、途中に膜洗浄を行っても、またすぐに圧力が上がっています。一方、導入後は低い圧力をほぼ一定でキープできています。

「ファウリングを安定的に抑制しているおかげで、前年度と比較すると消費電力は3割ほど削減できました。それに伴い二酸化炭素排出量も削減できました。さらに、膜洗浄をしなくてよくなった分、洗浄にかかる費用や仕事量も抑えられています。省エネ大賞の受賞は省エネルギーに対して評価されたものですが、それ以外の副次的なメリットもあるわけです」

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図4:「オルスマートRO」導入前後での処理状況の比較。導入後、明らかに水処理のための圧力が下がり、一定になっていることが分かる
⁠(画像提供:オルガノ)

微生物によるファウリングの発生は、RO膜処理を行う上で避けては通れないものです。これまでRO膜処理設備では、だんだんポンプの圧が上がってくると最終的には膜を洗浄したり、最後には交換することが“当たり前”の状態になっていました。

「設備を運営する事業者としては、どうにかして省エネを推進していかないといけません。しかし、省エネする方法には行き詰まっているところもかなり多い状況です。どんなことでもいいから省エネのネタがあればやりたいというところは多いです。この『省エネに対する課題解決』への意識の高まりが、このサービスの開発の出発点です」

水処理設備全体の最適化めざす

デジタル技術を活用してRO膜のファウリングを監視・制御する「オルスマートRO」には、まだまだ発展の余地があると田熊さんは言います。

「RO膜設備全体の管理をデジタル技術で支えることができるよう、サービスを充実させたいと思っています」

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図5:「オルスマート」シリーズの製品展開
⁠(画像提供:オルガノ)

現在はRO膜設備用のサービスである「オルスマートRO」だけでなく、排水処理設備用の「オルスマートCS」や冷却水処理設備用の「オルスマートCW」など、他の水処理設備の製品もシリーズ展開しています。今後は水に関わる設備全体を効率よく運用できるようなシステムとしてシリーズ全体を拡充させることが目標だと、田熊さんは話します。

省エネ大賞とは

一般財団法人省エネルギーセンターは、わが国の産業、業務、運輸の各部門における優れた省エネに関する取り組みや、先進的で高効率な省エネ型製品などを表彰する制度として、1990(平成2)年より「省エネ大賞」を設けています。優れた省エネルギー性を有する民生用エネルギー利用機器・資材およびエネルギー利用システムについて、公募の上、厳正なる審査によって各賞が決められています。

賞のサイト:https://www.eccj.or.jp/bigaward/item.html

本田 隆行(ほんだ たかゆき)

科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)

https://www.sc-honda.com/

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